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『のぼうの城』から六年。四年間をこの一作だけに注ぎ込んだ、ケタ違いの著者最高傑作!

村上海賊の娘(上巻)

和田竜/著

1,728円(税込)

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発売日:2013/10/22

読み仮名 ムラカミカイゾクノムスメ1
雑誌から生まれた本 週刊新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 476ページ
ISBN 978-4-10-306882-2
C-CODE 0093
ジャンル 歴史・時代小説
定価 1,728円

和睦が崩れ、信長に攻められる大坂本願寺。毛利は海路からの支援を乞われるが、成否は「海賊王」と呼ばれた村上武吉の帰趨にかかっていた。折しも、娘の景(きょう)は上乗りで難波へむかう。家の存続を占って寝返りも辞さない緊張の続くなか、度肝を抜く戦いの幕が切って落とされる! 第一次木津川合戦の史実に基づく一大巨篇。

著者プロフィール

和田竜 ワダ・リョウ

1969(昭和44)年12月、大阪府生れ。早稲田大学政治経済学部卒。2003(平成15)年、映画脚本『忍ぶの城』で城戸賞を受賞。2007年、同作を小説化した『のぼうの城』でデビュー。同作は直木賞候補となり、映画化され、2012年公開。2014年、『村上海賊の娘』で吉川英治文学新人賞および本屋大賞を受賞。他の著作に『忍びの国』『小太郎の左腕』がある。

書評

最強の“あまちゃん”海賊

呉座勇一

 織田信長の最大の強敵。それは武田信玄でも足利義昭でもない。全国の一向宗門徒の上に君臨した石山本願寺である。信長と本願寺の十年間にわたる死闘は「石山合戦」と呼ばれた。
 本書は、この戦国最大の合戦を描いたものだが、そこは歴史小説界の新星、和田竜である。覇王信長や雑賀衆の鉄砲大将・鈴木孫市を主人公に据えるような、ありきたりの話は書かない。瀬戸内海の海賊(海の武士)たちを束ね「日本最大の海賊」と称された村上武吉……ではなく、その娘、景が主人公である。
 彼女は男まさりの武術を駆使して海賊働きにあけくれていた。しかし信長の急速な台頭により、戦国乱世は終わりを迎えつつあった。泰平の世に海賊の居場所はないだろう。最後の活躍の舞台を求めるかのように、景は石山合戦の渦中に飛び込んでいく。
 坂東武者、忍び、そして今回は海賊。デビュー以来、和田竜は、独自の価値観を持つ誇り高き自由人が、己の信念を貫くために天下人の巨大権力に挑んでいく姿を好んで描いてきた。特に、『のぼうの城』の、成田家が北条家に従って豊臣政権に敵対するという構図と、本作の、村上海賊が毛利水軍と共同して織田方と戦うという構図は、ぴったり重なる。
 もちろん、右の視点は和田竜のオリジナルではない。時流に抗い、敗れていった男たちをテーマにした歴史小説は多い。私が所属する日本史学界でも、つい最近までは、「明るい中世」が「暗い近世」に否定される、という歴史像が主流だった。大学でまじめくさった講義を行っている歴史学者たちは、存外ロマンチストなのだ。
 和田竜の真骨頂は、非常にスリリングな設定を作るが、それに溺れないところにある。凡百の書き手なら、「滅びの美学」を強調して、安っぽい感動を押し売りしてくるだろう。もしくは、英雄的な主人公が寡兵をもって大軍を破る痛快さだけがウリで読後に何も残らない薄っぺらなエンタメ小説にしてしまうかもしれない。
 和田作品は違う。合戦シーンは血湧き肉躍るものだが、決して華やかではない。むしろ残虐で凄惨ですらある。戦に臨む男たちは勝つためには、生き残るためには手段を選ばない。当時の史料を読んで「現実の武士は時代劇みたいに格好良くはない」と知っている私から見ても、彼らはあけすけなまでに打算的だ。本作では、武士の冷酷さ、戦争の非情さが今までの作品よりも鮮烈に表現されている。
 にもかかわらず、随所にユーモアが挟み込まれるのが和田作品のもう一つの醍醐味で、今回もたっぷり堪能できる。この辺りを漫画的な「軽さ」と見て批判する向きもあるが、逆である。本作に登場する男たちは、身過ぎ世過ぎのために命のやりとりをせねばならない己の運命をも笑い飛ばしている。戦場での諧謔は、乱世の無情を一層際だたせている。
 そして最高に愉快なのは、のぼう様や今回の主人公である景など、「武士の鑑」とは程遠い異端者が、武士の精神を体現するという転倒だ。景は武芸こそ達者だが、女ゆえに本物の合戦に参加したことはない。戦にロマンを求め、青臭い理想を振りかざす“あまちゃん”である。そんな世間知らずのおてんば姫が、戦争の苛酷な実態を目の当たりにしてなお、武士の「常識」を蹴飛ばして己の「正義」を命がけで実現しようとする。その無謀な挑戦に、海千山千の猛者たちが、敵味方問わず巻き込まれていく。それはお涙ちょうだいの悲劇でも、勧善懲悪の英雄譚でもない。「真実」のドラマである。
 私も中世史研究者の端くれなので、「ここは史実と異なる」と指摘しようと思えば、できないことはない。だが、歴史小説で大切なのは、細かい事実関係よりも、時代の「空気」をつかめているか否かだと思う。武士は自分の家を維持拡大するために戦うリアリストである。だが一方で彼らは、時に損得勘定を無視して狂気にも近い侠気を発揮する。このエートスこそが物語の真の主役であり、現代的で親しみやすい文体とは裏腹に、本作はまぎれもなく本格歴史小説なのだ。

(ござ・ゆういち 歴史学者)
波 2013年11月号より

目次

序章
第一章
第二章
第三章

インタビュー/対談/エッセイ

四年をこの一作にかけた。

和田竜

――四年ぶりの新作、なぜ村上海賊だったのでしょうか。

和田 生まれは大阪ですが、生後三カ月で引っ越し、十四歳まで広島市内で過ごしました。両親に周辺の名所旧跡に連れて行かれ、そのひとつが村上海賊のいた瀬戸内海の村上水軍城だったんです。小学生の低学年だったか、その前か、それすら記憶にないんですが、そのとき買ってもらった村上家の家紋入りの赤褌が二階の子ども部屋にあがる階段の壁に飾られ、和田家では村上海賊は格好いい奴らとされ、その刷り込みがありました。書こうと思ったのは、小説家としてデビューして早々の頃のことですが、村上海賊は名前こそ知られているものの、何をやったのか案外知られておらず、『信長公記』などを読んでいると、天下の信長と戦った木津川合戦という史実が出てくる。でも、この合戦そのものを描いた小説は自分の知る限りなく、見過ごされてきた印象があったんです。調べていくと、前哨戦は信長が被弾したり、総大将が討ち死にしたくらいの激戦で、また村上海賊と戦った織田方の主力は眞鍋海賊という、同じく海賊だったと、面白いことがどんどんわかってきました。

――前哨戦から書き起こされ、主役は二十歳の娘、景です。

和田 書くなら、前段階としての信長と大坂本願寺の合戦がその時点で七年目に入り、両者の和睦が崩れたところから始めなくてはと考えました。大坂本願寺の兵糧の受け取り先だった砦を織田方が攻め、次に海上封鎖を試み、支援に乗り出した毛利・村上連合軍と難波海で戦ったと書き進めないと、木津川合戦の実態がわからないし、関わった人間の実像も見えてこないように思えたんです。村上海賊を擁する毛利家が兵力でまさっていたという説もありますが、史料を照らしあわせると、必ずしもそうではなかった。
 また、単純な着想ですが、娘が軍船に乗り、舳先に立って刀を抜いて吠えている姿を書きたいというのがあったんですよね。当時の村上海賊は能島村上家の当主、武吉が瀬戸内海の大半を勢力下に治め、「海賊王」と呼ばれていたんですが、系図を調べると、実の娘の存在が確認できない。血を分けた娘がいなかったら、主人公を変えようとまで考えていたところ、松山大学の山内譲教授の著書に記述があり、先生にお訊きしたら『萩藩譜録』にその記録があると教えていただけた。「海賊王」の実の娘なら反骨で、過激なことをするだろうし、同時代、立花宗茂の妻女が合戦したり、安濃津城で夫を救った妻がいたという逸話もあり、女性が戦いに出るのは特異なことでなく、景をそのような戦国乱世の女性にしました。

――毛利はどちらに味方すれば、家は安泰かと模様眺めをし、織田方の武将たちも信長に従うかどうかで逡巡する。いかに家を存続させるかというのも、テーマのひとつですね。

和田 信長が台頭すると、織田や毛利などの大勢力に従う小勢力が増え、村上海賊も独立を保てた最後の時代でした。個々の武将の考えや人物像は合戦に関する史書だけでなく、生涯を調べ、肉付けしていきましたが、関わった人物があまりに多く、史料を探して読むだけで一年かかり、結果、四年をこの一作に注ぎ込むことになってしまいました(苦笑)。

――「大なるものに靡き続ければ、家は残るが、それはからっぽの容れ物でしかない」と意地を通したり、自分はどうありたいかと自問し、思うさまに生きようとする者に心が震え、シビれるシーンや台詞がいくつもありました。

和田 生まれ落ちたところで課せられるものがあり、他方、それを良しと出来ない自分もいる。そういった葛藤が顕在化し、己を解き放てる、その最たる場が戦国乱世の合戦だったように思います。また村上海賊や眞鍋海賊には束縛されない豪胆さや自由があったのではないでしょうか。

――なかでも際立っているのが景ですね。村上海賊はやはり格好いい。

和田 『忍びの国』で調べたときにも感じましたが、特殊な技を持った職能集団である忍びや海賊は武器が多彩になり、考えや生き方が違ってくるようです。海に生きた者どもが、特有の武器を駆使し、知恵と肉体の限りを尽くして、毛利や織田の単なる先兵としてでなく、自分の戦いを戦うさまも、お楽しみいただければと思います。

(わだ・りょう 作家)
波 2013年11月号より

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