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五百二十日に及ぶ獄中生活を経て、すべてを奪われた男が沈黙を破る。

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―

佐藤優/著

1,728円(税込)

本の仕様

発売日:2005/03/25

読み仮名 コッカノワナガイムショウノラスプーチントヨバレテ
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 398ページ
ISBN 978-4-10-475201-0
C-CODE 0095
ジャンル 政治、ノンフィクション
定価 1,728円

有能な外交官にして傑出した諜報員――。国を愛し、ロシア外交の最前線に飛び出した男は、なぜ、国に裏切られ、逮捕されなければならなかったのか? 政官財を巻き込んだ対立軸が交錯し、国益、国策、利権、野望など様々な思惑が複雑に絡み合う中で、対ロ交渉の実務と情報収集・分析を担っていた男は、何をしようとしていたのか?

著者プロフィール

佐藤優 サトウ・マサル

1960(昭和35)年生れ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了の後、外務省入省。在英大使館、在露大使館などを経て、1995(平成7)年から外務本省国際情報局分析第一課に勤務。2002年5月に背任容疑で、同7月に偽計業務妨害容疑で逮捕。2005年2月執行猶予付き有罪判決を受けた。同年『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』で毎日出版文化賞特別賞を受賞した。主な著書に『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞)、『獄中記』『国家の謀略』『インテリジェンス人間論』『交渉術』『功利主義者の読書術』『外務省に告ぐ』『紳士協定―私のイギリス物語』『いま生きる「資本論」』『君たちが知っておくべきこと』『学生を戦地へ送るには一田辺元「悪魔の京大講義」を読む』などがある。

書評

波 2005年4月号より 日本の大転換点を見事に喝破した力作  佐藤優 『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』

魚住昭

 これはとてつもない本だ。政官界の裏側や外交交渉の内幕をこれほどリアルに描いた作品があっただろうか。ここで明らかになった事実の数々は小泉政権に衝撃を与え、霞が関を震撼させずにはおかないだろう。
著者は学生時代に神学を学んだ異色の外交官だった。モスクワ大使館時代にソ連政界はもちろんロシア正教会や国家保安委員会(KGB)のほかマフィアにまで人脈を築き、ソ連の内情に最も通じた日本人になった。
帰国後は鈴木宗男代議士(当時)を前面に押し立てて北方領土返還交渉に取り組み、「外務省のラスプーチン」と言われた。だが、二○○二年のムネオ疑惑に絡んで東京地検に逮捕され、今年二月、東京地裁で執行猶予付きの有罪判決(控訴中)を受けた。
その経緯を著者は克明に綴っているが、この種の手記にありがちな自己弁護の臭いはまったくない。「情報のプロ」として「私自身の周辺に起きたことをできるだけ自分の利害関係から切り離して理解」し、事実を正確に後世に残すという姿勢に揺るぎがない。
すべての始まりは四年前、小泉政権が誕生したことだった。天才的「トリックスター」田中真紀子外相の登場で外務省「ロシアスクール」の内紛に火がつき、省内の権力闘争や官邸の思惑も絡んで未曾有の大騒動になった。慌てた外務省は「危機の元凶となった田中真紀子女史を放逐するため」鈴木氏の政治的影響力を最大限に利用しようと画策する。
ある幹部は田中外相の省内での奇怪な言動をつづった怪文書を作って鈴木事務所に持ち込んだ。その怪文書を鈴木氏が著者に見せながら「俺のところに持ってくれば、それを新聞記者に配ると思っているんだな。その手には乗らないよ」と笑う場面が印象的だ。
その鈴木氏もやがて「知りすぎた政治家」として外務省の手で排除されていく。彼の圧力でアフガニスタン復興支援東京会議に特定NGOが招待されなかったとされる疑惑の意外な真相をお読みになれば、読者は官僚たちの狡猾さと無責任さに唖然とされるだろう。そして彼らの情報操作で世論が作られていたことに気づいて、愕然とされるにちがいない。
しかし、この本が凄いのはこうした内幕の暴露だけに終わらず、事件の背後にある国家の政策や時代の潮流の変化を極めて正確に捉えていることだ。ムネオ疑惑は日本外交のターニングポイントになったと著者は言う。
それまでの外務省には「日米同盟を基調とする中で、三つの異なった潮流」があった。第一の潮流は集団的自衛権を認めて、さらに日米同盟を強化しようという狭義の「親米主義」。第二は中国と安定した関係を構築することに比重を置く「チャイナスクール」の「アジア主義」。そして第三が東郷和彦・欧亜局長や著者ら「ロシアスクール」が主導した「地政学論」である。
この「地政学論」は日本がアジア・太平洋地域に位置していることを重視する。日米中ロの四大国によるパワーゲームの時代が始まったのだから、今のうちに最も距離のある日本とロシアの関係を近づけ、日ロ米三国で将来的脅威となる中国を抑え込む枠組みをつくっておこうという考え方だ。
だが、ムネオ疑惑で「地政学論」のロシアスクールが外務省から排除された。さらに親中派の田中外相の失脚で「アジア主義」が後退し、結局「親米主義」が唯一の路線として生き残った。その結果生まれたのが今の対米追従一辺倒の外交政策である。もし一連の事件がなかったら、今ほどロシアや中国との関係は悪化しなかっただろうし、自衛隊のイラク派遣や多国籍軍参加もなかっただろう。
外交政策だけではない。著者はムネオ疑惑が日本の社会・経済モデルを従来の「公平配分」型から金持ち優遇の「傾斜配分」型に転換させる機能を果たしたと指摘する。
鈴木氏は公共事業で中央の富を地方に再分配する「公平配分」型の代表的政治家だ。小泉政権は政治腐敗の根絶をスローガンにして鈴木氏を叩くことにより、国民の喝采を浴びながら「傾斜配分」型モデルへの路線転換を容易にすることができたというわけだ。
拘置所の調べ室で検事が漏らした言葉が、正義の名の下に行われた検察捜査の本質を端的に示している。「これは国策捜査なんだから。あなたが捕まった理由は簡単。あなたと鈴木宗男をつなげる事件を作るため。国策捜査は『時代のけじめ』をつけるために必要なんです。時代を転換するために、何か象徴的な事件を作り出して、それを断罪するのです」
本書にはソ連崩壊時の共産党の内情やエリツィン「サウナ政治」の実態、北方領土交渉に取り組む日本の歴代首相の姿など貴重な歴史的証言も満載されている。今後、この本を抜きにして現代日本の政治や外交は語れないだろう。十年に一度出るか出ないかの超一級のノンフィクションである。

(うおずみ・あきら ジャーナリスト)

目次

序章 「わが家」にて
拘置所グルメ案内
「日朝首脳会談」の報
役に立った「宗教」と「神学」
「ゴルバチョフ生存情報」
イリイン氏の寂しい死
法廷という「劇場」
第一章 逮捕前夜
打診
検察の描く「疑惑」の構図
「盟友関係」
張り込み記者との酒盛り
逮捕の日
黒い「朱肉」
第二章 田中眞紀子と鈴木宗男の闘い
「小泉内閣生みの母」
日露関係の経緯
外務省、冷戦後の潮流
「スクール」と「マフィア」
「ロシアスクール」内紛の構図
国益にいちばん害を与える外交官とは
戦闘開始
田中眞紀子はヒトラー、鈴木宗男はスターリン
外務省の組織崩壊
休戦協定の手土産
外務官僚の面従腹背
「九・一一事件」で再始動
眞紀子外相の致命的な失言
警告
森・プーチン会談の舞台裏で
NGO出席問題の真相
モスクワの涙
外交官生命の終わり
第三章 作られた疑惑
「背任」と「偽計業務妨害」
ゴロデツキー教授との出会い
チェルノムィルジン首相更迭情報
プリマコフ首相の内在的ロジックとは?
ゴロデツキー教授夫妻の訪日
チェチェン情勢
「エリツィン引退」騒動で明けた二〇〇〇年
小渕総理からの質問
クレムリン、総理特使の涙
テルアビブ国際会議
ディーゼル事業の特殊性とは
困窮を極めていた北方四島の生活
篠田ロシア課長の奮闘
サハリン州高官が漏らした本音
複雑な連立方程式
国後島へ
第三の男、サスコベッツ第一副首相
エリツィン「サウナ政治」の実態
情報専門家としての飯野氏の実力
川奈会談で動き始めた日露関係
「地理重視型」と「政商型」
飯野氏への情報提供の実態
国後島情勢の不穏な動き
第四章 「国策捜査」開始
収監
シベリア・ネコの顔
前哨戦
週末の攻防
クオーター化の原則
「奇妙な取り調べ」の始まり
二つのシナリオ
真剣勝負
守られなかった情報源
条約課とのいざこざ
「迎合」という落とし所
チームリーダーとして
「起訴」と自ら申し出た「勾留延長」
東郷氏の供述
袴田氏の二元外交批判
鈴木宗男氏の逮捕
奇妙な共同作業
外務省に突きつけた「面会拒否宣言」
第五章 「時代のけじめ」としての「国策捜査」
鈴木宗男と杉原千畝
下げられたハードル
ケインズ型からハイエク型へ
「国際協調的愛国主義」から「排外主義的ナショナリズム」へ
「あがり」は全て地獄の双六
ハンスト決行
「前島供述」との食い違い
再逮捕への筋書き
再逮捕の日
取調室の不思議な会話
三つの穴
再々逮捕を狙う検察との持久戦
やけ酒
不可解だった突然の終幕
それから
第六章 獄中から保釈、そして裁判闘争へ
拘置所の「ゆく年くる年」
歴史に対する責任
確定死刑囚
三十一房の隣人
保釈拒否の理由
友遠方より来たる
保釈と別れ
「国家秘密」という壁
東郷氏の「心変わり」
論告求刑
被告人最終陳述
判決
あとがき

判型違い(文庫)

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