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17歳の赤猪子(あかいこ)は、旅の途中で母親のもとを抜け出した――。

  • 受賞第44回 新潮新人賞

肉骨茶

高尾長良/著

1,512円(税込)

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発売日:2013/02/28

読み仮名 ニクコツチャ
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 126ページ
ISBN 978-4-10-333521-4
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,512円
電子書籍 価格 1,210円
電子書籍 配信開始日 2013/08/23

160cm35kgの高校生・赤猪子は、シンガポール・マレーシアへの旅の途中で母親のもとを抜け出し、友人ゾーイーの海辺の別荘に身を寄せる。それは食べるたびにエネルギーとなり脂肪となって自分の中に蓄積していく、日々の食物から逃れるためだったのだが――。新潮新人賞を最年少受賞、芥川賞候補ともなった衝撃のデビュー作。

著者プロフィール

高尾長良 タカオ・ナガラ

1992年東京生まれ。2012年、「肉骨茶」で第44回新潮新人賞を受賞してデビュー(史上最年少受賞)。「肉骨茶」は第148回、「影媛」は第152回の芥川賞候補作となった。2015年2月現在、京都大学医学部在学中。

書評

波 2013年3月号より 遠吼えが貫く未来

村田沙耶香

「食べる」ということについて考えることがある。どうして自分は豚は食べるのに猫は食べないのか。夕食に鶏肉を買いに行くのに通り道に群がる鳩を狩らないのか。人間は人間を食べないのか。
食べるという行為に私が惹かれるのは、それが一番身近な肉体感覚であるからだと思う。私たちは食材を歯で砕く。食道を通り過ぎていく。食べ終えた後は身体の中に食物の存在を感じる。毎日繰り返すこの行為に伴っている肉体感覚について、度々思いを巡らせている。そんな私のところに、すとん、と落ちてきた物語だ。
主人公は赤猪子という十七歳の少女だ。一六〇センチ、三五キログラム。拒食症の彼女は、母と一緒に海外旅行へ来ている。シンガポールからマレーシアへの入国審査の際、彼女は前々からの計画通り、ツアーを抜け出して友人のゾーイーと落ち合い、彼女の別荘へと逃避する。
こうして書いたあらすじと矛盾するようだが、読み終えてまず思ったのは、ここに描かれているのは本当に「拒食症の少女」の物語だったのだろうか、ということだ。彼女は食べて吐くタイプの拒食症ではなく、ひたすらに食事を避け、母の弁当はトイレへ流して捨て、やむをえず食べてしまったときには懸命に動き回ってカロリーを消費しようとする。
これらの彼女の行動は拒食症そのものだが、彼女の拒食の理由ははっきりと描かれていない。そのため、主人公の心の中ではなく、彼女の得ている肉体感覚だけが物語を突き進めていっているような印象がある。
赤猪子は度々、下腹に力を込め、「遠吼え」という不思議な音を発する。腹から発されるこの言語ではない声は、一体私たちに何を示しているのだろうか。
物語の終盤、ゾーイーの幼馴染の鉱一が赤猪子の肉体に触れる描写がある。そのとき、彼女の肉体は、「痩せこけた拒食症の少女の肉体」ではなく、初めて出会うまったく新しい生物を描写するかのような言葉で表現されている。その姿は病的な感じより、むしろ一匹の動物としての野性味が感じとれる。
力なく遠吼えをした赤猪子は、「こうなの。私はこうなの」と呟く。だんだんと、ここにいるのは人間であることを拒絶している新しい動物ではないかと思えてくる。赤猪子の姿はそうして見れば奇妙にナチュラルに感じられ、そうなってくるにつれ、赤猪子の目から見た「人間らしい人間」の姿が異様に見えてくる。本来異様であるはずの赤猪子ではなく、ゾーイーやそのお抱え運転手のアブドゥルのほうがずっとグロテスクなのだ。
特にゾーイーの不気味さは印象深い。物語の序盤から赤猪子に親切に接し、別荘に匿い、食べ物を与えようとするゾーイーの平凡な親切さは、赤猪子を追い詰める。そして鉱一と赤猪子のスキンシップを目にしたゾーイーは豹変し、「肉骨茶」を赤猪子に突きつけ、「食べろと言ってるだろう!」「食べろ、赤猪子、食べろ、早く食べろ!」と口の中に肉片を押し込んでくる。
彼女はゾーイーという一人の平凡な人間、そして人間であることを彼女に強要してくる人間に対して「遠吼え」を轟かせる。完璧な遠吼えで世界を突き飛ばした赤猪子は、裸足のまま外へと走り出していく。
物語は不思議な終わり方をする。まるでここから先に、新しいページが待っているような情景の中、赤猪子の拒食という衝動はいつの間にか自己の肉体ではなく世界へ向かっていて、彼女にしか進めない未来を貫いている。
赤猪子はどこへ走っていくのか。その姿は、もう拒食症の少女、という言葉では表現できない未知なる生物へと変化している。ここから見たこともない物語が始まっていくのだということだけが鮮烈に伝わってくる。その先のページが知りたいと思わせる、そんな力強いラストだった。

(むらた・さやか 作家)

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