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生命と記憶の集積として、電脳化に抗して生き続ける、書物の魅力の本質を探る。

書物変身譚

今福龍太/著

3,456円(税込)

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発売日:2014/06/30

読み仮名 ショモツヘンシンタン
雑誌から生まれた本 考える人から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 286ページ
ISBN 978-4-10-335791-9
C-CODE 0095
ジャンル 本・図書館、人文・思想・宗教
定価 3,456円

〈書物〉とは地質学的時間と歴史的時間を結んで生じた、大いなる変身の産物である。原初の〈書物〉を求めての探索は、記憶の種子を孕む叡智の森へ、惑星地球を包む孤高の氷山へ、地層を成す琥珀に眠る虫たちを沈黙とともに宿す洞窟へ――生命の変身と連鎖の物語を、変幻自在な〈書物〉の魂として追体験し、その力を語り継ぐ。

著者プロフィール

今福龍太 イマフク・リュウタ

1955年東京生まれ。文化人類学者・批評家。東京外国語大学大学院教授。2002年より遊動型の野外学舎「奄美自由大学」主宰。[主要著作]〈単著〉『荒野のロマネスク』(1989、筑摩書房/2001、岩波現代文庫)『感覚の天使たちへ』(1990、平凡社)『クレオール主義』(1991、青土社/増補版2003、ちくま学芸文庫)『移り住む魂たち』(1993、中央公論社)『野性のテクノロジー(1995、岩波書店)『スポーツの汀』(1997、紀伊國屋書店)『フットボールの新世紀』(2001、廣済堂出版)『ここではない場所』(2001、岩波書店)『ブラジルのホモ・ルーデンス』(2008、月曜社)『ミニマ・グラシア』(2008、岩波書店)『群島―世界論』(2008、岩波書店)『身体としての書物』(2009、東京外国語大学出版会)『レヴィ=ストロース 夜と音楽』(2011、みすず書房)『薄墨色の文法』(2011、岩波書店)〈共著〉『知のケーススタディ』(1996、新書館、多木浩二と)『時の島々』(1998、岩波書店、東松照明と)『アーキペラゴ』(2006、岩波書店、吉増剛造と)『サンパウロヘのサウダージ』(2008、みすず書房、C・レヴィ=ストロースと)

書評

波 2014年7月号より 変身の過程をたどって、書物の故郷へ  

大竹昭子

コンピュータの普及により関連用語が日常生活に浸透した。書物をハードウェアとソフトウェアという用語に置き換えれば、束ねられたページがハードで、書かれている中身がソフト。電子書籍も二つに分けて考えるとわかりやすい。
だが、そのような理解には陥穽が潜んでいる。書物は二分法がなかった時代から存在し、もとは形式と内容が分ちがたくひとつに結びついていた。電子化が進んでそうした事実が忘却の彼方に押しやられていくのは、人間の出自を見失うにも等しいのではないか――。本書にはそのような切実な声が流れている。
『ウォールデン』の著者、H・D・ソローは植物と言葉が密接な関係にあることを指摘した。大地でも、動物でも、その内部を見れば一枚の湿った厚い「葉」lobeだという彼の主張は、形態的な類似だけを言っているのではない。自らが書き記す言葉の核心に、植物や葉にかかわる語彙の種が眠っているのを感じとっていたのだ。
『ウォールデン』のなかのthe bulk of themという表現は、「大部分」の意味ではなく、文字通り「ひとまとまりの紙の束」のことではないか、という著者の指摘はその意味ですばらしい。ソローの思想や、その執筆に全霊を捧げた生活の姿までを目前に浮かばせる。言葉はそのような力をもちうるのだ。
本は「死体のようなもの」というレヴィ=ストロースの驚くべき発言もまた、書物を一個人の作り上げた唯一無二の作品とみなす近代的な考え方に真っ向から反対するものだ。自分とは、そこで何かが起きる場所ではあっても、意図を持って何かを恣意的に行う主体ではない、と彼は考えた。「自我」という発想から限りなく遠いこの思想に、所有や署名の概念はない。重要なのは「匿名的な運動性が充満する交差点のような場」が発生することであり、単なる成果物として眺めるなら、それは彼には「死体のようなもの」にしか感じられないというのだ。
ふだん私たちが書物、というときに思い浮かべるのは印刷された本である。だが印刷技術が生まれるまで、書物は手で書くのが当たり前だった。カフカの『流刑地にて』に登場する処刑機械は印刷機であるという著者の読み込みは、その意味で新鮮だ。生前に出したのは薄っぺらな掌編集だけで、残りは断片的に書き続けられた手稿ノートだったというカフカは、生涯をつうじて書物の原初と交渉をもったのである。
記された文字の間からよみがえる記憶に着目したスーザン・ソンタグ、一本一本が見事に異なり、科学的分類や定義を裏切るキノコにとりつかれたジョン・ケージ、蝶の変容と飛翔力を借りて、記述された過去の自分と、それを記している現在の自分の相克を、自伝という形で展開したウラジミール・ナボコフ。いずれも書くことと生命活動の分離が不可能な作家たちである。
最後の二章では、書物の原初として洞窟と琥珀が取り上げられる。これらのどちらもふだん私たちが書物と聞いて思い浮かぶものにはほど遠い。とりわけアクセサリーとして首にかける琥珀が書物だというのは突飛に聞こえるかもしれない。
だがここまで読んできた読者の頭のなかには、形式と内容が一つになった時間のアーカイヴとしての書物のイメージが大きく膨らんでいる。「何が書物と呼ばれる権利があるのか?」というジャック・デリダの問いに深くうなずく気持ちが準備されているのだ。
「書物とははじめから『非在』である何かなのかも知れない」。
著者のこの言葉には人間への信頼がある。書物が先にあるのではない。生成変化しつづける人間の生み出した想念が、いっとき書物という形をとって現れ出る。書物を読み込む営みがあるから、消えることと、死ぬことを抱えた書物は、何度でも人のなかでよみがえるのである。

(おおたけ・あきこ 作家)

目次

緒言
瓦礫と書物
読むことは、書物の不在を読みとるということ…▼モーリス・ブランショ
種子のなかの書物
この本のすべてのページが、ウォールデン湖の氷のように純粋であれば…▼H・D・ソロー
前―書物としての「ノート」
本は壁だ…▼スーザン・ソンタグ
にもかかわらず、(書物の)生を
本は死んだもの、すでに終わったものです…▼C・レヴィ=ストロース
沈黙という名の書物
書物への有罪宣告にたいして、書物は自らを開くのです…▼ジョン・ケージ
記憶の蝶よ語れ
さらば、わが本よ!…▼ウラジーミル・ナボコフ
本の流刑地にて
長針は書き、短針は水を噴き出す…▼フランツ・カフカ
想像の氷山へ
氷山よ、毒虫のいない国々の、欲求なき隠者よ…▼アンリ・ミショー
パリンプセストとしての洞窟
「過去に乾杯を」ウィンストンが言った…▼ジョージ・オーウェル
琥珀のアーカイヴ
妖しい光を放つ宝玉の扉は閉ざされてしまった…▼M・A・アストゥリアス
図版出典一覧
後記

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