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今月の表紙の筆蹟は、門井慶喜さん。絵は、杉浦非水さん。

波 2021年9月号

(毎月27日発売)

100円(税込)

雑誌の仕様

発売日:2021/08/27

発売日 2021/08/27
JANコード 4910068230911
定価 100円(税込)
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【筒井康隆掌篇小説館】
筒井康隆/手を振る娘
阿川佐和子/やっぱり残るは食欲 第48回
【長江俊和『出版禁止 いやしの村滞在記』刊行記念】
[対談]長江俊和×有田哲平/「謎」の楽園――作る楽しみ、解く快感
門井慶喜『地中の星』
門井慶喜/地下鉄が拓いた昭和という大衆の時代

竹内康浩、朴 舜起『謎ときサリンジャー―「自殺」したのは誰なのか―』
恩田 陸/サリンジャーの観覧車

貫井徳郎『邯鄲の島遥かなり 上』
貫井徳郎/一生に一度の作品

玉岡かおる『帆神―北前船を馳せた男・工楽松右衛門―』
末國善己/高田屋嘉兵衛が憧れた知られざるチャレンジャー

オーシャン・ヴオン、木原善彦 訳『地上で僕らはつかの間きらめく』
江南亜美子/きらめきを永遠に定着させるために

花房観音『果ての海』
[著者インタビュー]花房観音/女の呪いを解く物語

里見 脩『言論統制というビジネス―新聞社史から消された「戦争」―』
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【清水克行『室町は今日もハードボイルド―日本中世のアナーキーな世界―』刊行記念】
[対談]清水克行×高野秀行/日本中世という「辺境」へ
【二宮敦人『最後の秘境 東京藝大―天才たちのカオスな日常―』累計40万部突破記念特集】
[漫画]土岐蔦子/ちらり…『最後の秘境 東京藝大』
二宮敦人/いまも秘境で生きてます――元東京藝大生の妻に夫がインタビュー
【短篇小説】
北村 薫/糸 後篇
【特別エッセイ】
バッキー井上/京都裏寺ハタチ過ぎ
安西篤子/あのとき私は敵国にいた――いまも甦る上海の光と影

【新潮クレスト・ブックス 2021-2022】
オーシャン・ヴオン、木原善彦 訳『地上で僕らはつかの間きらめく』
[インタビュー]オーシャン・ヴオン/初の小説と母との別れ。

マギー・オファーレル、小竹由美子 訳『ハムネット』
(2021年11月末刊行予定)
[インタビュー]マギー・オファーレル/ウィリアムのいないシェイクスピア家物語。

ただいま翻訳中!
【私の好きな新潮文庫】
稲田俊輔/想像するおいしさ その自由な世界
 西村 淳『面白南極料理人
 嵐山光三郎『文人悪食
 山本周五郎『青べか物語
【今月の新潮文庫】
ジョセフ・ノックス、池田真紀子 訳『スリープウォーカー―マンチェスター市警 エイダン・ウェイツ―』
江國香織/こんなに孤独な主人公もいないだろう

三川みり『龍ノ国幻想1 神欺く皇子』
大矢博子/男装ヒロインの戦いを描く、三川ファンタジーの新機軸
【コラム】
鈴木冬悠人『日本大空襲「実行犯」の告白―なぜ46万人は殺されたのか―』(新潮新書)
鈴木冬悠人/ルメイの蛮行には「動機」があった

三枝昂之・小澤 實/掌のうた

[とんぼの本]編集室だより
【連載】
ジェーン・スー/マイ・フェア・ダディ! 介護未満の父に娘ができること 第12回
南沢奈央 イラスト・黒田硫黄/今日も寄席に行きたくなって 第21回
大木 毅/指揮官たちの第二次世界大戦 将星の横顔をみる 第3回
二宮敦人/ぼくらは人間修行中 第10回
崎山蒼志/例えば筒を覗けば未来 第2回
川本三郎/荷風の昭和 第40回
編輯後記 いま話題の本 新刊案内 編集長から

立ち読み

編集長から

今月の表紙の筆蹟は、門井慶喜さん。絵は、杉浦非水さん。

◎十九歳の夏、尊敬できない年嵩の人物から「文章が一番確かなのは吉村昭だ」と推薦され、「こいつがこんなに褒めるなら一生読むまい」と決心して、本当に三十代半ば迄読まずにいたのは軽い若気の至りでした。
◎吉村さんの晩年、雑誌での担当になって、何度か酒飯をご一緒することになります。酒の席で文学論なんかしないと常々仰る方なので、こっちも気が楽。その晩も「阿部定事件の時は東京が明るくなった」「先代金馬はやっぱりいいね」みたいな話を肴にしていたのですが、何かの拍子に、文章家と目される某作家について、「『おれの書くものは何でも読者は有難がるんだ』と思ってるんじゃないかな。書く姿勢が胡坐をかいてるんだね。それが文章に出てる」。おや、珍しいと吉村さんの顔を見ると、朗らかに「阿川(弘之)さんも胡坐をかいているかもしれない。でもかれの場合は胡坐のかき方に風情があって、そこがいいんだなあ」。
◎胡坐の風情を楽しもうと阿川さんの名作『食味風々録』再読。いま食物随筆を読むのは外食(飲)できないことの代替行為でもあります。敗戦七ヶ月後、広島へ復員した阿川さんが味噌汁の不味さを不興がると、母親が「そんなら原子爆弾使はうか」と貴重品の闇物資、味の素を取り出し一掬い入れたら「味がびつくりするくらゐ良くなつた」。原子爆弾という単語の肯定的な用法!
◎本書に出てくる料理でまず食べたくなったのは阿川家の冷麦。濃厚なつけ汁が旨そうですが、阿川さんの書き方では少し再現しにくい。調べると幸い、娘の佐和子さんが『魔女のスープ―残るは食欲―』の中で丁寧に紹介していたので、暑いうちに試してみます。文壇史に残る旅館「乃なみ」仕事場兼麻雀花札激戦地で生まれた味だそう。
▽次号の刊行は九月二十八日です。

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雑誌から生まれた本

波とは?

 1967(昭和42)年1月、わずか24ページ、定価10円の季刊誌として「波」は誕生しました。新潮社の毎月の単行本の刊行数が10冊に満たず、新潮文庫の刊行も5冊前後という時代でした。こののち1969年に隔月刊に、1972年3月号からは月刊誌となりました。現在も続く「表紙の筆蹟」は、第5号にあたる1968年春季号の川端康成氏の書「風雨」からスタートしています。

 創刊号の目次を覗いてみると、巻頭がインタビュー「作家の秘密」で、新作『白きたおやかな峰』を刊行したばかりの北杜夫氏。そして福田恆存氏のエッセイがあって、続く「最近の一冊」では小林秀雄、福原麟太郎、円地文子、野間宏、中島河太郎、吉田秀和、原卓也といった顔触れが執筆しています。次は大江健三郎氏のエッセイで、続いての「ブックガイド」欄では、江藤淳氏がカポーティの『冷血』を、小松伸六氏が有吉佐和子氏の『華岡青洲の妻』を論評しています。

 創刊から55年を越え、2023(令和5)年4月号で通巻640号を迎えました。〈本好き〉のためのブックガイド誌としての情報発信はもちろんのことですが、「波」連載からは数々のベストセラーが誕生しています。安部公房『笑う月』、遠藤周作『イエスの生涯』、三浦哲郎『木馬の騎手』、山口瞳『居酒屋兆治』、藤沢周平『本所しぐれ町物語』、井上ひさし『私家版 日本語文法』、大江健三郎『小説のたくらみ、知の楽しみ』、池波正太郎『原っぱ』、小林信彦『おかしな男 渥美清』、阿川弘之『食味風々録』、櫻井よしこ『何があっても大丈夫』、椎名誠『ぼくがいま、死について思うこと』、橘玲『言ってはいけない』、ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』、土井善晴『一汁一菜でよいと至るまで』などなど。

 現在ではページ数も増えて128ページ(時には144ページ)、定価は100円(税込)となりました。お得な定期購読も用意しております。
 これからも、ひとところにとどまらず、新しい試みを続けながら、読書界・文学界の最新の「波」を読者の方々にご紹介していきたいと思っています。