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正しいことを正しいと言って、何が悪いんですか! 史上最高に鬱陶しい主人公、誕生!

田嶋春にはなりたくない

白河三兎/著

1,620円(税込)

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発売日:2016/02/26

読み仮名 タジマハルニハナリタクナイ
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 252ページ
ISBN 978-4-10-339911-7
C-CODE 0093
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 1,620円
電子書籍 価格 1,296円
電子書籍 配信開始日 2016/08/05

一流私大の法学部に在籍する女子大生「田嶋春(たじまはる)」、通称タージ。曲がったことが大嫌いで、ルールを守らない人間のことは許せない。そのうえ空気は、まったく読まない。もちろん、友達もいない。そんなタージが突撃した「青春の謎」には、清冽で切ない真実が隠されていて――。読めば読むほど、不思議とタージが好きになるかも!?

著者プロフィール

白河三兎 シラカワ・ミト

2009年『プールの底に眠る』(講談社)で第42回メフィスト賞を受賞しデビュー。2012年『私を知らないで』(集英社文庫)が『おすすめ文庫王国2013』のオリジナル文庫大賞ベスト1に選ばれ、ベストセラーに。他の著書に『ケシゴムは嘘を消せない』(講談社文庫)『君のために今は回る』(講談社)『もしもし、還る。』(集英社文庫)『神様は勝たせない』(ハヤカワ文庫)『総理大臣暗殺クラブ』(KADOKAWA)『ふたえ』(祥伝社)『小人の巣』(双葉社)がある。

書評

「あの女は何を考えている?」の推理の先に

吉田大助

 使い古された言葉だしたいがいが雑な議論だし、普段は絶対口にしないようにしているけれどもどうにもこうにも、この言葉で表現するしかない人がたまにいる。「一作ごとに、作風が違う」。白河三兎のことだ。
 メフィスト賞受賞のデビュー作『プールの底に眠る』から一躍知名度をあげた第三作『私を知らないで』までは、青春ミステリーというジャンルで括ることはギリギリ可能だったかもしれない。ギリギリ。だが、それ以降はどうだろう? 百花繚乱とは、このことではないのか。おそるおそる、十作目となる最新刊『田嶋春にはなりたくない』を開いてみる。またしても、これまでとぜんぜん違う!
 主人公の名前をタイトルに掲げた作品は、今回が初めてだ。田嶋春。「タージ」というニックネームを持つ彼女と、彼女に翻弄される人々の物語だ。漫画で言えば『東京大学物語』や『DEATH NOTE』、小説ならば西尾維新の〈物語〉シリーズを彷彿とさせる、主人公VS他者のコミュニケーション・ゲームの物語でもある。
 とにもかくにも、田嶋春のキャラクターが完璧に立っている。東京にある有名私大の法学部二年生で、トレードマークはサロペット。イベント系サークル『N・A・O』に入っていて、恋愛に関しては「心に決めた人」がいる。ある登場人物は彼女をこう評価する、「口を閉じていれば、可愛い部類に入る」。では、口を開けばどうか? 「平穏なキャンパスライフを乱す疫病神」、「これぞ余計なお節介、という見本」、「人を苛つかせる天性の素質がある」、「善意の押し売り」、「デリカシーの欠片もなくて人の気持ちを簡単に踏み潰す」、「理解不能な不思議ちゃん」。罵詈雑言のオンパレードだ。彼女の行動原理を象徴するエピソードはきっと、これだろう。「飲み会では『まだ十九歳ですから』と言ってお酒を口にしないし、未成年のサークルメンバーの飲酒を許さない」。
 タージは正義の人なのだ。言えば誰かを傷付けてしまうかもしれないし場の空気を乱してしまう……からといって、言葉を飲み込むようなことはしない。相手がウケ狙いやキャラ偽装、空気を乱さないためにと放った言葉をとことん真に受けて、クソ真面目にリアクションしていく。そのKYっぷりは、安全地帯から見ているぶんには痛快で、抱腹絶倒もの。ただし当事者だったら、生き地獄だ。物語は全五章=五名の当事者(被害者?)の視点から、タージとの「対決」を描く。
 恋心を飲み込む者。浮気にうつつを抜かすもの。自分を卑下する者。他人の気持ちばかり考えている者。そして、過去の自分に囚われている者。五名+αの当事者たちはみな、それぞれ負い目を抱えている。だから「!」連発のタージの発言に対して、心の中で「?」の思考をぐるぐる巡らせてしまう。どういう意味だ? なぜそんなことを言ったのか。自分を試しているのだろうか。もしかして、あの秘密を知っているのではないか? そのぐるぐるが、丁寧に丁寧に書き込まれていく。本作は「日常の謎」系のミステリーでもあるが、文中にちりばめられている「推理」の多くは、タージが放つ言葉の真意を読み解こうとする「推理」だ。
 正真正銘、紛うことなきトラブルメーカーだ。タージと向き合ったならばみな、不安を掻き立てられ、見抜かれたと思って、墓穴を掘ってしまうのだから。でも、彼女は困っている人がいたら手を差し伸べずにいられないトラブルシューターでもある。ある人物は言う、「この子は人間を信じて疑わない。人間を愛しているんだ」。そんなタージと関わることで、いつの間にか自分も彼女のように「自分を見守り、自分を信じ、自分を愛すればいい」と心を動かし始めることになる。墓穴を掘ったと思ったことが、新しい道へ歩み出す契機だったと知る。
 最終章のラスト、観覧車の中で交わされる言葉の数々が、忘れがたい快感と感動を運んできた。ゲラゲラ笑いながら読み始めた時は、こんな感情が胸に突きつけられるなんて思いもしなかった。そうだった、白河三兎の作品にはひとつだけ、一貫して書き継がれている感情があったのだ。それは、せつなさ。
 誰も田嶋春にはなれないけれど、誰もがまた会いたくなる。読めば彼女の思考が心に宿る、最高傑作だと思います。

(よしだ・だいすけ ライター)
波 2016年3月号より

目次

第一章 肩を濡らさない相合傘
第二章 自作自演のミルフィーユ
第三章 スケープゴート・キャンパス
第四章 八方美人のストライクゾーン
第五章 手の中の空白

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