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十五歳の少年と三十六歳の女性の切ない恋。彼女が隠していた忌わしい秘密とは?

  • 受賞第54回 毎日出版文化賞
  • 映画化愛を読むひと(2009年6月公開)

朗読者

ベルンハルト・シュリンク/著、松永美穂/訳

1,944円(税込)

本の仕様

発売日:2000/04/26

読み仮名 ロウドクシャ
シリーズ名 新潮クレスト・ブックス
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 214ページ
ISBN 978-4-10-590018-2
C-CODE 0397
ジャンル 文芸作品、評論・文学研究
定価 1,944円

「胸を締めつけられる残酷な愛の物語。ひとたび読み始めると、もう手放せない」。数々の賛辞に迎えられて、ドイツでの刊行後五年間に二十五カ国で翻訳され、アメリカでは二〇〇万部を超えるベストセラーに。待望の日本語版刊行です。

著者プロフィール

ベルンハルト・シュリンク Schlink,Bernhard

1944年ドイツ生まれ。小説家、法律家。ハイデルベルク大学、ベルリン自由大学で法律を学び、ボン大学、フンボルト大学などで教鞭をとる。1987年、『ゼルプの裁き』(共著)で作家デビュー。1995年刊行の『朗読者』は世界的ベストセラーとなり2008年に映画化された(邦題『愛を読むひと』)。他の作品に『帰郷者』(2006)、『週末』(2008)、『夏の嘘』(2010)など。2017年6月現在、ベルリンおよびニューヨークに在住。

松永美穂 マツナガ・ミホ

1958年生まれ。早稲田大学教授。著書に『誤解でございます』など、訳書にベルンハルト・シュリンク『朗読者』(毎日出版文化賞特別賞受賞)、ジークフリート・レンツ『黙祷の時間』、へルマン・へッセ『車輪の下で』、ペーター・シュタム『誰もいないホテルで』など。

判型違い(文庫)

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短評

▼Ikeuchi Osamu 池内 紀
ある日、本屋にベルンハルト・シュリンクが並んでいた。版元はディオゲネス。趣味のいい出版社で、装幀だけでひと目でわかる。シュリンクは1944年の生まれ。ボンの弁護士で、ベルリンにも事務所をもっている。社会派の弁護士として聞こえていた。小説を書き出したのは、ごく最近だ。数年前、ドイツのミステリー大賞を受賞した。新作の『朗読者』が、ずっとベストセラーの上位にある。さっそく手に入れて、いつものカフェで読みはじめた。――気がつくとカフェに灯がともり、外はとっぷり暮れていた。こんなに読み耽ったのはひさしぶりだ。

▼Hannes Hintermeier ハンネス・ヒンターマイアー[アーベントツァイトゥング]
胸を締めつけるような残酷な愛の物語。ひとたび読み始めるともう本を手放すことができないほどの吸引力を持った長編小説。

▼The New York Times Book Review ニューヨーク・タイムズ・ブック・レビュー
感動的で、示唆に富み、究極的には希望にあふれている。『朗読者』は国境を越え、読む人の心に直接語りかける。

▼Der Spiegel シュピーゲル
これは文学的事件だ。ドイツ文学では、ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』以来最大の世界的成功を収めた作品。

▼Michael Stolleis ミヒャエル・シュトライス[フランクフルター・アルゲマイネ]
驚くほど正確で、読者の感情移入を促す文体。ここに表われているのは、ほんものの作家としての力量だ。この「悲しい物語」は、シュリンクの人柄がもっともよく示されている本でもある。

訳者あとがき

「ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』以来、ドイツ文学では最大の世界的成功を収めた作品」。二〇〇〇年一月のある号で、週刊誌「シュピーゲル」はそんなふうに報じた。
 ベルンハルト・シュリンク。一九四四年生まれ、現在は伝統あるフンボルト大学(ベルリン)の教授で、専門は『朗読者』の主人公と同じ法律学(ドイツ統一後、それまで東ベルリンにあったフンボルト大学に招聘された最初の西ドイツの教授が彼だったそうだ)。これまでにミステリー小説を三冊出版し、そのうちの一作はテレビドラマにもなっているが、作家としてはまったく無名に近かった。周囲のとらえ方は、大学の仕事の合間に余技でミステリーも書いてしまう器用な先生、といった程度だったろう。しかし、一九九五年に出版した『朗読者』の大ヒットは、彼にとっての本業と余技を逆転させてしまった感がある。この作品は発売後五年間で二十以上の言語に翻訳され、アメリカでは二〇〇万部を超えるミリオンセラーになった。作品の映画化の権利は『恋におちたシェイクスピア』などを扱った映画会社ミラマックスが獲得し、『イングリッシュ・ペイシェント』の監督でもあるアンソニー・ミンゲラがメガホンをとる予定だという。
 小説の冒頭で描かれる十五歳の少年と彼の母親のような年齢の女性との恋愛はたしかにセンセーショナルなテーマではあるが、ナチス時代の犯罪をどうとらえるかという重い問題も含んだこの本がここまで国際的な成功を収めた背景は、いったいどこにあるのだろうか。この物語の一番の特徴は、かつて愛した女性が戦犯として裁かれることに大きな衝撃を受けながらも、彼女を図式的・短絡的に裁くことはせず、なんとか理解しようとする主人公ミヒャエルの姿勢にあるように思われる。彼女の突然の失踪に傷つき、法廷での再会後に知った彼女の過去に苦しみ、しかしそれでも彼女にまつわる記憶を断ち切ることはせず、十年間も刑務所に朗読テープを送り続けたミヒャエル。彼の律義さ、粘り強さには、ある種のドイツ人らしさが表われているように思う。前の世代が犯したナチズムという過失を見つめ続けることを余儀なくされ、それによって苦しむという体験は、敗戦後の民主主義教育を受けて育った彼の世代に共通のものだといえよう。しかしミヒャエル自身は「強制収容所ゼミ」に入って親の世代を糾弾する自分にかすかな良心の呵責を覚え、その後盛んになる学生運動に対しても距離をとり続けるのである。
 過去に犯した罪をどのように裁き、どのように受け入れるか。この本で描かれている裁判の時期は一九六〇年代半ばと考えられるが、西ドイツでは実際に一九六三年十二月から六五年八月にかけていわゆる「アウシュヴィッツ裁判」が開かれ、かつての収容所の看守たちが裁かれた。初めてドイツ人がドイツ人の戦争犯罪を裁いたこと(戦争直後のニュルンベルク裁判では連合国がドイツを裁いた)、収容所での実態が初めて法廷で明らかにされたことで話題になったこの裁判の模様は、ペーター・ヴァイスが一九六五年十月初演の『追究』において戯曲化している。そこでは、「自分はあくまで義務を遂行したのみで、ユダヤ人殺害の実態については知らなかった」と主張し、何とか罪を逃れようとする元看守たちの姿が際立っている。
 一方、『朗読者』におけるハンナは法廷において積極的に罪を認めると同時に、真実と違う事実認定にはとことん抗議しようとするが、いつのまにか主犯に仕立て上げられ、さらにもう一つ別の要素も加わって、他の被告よりも重い刑に服することになる。この作品では看守としてハンナが犯した罪だけではなく、おそらくは貧しさゆえに満足な教育を受けることができなかったハンナの境遇が重要なポイントになっている。それは戦争犯罪に対する一種の免罪符ととれないこともない。もし条件が違っていれば、ハンナは収容所の看守になることはなかっただろうし、裁判も彼女に不利にはならなかったかもしれない。囚人に本を朗読させるほど知識に飢えたハンナ、自分の境遇を隠し通そうとする彼女のプライド、そして刑務所での勉強。しかし、それはもはや彼女の自立を助けることにはならなかった……。
 戦後の歴史教育が抱える困難にも、シュリンクは光を当てようとする。ステレオタイプ化した収容所のイメージを頭にたたき込むだけでは、ほんとうに問題を理解することにはならない。主人公ミヒャエルは自分があまりにも収容所の実態について知らないことを自覚し、収容所の跡地を訪れるべくヒッチハイクの旅に出る。しかし、いまや無人の収容所跡に立ってみても、そこが実際に運営されていたころのことを思い浮かべるのは難しい。残された建物の外観は、どこにでもありそうなアットホームな印象すら与えるのだから。当時の人々の立場に立って考え、理解することの難しさがここでも強調されている。
「『朗読者』の場合は、一九九〇年代初めの東ベルリンとの出会いが重要な役割を演じていました」。
 執筆の動機を聞かれ、シュリンクは上のように答えている。統一直後の東ベルリンは灰色で、シュリンクが子供時代を過ごした一九五〇年代のハイデルベルクに似ていた、というのだ。通りを歩き、家々を眺めながら、彼の中で物語が膨らんでいった。シュリンクの目的は声高に物を教えることではない。ここで語られる事件についての判断は、読者に委ねられている。ハンナとミヒャエルの関係。裁判の経過。ハンナとミヒャエルの、その後の生涯。ハンナの最期を、読者はどのように受けとめられるだろうか。
 ジョージ・スタイナーは、この本を二度読むように勧めている。ストーリーがわかりにくいというわけではない。ただ、一読したときにはインパクトの強い事件ばかりが印象に残るが、二読目に初めて登場人物たちの感情の細やかさに目が開かれる、という体験を翻訳者もしている。感情の襞を日本語でどこまで伝え得たか心もとないかぎりだが、くり返し手に取ってもらうことができれば翻訳者としても嬉しいかぎりである。
 最後に、『朗読者』というタイトルについて。ドイツ語原題のDer Vorleserは男性単数形であり、明らかに主人公ミヒャエルを指している。『朗読する男』と訳すことも可能だったが、先に訳された英語版のタイトルがThe Readerとなっており、編集部の提案に従って『朗読者』とした。
 
 翻訳の出版にあたり、作品との出会いを与えて下さった池内紀さんとラルフ・オルターマンさん、ドイツの司法制度について教えて下さった須田真人さん、文字化けでたびたびご苦労をおかけした新潮社出版部の鈴木克巳さんに心からの感謝をお伝えしたい。この本が一人でも多くの読者に届き、長くお手許においてもらえることを祈りつつ。

 二〇〇〇年三月

松永美穂

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