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古い写真の中の、胸に黄色い星をつけた少女――いま彼女を探すこと、それは私自身を探すことだった。

  • 映画化サラの鍵(2011年12月公開)

サラの鍵

タチアナ・ド・ロネ/著、高見浩/訳

2,484円(税込)

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発売日:2010/05/31

読み仮名 サラノカギ
シリーズ名 新潮クレスト・ブックス
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 423ページ
ISBN 978-4-10-590083-0
C-CODE 0393
ジャンル 文芸作品、評論・文学研究
定価 2,484円

パリで平穏に暮らすアメリカ人記者ジュリアは、60年前にこの街で起こったユダヤ人迫害事件を取材することになった。それが人生のすべてを変えてしまうとも知らず……。国家の恥と家族の傷に同時に触れてしまったひとりの女性が、真実を、そして自分自身の生きかたを見つけようともがく闘いの記録。全世界で300万部突破。

著者プロフィール

タチアナ・ド・ロネ de Rosnay,Tatiana

1961年パリ郊外で生まれる。イギリスとフランス、ロシアの血を引く。パリとボストンで育ち、イギリスのイースト・アングリア大学で英文学を学んだ。その後パリへ戻り、オークションハウス〈クリスティーズ〉の広報、雑誌「ヴァニティ・フェア」のパリ特派員を経て作家に。フランス語で8冊の小説を出版した。『サラの鍵』は母語である英語で書かれた初めての小説。現在は夫と二人の子どもと共にパリ在住。

高見浩 タカミ・ヒロシ

1941年、東京生まれ。出版社勤務を経て翻訳家に。主な訳書に『羊たちの沈黙』『ハンニバル』『ホット・ゾーン』『ヘミングウェイ全短編』『日はまた昇る』『武器よさらば』『サラの鍵』『父と息子のフィルム・クラブ』『ヘミングウェイの妻』『思い出のマーニー』など。著書に『ヘミングウェイの源流を求めて』がある。

書評

波 2010年6月号より 直視する勇気、成熟

蜂飼耳

自分が直接、手を下したわけではない悲惨な出来事に対して、後から来た人間は、どのように向き合うことが可能だろうか。そもそも、それは可能なのか。タチアナ・ド・ロネの小説『サラの鍵』の核心にある視線は、そういうものだ。
語り手は、アメリカ・ボストンに生まれ育ち、結婚してパリに暮らす四十五歳のジャーナリスト、ジュリアだ。夫はフランス人。二人のあいだには十一歳になる娘がいる。二〇〇二年、ジュリアは雑誌に「ヴェルディヴ」六十周年記念についての記事を執筆することになる。「ヴェルディヴ」とは「ヴェロドローム・ディヴェール」のこと。主に自転車レースがおこなわれた屋内競技場だが、同時にそれは、第二次世界大戦中のドイツ軍占領下パリで起きたユダヤ人迫害の象徴でもある。一九四二年七月十六日、ユダヤ人の一斉検挙があり、四千人以上の子どもをふくむ、多数のユダヤ人がここへ収容され、何日も閉じこめられた。ここから、人々はパリ近郊の収容所へ連れていかれ、やがて、列車でポーランドのアウシュヴィッツへ移送され、殺される。
一斉検挙の後、からっぽになったアパルトマンに入居したのは、ユダヤ人ではないフランスの人々だった。ジュリアは「ヴェルディヴ」について調べるうちに、夫の祖父母もそのようにしてパリのサントンジュ通りへ引っ越したことを知る。この話題を、夫の家族は避けようとする。夫の祖母であるマメも、夫の父のエドゥアールも、そして夫自身も。ジュリアは、明かされない背景について疑いを抱き、苛立つ。夫は、こういうのだ。「そんなことを気にかけるやつは、もう一人もいないぞ。そんなことを記憶している人間だって、もういないさ」と。はたして、そうなのだろうか。ジュリアの心は揺れる。記事を書くための調査は、少しずつ進んでいく。
ジュリアが執筆している雑誌の編集長であるジョシュア、同僚のバンバー、親族を迫害で殺された友人のギヨーム、かつて収容所があった町に住み、聞かれればぽつりと過去を語る老人たち。ジュリアは、見えない糸をたぐり寄せていく。そして、自分が住むことになりそうなアパルトマンに秘められた過去を、直視する。検挙の際に、そこから両親とともに連れ去られた十歳の少女の名は、サラ。そのとき、四歳の弟は秘密の納戸に隠れたのだった。必ずもどって来るから待っているように、と姉のサラは弟に告げ、扉に鍵をかける。
この小説は、ジュリアが生きる現在と、第二次世界大戦中の時代とを、交互に重ねるかたちで書かれている。ジュリアの現在と、サラの現在。パラレルに進行するこの二重の構成が、実際に会う機会はない二人の時間を、読者の視界のなかで、近づける。サラとその家族の運命を追いかける日々を通して、ジュリアは変わっていく。もしくは、すでに生じていた自分の変化に気づく。すれちがう夫との生活、妊娠、新たな子どもを望まない夫の意思。ジュリアは、自分の気もちと向き合うことで、自分自身を取りもどしていく。
過去の悲惨な出来事に対して、人はどんな態度をとることができるだろうか。蓋をして見ずにやり過ごし、忘れる。あるいは、ありのままの事実を見つめて、受け止める。ジュリアには目をそらさない勇気がある。隠蔽する苦しみよりは、直視する苦しみを選択する。「ヴェルディヴ」とサラの境涯を知ることによって、というよりも、事実と直面する自分の態度そのものを通して、ジュリアは変わっていくのだ。
ユダヤ人迫害をテーマとする文学作品はいくつもあるが、この小説は、過去を振り返り、凄惨な事実を直視することでいっそうの成熟を与えられる一人の女性を描いている点に、焦点がある。自分が直接関わったわけではない悲惨な過去からも、人は学ぶ。学び取ってしまう。他人の悲しみは、他人だけの悲しみではない。出来事と感情の連鎖を、イギリス、フランス、ロシアの血を引く著者の視座から描く。サラが弟を隠した納戸の鍵。それは、あたかも読者にとっての心の鍵であるかのように、小説の底で冷たく、光りつづける。

(はちかい・みみ 詩人)

短評

▼Mimi Hachikai 蜂飼耳
悲惨な出来事に対して取ることができる態度は二つある。一つは忘却のかなたへ押しやること。もう一つは、心にとめて見つめること。この小説の主人公であるジャーナリストのジュリアは後者を選ぶ。戦時中にフランスで起きたユダヤ人迫害と現在の自分のあいだに、関係の糸を見いだし、失望や困難に打ち負かされることなく、それをたぐり寄せていく。悲しみを受けとめて、分かち合おうとする勇気。ユダヤ人の少女サラの足跡を求める日々がジュリアにいっそうの成熟を与える。現在はいつでも過去の土壌の上に枝を揺らす樹木だ。

▼Beth Harbison ベス・ハービソン
美しく、痛切で、圧倒的な説得力。時に読み続けるのが苦しかったけれど、どうしても本を置くことができなかった。

▼Le magazine des Livres ル・マガジーヌ・デ・リーヴル誌
ここに描かれた歴史的な出来事はすべて事実だ。私たちはサラが自分の人生を戦う姿に感動する。同時に、アメリカ人記者のジュリアがどこまでも真実を追い求め、人々の良心を呼び覚ましていくさまにも胸を打たれるのだ。

▼Jenna Blum ジェナ・ブルム
ホロコーストにまつわる恐ろしい話は全て読んだと思っていたところに、新しい本が現れ、知られざる悪行に鋭い光を当てる。『サラの鍵』はまさにそういう小説。同時に、物語が個人的な目線で語られるため、読者は涙を流さずにはいられない。そして、この物語を忘れることもできないだろう。

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