ホーム > 書籍詳細:最後の秘境 東京藝大―天才たちのカオスな日常―

入試倍率は東大の3倍! 卒業後は行方不明多数!! 
「芸術界の東大」の型破りな日常。

最後の秘境 東京藝大―天才たちのカオスな日常―

二宮敦人/著

1,512円(税込)

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発売日:2016/09/16

読み仮名 サイゴノヒキョウトウキョウゲイダイテンサイタチノカオスナニチジョウ
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 287ページ
ISBN 978-4-10-350291-3
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,512円
電子書籍 価格 1,512円
電子書籍 配信開始日 2016/10/28

才能勝負の難関入試を突破した天才たちは、やはり只者ではなかった。口笛で合格した世界チャンプがいるかと思えば、ブラジャーを仮面に、ハートのニップレス姿で究極の美を追究する者あり。お隣の上野動物園からペンギンを釣り上げたという伝説の猛者は実在するのか? 「芸術家の卵」たちの楽園に潜入した前人未到の探検記。

どういう本?

タイトロジー
(タイトルの意味)
日本に残された最後の秘境は東京のど真ん中にあった。上野の森を奥へと進み、東京藝術大学の正門をくぐれば――そこは、芸術に人生を捧げる「芸術家の卵」たちが棲息する楽園だ。型破りの入試から、多様すぎる日常、意外な進路まで、現役藝大生を妻に持つミステリ作家が全学科の現役学生にソボクな疑問を聞き尽くした前人未到の探検記。
メイキング 深夜に半紙で自分の型をとる妻。箸でも亀でも何でも作ってしまう妻。腰が砕けそうな重さの木の塊をひょいひょい運ぶ妻。生協で買ったというガスマスクをキッチンにポンと置く妻――きっかけは妻だった。濃厚に漂う「別世界の気配」に惹かれ、作家は彼女の通う東京藝大へと足を踏み入れる。それは常識を揺さぶられる「秘境探検」の始まりだった。

著者プロフィール

二宮敦人 ニノミヤ・アツト

1985年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。2009年に『!』(アルファポリス)でデビュー。ユニークな着眼と発想、周到な取材に支えられた数々の小説を送り出し人気を博す。『郵便配達人 花木瞳子が顧り見る』(TO文庫)、『占い処・陽仙堂の統計科学』(角川文庫)、『一番線に謎が到着します』(幻冬舎文庫)、『廃校の博物館 Dr.片倉の生物学入門』(講談社タイガ)など著書多数。『最後の秘境 東京藝大―天才たちのカオスな日常―』が初めてのノンフィクション作品となる。

書評

東京藝大は日本のアマゾンだ!

高野秀行

 書評を頼まれたときは自分で読んでから返事をすることにしている。万に一つも面白くない本を薦めるわけにいかないからだ。でも本書は読まずに受けてしまった。だって、このタイトルだもの。読んでみれば果たして期待通りだった。
 著者は小説家で、芸術とは格別縁がない、言わば普通の人。だが奥さんが現役の東京藝大生(彫刻科)。巨大な一本の木に鑿をふるって家中が工事現場のようになったり、半紙を体中に貼り付けて「自分の型」を取っていたりする。台所でツナ缶を見つけたと思いきや、ガスマスクのフィルター部分だった。「樹脂加工」の授業で、有毒ガス防止のために使用するという。しかもどこで買ったのかと訊けば、「生協」。藝大の生協ではガスマスクが販売されているのだ。
 あまりに面白いので、妻をコーディネーターとして藝大探検を始めた。美術専攻の「美校」と音楽専攻の「音校」の全学科の学生にインタビューを敢行し、彼らの制作・演奏現場も訪ねる。その全貌はまさに南米のアマゾンをも彷彿させるカオスっぷり。
 カオスといっても「デタラメ」なのではない。アマゾンの熱帯雨林に行くと、「こんな植物があるのか!?」「なんだ、この魚は!?」と驚かされるが、藝大も同様。他では見ない「人種」がわんさかいるのである。
 例えば、「天才」という人種。ある日本画専攻の学生は、十代の頃からグラフィティ(落書き)を繰り返して警察に何度も逮捕されたあげく少年院送りとなり、出所(出院?)してからは鳶職とホストクラブのホストで稼ぎまくったが、「やっぱり絵が描きたい」と藝大に入ったという。
 音楽環境創造科には2014年国際口笛大会のグランドチャンピオンがいる。口笛の世界最高峰なのである。「オーケストラや室内楽に『口笛』というパートを作りたい」と語る。
 東大工学部建築学科を卒業しているという猛者もいる。中高一貫校にいたこともあり、流されるまま勉強しているうちに東大に入った・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・が、「何かをやりたかったのにやらなかった」と後悔するのが嫌で、一念発起して藝大に入り直したとのこと。しかも作曲科! どれだけ才能があるんだ、と言いたい。
 天才の他に、当然奇人変人も多い。家の天井にビニールパイプを張り巡らせて水を撒き「雨宿り」を味わうという表現をしている先端芸術表現科の学生、究極の美を表現するためにブラジャーを仮面にハートのニップレス姿でキャンパスを闊歩しているが、なぜか専攻は絵画科油画専攻という女子学生……。
 しかし、である。笑っていたのは最初のうちだけだった。やがて、あまりの真剣度に圧倒されてしまった。
 ピアノ専攻の学生は毎日、自主練が九時間。「目が見えなくなっても片腕がもがれても最悪なんとかなるけど、耳は大事。だから耳のケアには気をつかっている」というようなことを平然と語る。美校も負けてはいない。例えば、「鍛金(簡単にいえば鍛冶)」の研究室にはエアープラズマ溶断機、大型高速カッターなど「命取りになる機械しかない」。化繊の服は火がついたとき一気に燃え広がるので綿の服を着るようにするという。危険と隣り合わせだが、制作は超繊細。金槌も用途で使い分け、人によっては何百本も持っている。しかも全部自作……。
 芸術と聞くと、私のような素人は「感性の世界」と思ってしまうが、実際には肉体を酷使し、0・1ミリ単位の技術を磨いているのだ。先鋭的なアルピニストや修行僧に近い。しかるに、卒業してプロになれるのはほんの一握りしかいないという恐ろしく厳しい世界である。
 にもかかわらず、本書に登場する藝大生に悲壮感はない。誰しも楽しげだ。そして、自分の専攻について情熱をこめて語りに語る。バロック、デザイン、三味線、漆芸……。
 東西のあらゆる芸術の魅力が若者たちの言葉で生き生きと語られる。私は正直言って、こんなに芸術が眩しく思えたことがない。ある意味で、高名な芸術家や評論家の言葉を超えている。藝大生たちはまさに今、採れたばかりの野菜のようだ。大したブランドでなくても、鮮度が抜群に高い。
 笑って驚いて感動してしまう。秀逸な芸術入門書としてもお勧めである。


(たかの・ひでゆき ノンフィクション作家)
波 2016年10月号より

目次

はじめに
1. 不思議の国に密入国
オペラとゴリラの境界線/妻の腕が筋肉質なわけ/上野動物園のペンギンを一本釣り?/全員遅刻 vs. 時間厳守/仕送り毎月五十万
2. 才能だけでは入れない
受験で肩を壊す/三浪くらいは当たり前/“選手生命”を考えて浪人する/問題見なくていいじゃないか/全音符の書き順は?/筋肉がないと脱落/ホルンで四コマ漫画を
3. 好きと嫌い
元ホストクラブ経営者/教授たちの「膠会議」/四十時間描きつづける/義理を果たしてヴァイオリンを捨てる/嫌いだからこそ、伝えられるもの
4. 天才たちの頭の中
口笛世界チャンピオン/オーケストラに口笛を/現代の「田中久重」/宇宙の果てから来た漆/「かぶれは友達」
5. 時間は平等に流れない
親不知も抜けない/建築科の段ボールハウス/一緒に泊まって、一緒にご飯食べて、一緒に寝る/恋愛と、作品と
6. 音楽で一番大事なこと
寝ても醒めてもフル再生/指揮者は真っ裸/自主練は九時間/楽器のための「体」/目が見えなくなっても、片腕をもがれても/全員で呼吸する
7. 大仏、ピアス、自由の女神
謎の“金三兄弟”/命取りになる機械しか置いていない/貴金属の相場は毎日確認/熱気で睫毛が燃えそう/離れたくても、離れられない
8. 楽器の一部になる
踊る打楽器奏者/最初の一音で癖を見抜く/理想の音/楽器別人間図鑑/最終兵器「響声破笛丸」
9. 人生が作品になる
仮面ヒーロー「ブラジャー・ウーマン」/ちんちんはいつか生えてくるもの?/人生と作品は血管で繋がっている/恋愛の練習/毎週のように誰かを口説く
10. 先端と本質
納豆はタレつき? タレなし?/家の中に雨を降らせる/ひょうたんを出産?/アスファルトの車、ゴミ箱ポスト/いかに無駄なものを作るか
11. 古典は生きている
キラキラシャミセニスト/ボカロと三味線/演奏者は考古学者/バロック音楽という電撃/末端は本当に美しくなければならない
12. 「ダメ人間製造大学」?
半分くらい行方不明/芸術は教えられるものじゃない/オルガンホームパーティー/六十代の同級生/仕事をしていない時間がない
13. 「藝祭」は爆発だ!
手作り神輿と絶叫する学長/立ち聞きにも長蛇の列/ミスコンは団体競技?/夜更けのサンバと「突き落とし係」
14. 美と音の化学反応
同級生は自分だけ/仏像を学ぶために音楽を学ぶ/売れる曲も、売れない曲も/美術と音楽の融合

アートの天才が集う「最後の秘境 東京藝大」美術部工芸科鋳金専攻の「鞴祭」を覗いてみた!

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