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大切なものがここにある――。
日本がまだ貧しく、希望だけが遠くに見えたあの頃。

めぐみ園の夏

高杉良/著

1,620円(税込)

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発売日:2017/05/22

読み仮名 メグミエンノナツ
装幀 加藤健介/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 271ページ
ISBN 978-4-10-454706-7
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,620円

昭和二十五年夏。両親に見捨てられた十一歳の亮平は、孤児たちが暮らす施設「めぐみ園」に放り込まれた。厳しい食糧事情、粗暴な上級生、園長夫妻の理不尽、幼い弟妹。亮平は持前の機転と正義感で、自らの道を切り拓いていく。「めぐみ園がなければ、作家になっていなかったかもしれない」――経済小説の巨匠、初の自伝的長編小説。

著者プロフィール

高杉良 タカスギ・リョウ

1939(昭和14)年、東京生れ。化学専門紙記者、編集長を経て、1975年「虚構の城」で作家デビュー。以来、経済界全般にわたって材を得て、綿密な取材に裏打ちされた問題作、話題作を次々に発表している。主な作品に『小説 日本興業銀行』『労働貴族』『広報室沈黙す』『燃ゆるとき』『王国の崩壊』『金融腐蝕列島』『不撓不屈』『乱気流』『挑戦 巨大外資』『反乱する管理職』『青年社長』『破戒者たち』『人事の嵐』『第四権力』『小説ヤマト運輸』『めぐみ園の夏』等がある。

目次

第一章 サレジオ学園で
第二章 母の情念
第三章 暴力少年
第四章 クリスマス・プレゼント
第五章 旧友たちの来園
第六章 父の愛情
第七章 我が師の恩

インタビュー/対談/エッセイ

いつも腹を空かせて、走り回っていた

高杉良

『金融腐蝕列島』、『不撓不屈』、『組織に埋れず』――経済小説の巨匠が初めて明かす生い立ち。感動の自伝的小説の舞台が、いま語られる。

――数々の経済小説、企業小説で知られる高杉さんが、初の自伝的作品『めぐみ園の夏』に取り組んだきっかけを教えてください。

 ちょうど2年前の今頃です。息子一家と食事していた時に、これまで経済物、企業物でやってきたが、そろそろ自分のことを書いたらという話になりました。考えてもみなかった話ですが、そうか、書くなら「めぐみ園」だろうと。

――作品の舞台は、昭和25年、千葉県の児童養護施設。そこに小学校6年生の杉田亮平君が入園してきます。

 本名そのままではちょっとね(笑)。一字変えることにしましたが、もちろん僕自身といっていい。書くと決めたら、どっと湧き出すように記憶がよみがえってきました。あの多感な少年時代の一年半のことは、よく憶えているんですね。大学ノートに、どんどんメモを取っていきました。

――戦争孤児の施設が舞台で、主題歌も有名なラジオドラマ「鐘の鳴る丘」が、昭和22年から25年まで放送されています。

「鐘の鳴る丘」は、時々ラジオで聴いていた記憶があります。「めぐみ園」も戦災孤児が多かった。そういう時代ですよ。両親がいない子が圧倒的で、親がいるのに入園したのは、僕たち四人きょうだいだけでした。

――この作品を読むまで、そのような生い立ちとは存じ上げませんでした。

 当時からの友達や家族はもちろん知っていますが、業界紙の記者になり、作家になってからの友人知人は、僕が施設にいたことは誰も知りません。「小説新潮」連載中に読んだ知合いは、みんな驚いていますよ。「あなたが施設の子だったとは。まったく信じられない」ってね。

――両親が健在でありながら、孤児たちの施設に入ることになった経緯は、作中にも詳しく描かれています。

 家庭が崩壊して、父親も母親も僕たちきょうだいを育てられる状況になかったんですね。それで母方の伯母が暗躍して、「めぐみ園」を探してきた。そんな中で、目黒で医院をやっていた父方の伯父が支えになってくれました。

――吉村昭氏の『深海の使者』にも登場する、杉田保中佐。

 戦前、軍医としてドイツに駐在し、Uボートで海底を這うようにして帰国した伯父です。ドイツから絵本を送ってきてくれたり、幼い頃から大変世話になった。この偉大な伯父を自分なりに書き留めておきたいという思いもありました。

「めぐみ園」があったから今がある

――昭和25年といえば、朝鮮動乱が起きた年です。緊迫した時代ですが、「めぐみ園」での生活は、どのようなものでしたか。

 いつも走り回っていた。いつも腹を空かせていた。切ない、辛い、厳しい生活でした。学校では差別され、悪ガキに「残飯野郎」などといじめられる。だから、僕以外の園児たちは園と学校を往復するだけで、外に出て行かないし、学校で友達も作らないんです。僕は平気で、学校の友達の家にも遊びに行った。施設の子だからといって、いじけなかった。

――亮平君がボクシングで悪ガキをやっつける場面も痛快でした。

「めぐみ園」はキリスト教系だったこともあって、米軍キャンプと縁があったんです。それで、ボクシングのグローブが手に入って、園でボクシングを経験していた。だから悪ガキに勝てたんです。自分は強運だと、いつも思いますよ。

――その悪ガキとも友達になって、勉強を教えてあげる関係になります。厳しい境遇や時代の激動にもかかわらず、希望を感じさせる明るい空気が作品全体を包んでいます。

 やさしい人たちに恵まれたんですね。保母さんや園の作業員、学校の教師も、みんな親身になってくれた。肺炎に罹った時は、園に付随する診療所の医師が、当時貴重だったペニシリンを、園長の反対を押し切って使ってくれて、一命を取り留めたこともありました。

――小説の中には書かれていませんが、「めぐみ園」のモデルになった施設は、実は今から20年ほど前に、児童虐待が発覚し、新聞や国会でも取り上げられる大きな事件になっています。

 園の経営者母子に問題があることは、この小説の中でも書きました。事件への伏線というか、さもありなんでしょう。いろいろなことがありましたが、めぐみ園の生活があったから今日の自分がある、あの頃の経験が糧になっているという思いはあります。これ以上厳しい生活はないわけだから、それを乗り越えたことが自信になり、心の支えになっています。

――それで本の帯にあるように「めぐみ園がなかったら、作家になっていなかったかもしれない」と。

 この小説を書いていると元気が出る。時には泣きながら書いたり、作中に出てくる唱歌を歌って気分転換したりもしましたが、何よりも元気が出る。読者にも、その元気を伝えられる作品になっていると思います。

――「めぐみ園」を出た後の亮平が気になります。

 続編は、可能性はあるとだけ言っておきましょう。もちろん、経済小説、企業小説も書いていきます。後期高齢者がこんなに仕事をしていいのかと思うけど(笑)。

(たかすぎ・りょう 作家)
波 2017年6月号より

作家自作を語る

「めぐみ園がなければ、私は作家になっていなかった」

【収録】2017(平成29)年5月

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