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見て、嗅いで、作って、食べる。壮大すぎる「納豆をめぐる冒険」!

謎のアジア納豆―そして帰ってきた〈日本納豆〉―

高野秀行/著

1,944円(税込)

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発売日:2016/04/27

読み仮名 ナゾノアジアナットウソシテカエッテキタニホンナットウ
雑誌から生まれた本 考える人から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 351ページ
ISBN 978-4-10-340071-4
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション、グルメ
定価 1,944円
電子書籍 価格 1,555円
電子書籍 配信開始日 2016/10/07

辺境作家が目指した未知の大陸、それは納豆だった。タイやミャンマーの山中をさまよううちに「納豆とは何か」という謎にとりつかれ、研究所で菌の勉強にはげみ、中国に納豆の源流を求め、日本では東北から九州を駆けめぐる。縦横無尽な取材と試食の先に見えてきた、本来の姿とは? 知的好奇心あふれるノンフィクション。

著者プロフィール

高野秀行 タカノ・ヒデユキ

ノンフィクション作家。1966(昭和41)年、東京都八王子市生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科卒。1989(平成元)年、同大探検部の活動を記した『幻獣ムベンべを追え』でデビュー。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それをおもしろおかしく書く」をモットーとする。2006年『ワセダ三畳青春記』で第1回酒飲み書店員大賞を受賞。2013年『謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』で第35回講談社ノンフィクション賞、第3回梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。その他の著書に『アヘン王国潜入記』『西南シルクロードは密林に消える』『イスラム飲酒紀行』『未来国家ブータン』『移民の宴』『恋するソマリア』などがある。

書評

[高野秀行『謎のアジア納豆―そして帰ってきた〈日本納豆〉―』刊行記念特集] 
粘る糸を手繰りて納豆の源流を探る

小泉武夫

 納豆は煮るか蒸した大豆に納豆菌が繁殖して出来る発酵食品で、特有の粘質物質(糸引き)と濃厚なうま味、迸るほどの栄養価、独特の匂いなど、どれをとっても不思議で神秘的な食べものである。日本人は昔から、これを味噌汁の中に入れたり、ご飯にかけたり、さまざまなものと和えたりして、大いに食べてきた。肉をほとんど食べなかった日本人にとって、味噌と共に貴重な蛋白質の供給源となって、大いに日本人を助けてきた有難い歴史を持っている。
 この納豆は、日本だけにあるものではなく、我が輩が調査してきただけでもミャンマーやタイ、中国南部(雲南省西双版納)、インドのシッキム(ナガランド)、ネパール、ブータンなどにもあった。ただし、その造り方や形状、食べ方などはとてもまちまちで、従って出来上った納豆が、今日私たちが食べているものと同じような風味のものであると考えるのは無理であった。
 さて、高野秀行さんの『謎のアジア納豆―そして帰ってきた〈日本納豆〉―』を読ませていただいた。多くの日本人は、温かいご飯にかけて食べる美味しい糸引き納豆が日本だけのものと思っているので、いきなりこの本の切り出しが、ミャンマーのカチン州の山奥で白いご飯と納豆と生卵と出合って、著者の高野氏が、完璧なまでの日本の納豆と同じ味だった、なんでこんな異国の山の中で、日本と全く同じ納豆があるのだろうか、夢を見ているようだった、と驚いたところから始まるのは、読者にとって先ず衝撃的であろう。
 この不思議な偶然を心の隅に宿して十四年後の二〇一三年、家族とタイ旅行に行った機会に北部山岳地帯に暮らすシャン族の友人に会って納豆と再会。十四年前の不思議が再び鎌首を擡げ、「アジア納豆」という未知なる食の大陸へと入って行った。さて、ここからが本当に面白い。タイ、ミャンマー、ネパール、インド、中国、ブータンをのべつ幕なしに調査して、多くの少数民族の納豆を食べ歩くが、謎は増すばかり。ついには振り出しに戻ってきて、日本の納豆とアジアの納豆との関係はいかに、とばかりに秋田県、岩手県、長野県その他日本国内を食べまくり、調べまくり、気づいてみれば一体何種類の納豆を食べたのか、自分でいくつの納豆を試作してみたのかも数えきれなくなっていた。その間「疑問。発見。驚き。笑い。煩悶。絶句……この連続である」とある。本当に精力的、実に挑戦的、誠に実践的、類稀なる冒険心と好奇心で、納豆を追うわ、追うわ、追い続けるわ。そして最終的には、アジアの納豆と日本の納豆という「二つの未知なる大陸は、『納豆』という超巨大なブラックホールに吸い込まれていった」というスケールで納豆を捉え、展開しているのである。また、日本の納豆を調べているうちに、「千利休や源義家、蝦夷にたどりついてしまうとは夢にも思わなかった」と述べるあたりは、納豆の原点を追い求める著者の姿から、納豆への愛着や憧れを通して叙情詩的香りも漂ってくるように思えてならない。
 著者は、著名なノンフィクション作家でもあるので、徹底して現場に足を運び、自らの五感を駆使して、取材重点主義を貫いている。そして、納豆の糸を手繰るようにして、そこに秘められた謎を連鎖的に解き進めていくあたりは、あたかも推理小説の展開をも連想させ、読む者をどんどんと未知なる納豆大陸へと引き込んでいくのである。
 発酵学者という我が輩の立場から見ても、本書には注目すべき箇所が随所に見られる。それは、従来の多くの学者の視点を遥かに越えた総括的観点から納豆の真実に迫っているこ
とで、文化人類学や民俗学、民族学、発酵学、微生物学という、納豆の食文化に関する多くの分野を一絡げにして「納豆」を観ているのである。このような壮大なスケールで納豆の奥に秘める謎を解き明かしていく試みはこれまで全く無く、学問的にも貴重な文献と言って過言ではない。
 また、著者が抱く納豆の謎の解明への執念は、納豆菌のスターター(菌種)が、従来言われてきた稲藁だけでなく朴(ほお)の葉や栃の葉などにも確認されることを実証していることにも見られる。我が輩も以前、同じ実験を行ったのであるが(大半は納豆菌でなく枯草菌)、稲藁を用いなくとも納豆に近いものが出来た経験を持つ。
 我が輩はこれまでの研究から、アジア大陸の納豆と日本の納豆には、伝播とその他を含めて直接の関連はなく、稲と大豆の栽培を同一に持ち、それを煮炊きして食べ、そこに納豆菌の棲息に適した気候風土があれば、納豆は発生するものと考えているが、大切なことは、本書から伝わってくるように、納豆を持つそれぞれの民族が、いかに美味しい納豆をつくり上げるのに知恵と工夫を注ぎ込んできたか、そしてそれが大切な文化として受け継がれてきたかを読者が読み取ることにもあるような気がする。とにかく、納豆の一大浪漫がこの一冊に余りあるほど詰め込まれている。著者の粘り強い取材が「納豆喰(なっとく)」(納得)の一冊を生んだのであろう。

(こいずみ・たけお 発酵学者)
波 2016年5月号より

目次

プロローグ 日本は納豆後進国なのか?
第一章  納豆は外国のソウルフードだった!? チェンマイ/タイ
第二章  納豆とは何か
第三章  山のニューヨークの味噌納豆 チェントゥン/ミャンマー
第四章  火花を散らす納豆ナショナリズム タウンジー/ミャンマー
第五章  幻の竹納豆を追え! ミッチーナ/ミャンマー
第六章  アジア納豆は日本の納豆と同じなのか、ちがうのか
第七章  日本で『アジア納豆』はできるのか 長野県飯田市
第八章  女王陛下の納豆護衛隊 パッタリ/ネパール
第九章  日本納豆の起源を探る 秋田県南部
第十章  元・首狩り族の納豆汁 ナガ山地/ミャンマー
第十一章 味噌民族vs.納豆民族 中国湖南省
第十二章 謎の雪納豆 岩手県西和賀町
第十三章 納豆の起源
エピローグ 手前納豆を超えて

謝辞
参考文献

インタビュー/対談/エッセイ

[高野秀行『謎のアジア納豆―そして帰ってきた〈日本納豆〉―』刊行記念特集] 
【インタビュー】「わからないものをわかりたい」

高野秀行

――高野さんはコンゴで謎の生き物を探したり、“謎の独立国家”アフリカ・ソマリランドに足しげく通ったり、「人が行かないところに行く」をモットーに活動してこられました。
 そんな高野さんが次に追い求めたテーマが「納豆」だと聞いて大変驚きました。

 周囲に「いま納豆について調べている」と言うと、明らかに戸惑いの目で見られました(笑)。
 しかし、「アジアにも納豆があるんですよ」と続けると、一様に驚いて興味を示してくれます。
 日本人って、日本にいる外国人によく「納豆は好きですか? 食べられますか?」と“踏み絵”のように質問しますよね。私はそれが以前から不思議でしかたなかった。なぜみんな納豆がまるで日本文化の象徴のように思っているのだろう。私が以前長く滞在していたミャンマーのシャン州でだって納豆はよく食べられていたのに。
 そう言うと、「え! それは日本の納豆と同じなの?」「どんなふうに作ってるの?」「食べ方も同じ?」と質問攻めに遭う。でも詳しいことは何も知らないので、答えられない。
 そこで、まずシャン州の納豆について調べてみたのが、運の尽き。どっぷりと納豆にハマってしまいました。
――ミャンマー、タイ、ブータン、ネパール、中国、そして秋田県と、実にいろいろな場所に足を運ばれました。
 最初は、インターネットで納豆について調べていましたが、とにかく詳しい情報が載っていない! 納豆が食べられているという国の人に尋ねてみても、さっぱり要領を得ない。
 というのも、どこの国でも、納豆は日常生活に非常に深く溶け込んだ食べ物。あえて話題にもならないし、客人にはまず出さないので、ネットに載りづらい。納豆をよく食べる日本人でも、海外の人に「日本の納豆について教えて」と言われて、うまく説明できる人はほとんどいないでしょう。
 そのくらい、私たちは納豆について何も知らない。
 結局、自分で実際に現地に飛んで見に行くしかなかった。
――本書は、「納豆がここにも見つかりました、おもしろかった」とただ列挙するだけではありません。高野さん自身の考察に止まらず、歴史、微生物学、言語学、地理学、植物学などさまざまな分野から「納豆」を捉えて、「納豆とは、アジア納豆とは」という大きな問いにいったん結論を出しています。
 本当に突き詰めましたよ(笑)。いろいろな納豆を見るうちに、やはり「納豆とは何なんだろう」という疑問が湧いてきます。諸説ある納豆の起源について突っ込むのは、もしかして野暮なのかもしれない。
 でも、謎を明らかにしたい気持ちは止められなかった。わからないものをわかりたい、というのは大学の探検部時代から一貫したテーマです。一見、今までと全く違うことをやったように見えるかもしれませんが、今までの延長線上にあって、集大成だと思っています。
 私がかつて追っていたコンゴの謎の生物や雪男などはすべて〈人間〉に結びついています。〈人間〉から切り離されて独立した謎の生物なんていないんです。〈人間〉を理解しようとしなければ、そういった現象は全く理解できない。
 納豆も〈人間〉から切り離して単体で見ても、何もわからない。納豆を作っている人がいて、食べている人がいます。その人たちがどのような環境の中でどのようにして作っているのか、どのような気持ちで食べているのかというところまで踏み込まないと、伝える意味がないし、おもしろくない。
 普段、存在すら意識しないようなミャンマーの山奥の人たちの生活の中に、私たちがよく知っている納豆があるというのがおもしろい。納豆の糸で結ばれているのです(笑)。
 しかし、これでやり切ったとは思いません。まだまだ知りたいことがある。まずは韓国のチョングッチャン。アフリカ西部のダワダワ。それから東北の沿岸部にも納豆を作る習慣があると聞いています。納豆の旅はしばらく終わりそうにありません。

(たかの・ひでゆき 作家)
波 2016年5月号より

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