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走れ、「速く」ではなく「強く」。目指すは箱根駅伝。直木賞受賞第一作!

  • 映画化風が強く吹いている(2009年10月ロードショー)
  • 舞台化アトリエ・ダンカンプロデュース『風が強く吹いている』(2009年1月公演)

風が強く吹いている

三浦しをん/著

1,944円(税込)

本の仕様

発売日:2006/09/22

読み仮名 カゼガツヨクフイテイル
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 510ページ
ISBN 978-4-10-454104-1
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、文学賞受賞作家
定価 1,944円
電子書籍 価格 886円
電子書籍 配信開始日 2008/02/22

君だったのか、俺が探していたのは。走るために生まれながら、走ることから見放されかけていた清瀬と蔵原。二人は無謀にも陸上とは無縁だった八人と「箱根」に挑む。走ることの意味と真の“強さ”を求めて……。新直木賞作家の本領全開、超ストレートな大型青春小説。

著者プロフィール

三浦しをん ミウラ・シヲン

1976(昭和51)年、東京生れ。早稲田大学第一文学部卒業。2000(平成12)年、書下ろし長篇小説『格闘する者に○(まる)』でデビュー。以後、『月魚』『秘密の花園』『私が語りはじめた彼は』などの小説を発表。『乙女なげやり』『ビロウな話で恐縮です日記』『あやつられ文楽鑑賞』『お友だちからお願いします』など、エッセイ集も注目を集める。2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を、2012年『舟を編む』で本屋大賞を受賞。他に小説『むかしのはなし』『風が強く吹いている』『仏果を得ず』『光』『神去なあなあ日常』『神去なあなあ夜話』『天国旅行』『木暮荘物語』『政と源』『まほろ駅前狂騒曲』などがある。

書評

波 2006年10月号より 白の希望――誰かとつながる強さ  三浦しをん『風が強く吹いている』

温水ゆかり

 三浦しをんさんの処女作『格闘する者に○』を読んだとき、胸の中を吹き抜けた清新な風のことはいまでもよく覚えている。この伸びやかさ、ただ者じゃない。文芸誌などの新人賞を取っての王道デビューではなかったから、なんたる野放しの才能か、と。
あれから六年。先日、無冠のまま新直木賞作家になるという快挙を成し遂げたが、この間上梓した小説はつごう七作。就職小説、少年文学、学園もの、ロマンス小説、心理小説など、毎作違った世界を開拓していることに驚かされてきたが、直木賞受賞第一作になるこの『風が強く吹いている』にもびっくり。なんと、駅伝小説なのである。
物語は、いささかコミック調のツカミを効かせたプロローグで幕を開ける。寛政大学四年の清瀬灰二は、銭湯の帰りに万引きをして逃走中の男と遭遇。清瀬が思わず「ああ」と感嘆の声を漏らすほど見事な走りをしていたその男は、この四月からまさに寛政大学の新入生になろうとしていた天才ランナー蔵原走。そして蔵原のしなやかな足首が、清瀬の野望に火をつける。その野望の全貌が明らかになるのは、清瀬が管理人として君臨する木造二階建てアパート竹青荘に、蔵原が住まい始めてからだ。
竹青荘は漫画おたくやニコチン中毒の留年生、司法試験に合格済みの秀才や黒人の留学生など、寛政大学に通う学生ばかりが暮らす九室のアパート。今年は双子の入居もあって、住人は計十人である。そんなメンツを前に、清瀬はとんでもないことを言い出す。みんなで頂点に行こう。「目指すは箱根駅伝だ」。そのとたん、広がる怒号と混乱。箱根駅伝といえば確かに十人の走者が必要。しかし数が丁度だからといって、そんな無謀な!
とはいえ、清瀬のアメとムチのまじった恫喝で、全員みごとに陥落。かくして主人公の蔵原と清瀬以外は全員ドシロウトという珍妙なチームが出来上がる。走る理由も“親孝行”“恫喝に屈服”“故国には降らない雪が見たい”“アメにつられて”など十人十色。こんなバラバラの理由で、彼らは本当に箱根に行けるのか?
その一部始終を語り尽くすのが本書で、堂々の青春小説にして、アンチ・スポ根小説。着想から足かけ六年かけたということもあって、テレビには映らない箱根駅伝の下部構造を垣間見られるのも興味深い。特に山道やカーブ、道路の細かな起伏など、足の裏でしか捉えられない十区間の地理的特質が、各ルートに投入されたメンバーのキャラや性格とあいまって手に汗握る展開になっているのもハイライトだ。
しかし、本書は愉快で、爽快で、痛快なだけの物語ではない。走るという行為を通して、生きることの本質にまで触れようとするリーチがある。日本人は古来より人生を旅(歩行)になぞらえ、それが日本文学の核になってきた。本書はそれを走ることの中に見ようとした一作のように私には思える。
蔵原は高校時代、あることがあって競技者生活から身を引いた。蔵原は思う。走るとは一人で黙々と取り組む孤独な行為だ。「さびしい場所」にいってしまう、と。しかしこの無謀な駅伝プロジェクトを始めて、走りの奥に見る蔵原の風景は変わっていく。さびしいからこそ誰かとつながる強さがもてる、誰かと触れあう喜びがある、と。
走りを通した成長小説になっているのが、本書の最大の美質だろう。その証拠に、本書には聖痕(イコン)のように白いバンが登場する。と書いても意味不明だろうが、三浦さんの小説では、人が冒険するとき、旅立つとき、成長するとき、なぜか必ず白い車が登場することになっているのだ。『格闘する者に○』では、家出した主人公の弟が精気を取り戻して帰還する足として、『月魚』では友情を乗せるヴィークルとして、『白いへび眠る島』では少年が故郷の一夏を冒険して回る乗り物として、白の軽トラックが登場した。ここまでは著者曰く「白い軽トラック三部作」だが、直木賞受賞作『まほろ駅前多田便利軒』ではちゃっかり復活。全編これ白の軽トラックがないと成り立たない話になっている。本書では登場人物の多さもあって、さすがに車種はバンに変更されているが、十八歳から二十五歳までの若者たちは白い車で移動することによってなにかを得、確実に脱皮していくのである。
思えば、生きることは行き先のわからないロードノベル。車が旅立ちの合図になり、人の還る子宮になり、夢の揺り籠、希望の孵化器、ときにはまれびとを運んでくるカーゴになるのも当然かもしれない。この「白い車n部作」の行方、これからもしっかり見守っていきたい。

(ぬくみず・ゆかり フリーライター)

判型違い(文庫)

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