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アメリカの片隅で同じ時代を生きる、ひとりひとりの、忘れがたい輝き。

あなたを選んでくれるもの

ミランダ・ジュライ/著、岸本佐知子/訳

2,484円(税込)

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発売日:2015/08/27

読み仮名 アナタヲエランデクレルモノ
シリーズ名 新潮クレスト・ブックス
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 246ページ
ISBN 978-4-10-590119-6
C-CODE 0397
ジャンル エッセー・随筆、ノンフィクション、演劇・舞台、映画
定価 2,484円

映画の脚本執筆に行き詰まった著者は、フリーペーパーに売買広告を出す人々を訪ね、話を聞いてみた。革ジャン。オタマジャクシ。手製のアート作品。見知らぬ人の家族写真。それぞれの「もの」が、ひとりひとりの生活が、訴えかけてきたこととは。カラー写真満載、『いちばんここに似合う人』の著者による胸を打つインタビュー集。

著者プロフィール

ミランダ・ジュライ July,Miranda

1974年ヴァーモント州生まれ。カリフォルニア大学サンタクルーズ校を中退後、ポートランドでパフォーマンス・アーティストとしての活動を開始し、短篇映画も撮り始める。2005年、脚本・監督・主演を務めた初の長篇映画『君とボクの虹色の世界』がカンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞、大きな注目を浴びる。2007年、初めての短篇集『いちばんここに似合う人』でフランク・オコナー国際短篇賞を受賞。2011年、2作目の長篇映画『ザ・フューチャー』および『あなたを選んでくれるもの』を発表。2015年には初めての長篇小説The First Bad Manを刊行した。2012年に長男を出産、夫で映像作家のマイク・ミルズとともにロサンジェルスに暮らす。

岸本佐知子 キシモト・サチコ

1960年生まれ。翻訳家。訳書にリディア・デイヴィス『話の終わり』、ジュディ・バドニッツ『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』、ニコルソン・ベイカー『中二階』、ジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』、ショーン・タン『遠い町から来た話』など多数。編訳書に『変愛小説集』、『居心地の悪い部屋』、著書に『ねにもつタイプ』など。

インタビュー/対談/エッセイ

電話をかけて、誰かと話さなくちゃ
聞き手:フェリス・ルシア・モリーナ
翻訳・西山敦子
写真:ブリジット・サイアー

ミランダ・ジュライ

いちばんここに似合う人』に続くミランダ・ジュライ2冊目の著書は、フリーペーパーで見つけた12人へのインタビュー集だ。
彼女はなぜ、見ず知らずの人々に会いに行こうとしたのか。
彼らは何を感じ、考え、どんなふうに暮らしてきたのか。
胸を打つ異色作が生まれる過程を率直に語るロングインタビュー。



 映画「ザ・フューチャー」の脚本執筆に行き詰まっていたミランダ・ジュライは、日用品の個人売買を仲介するフリーペーパー「ペニーセイバー」に目を留める。革ジャン、ドライヤー、おたまじゃくし、他人の家族写真。思い思いの品物の売買広告を出している人たちを、彼女は訪ねてみようと思い立った。まずは電話をかけて「ペニーセイバー」の広告を見て連絡している旨を告げ、それからインタビューもさせてくれるように依頼をする。そして友人で写真家のブリジット・サイアーを伴って、彼らの家に向かった。

パソコンを持たない人たち

――この本に収められたインタビューでは、毎回と言っていいほど、パソコンというモチーフが出てきますね。
 はじめからそこに注目していたわけではないんですが、彼らの家にはだいたいパソコンがなくて、だからパソコンを使うことで生じるメンタリティも持っていないということがわかってきたんです。わたしはいつも「不在」とか「欠如」に興味があります。どこにでもあるものがないような場合は特に。

――パソコンを使うことと、「ペニーセイバー」で誰かと触れ合うことは、どんなふうに違うんでしょうか。
「ペニーセイバー」は最初からフィジカルな経験なんです。めくれば指先が汚れるし。まず電話をかけて、誰かと話さなくちゃいけない。それがすごく魅力的で、この発想こそ大切なんだと思えたんです。

――広告を出している人が、電話の向こうにちゃんといる。
 ええ、向こうは売りたいものを見せる準備をして待っています。わたしがそこにいても場違いじゃないし、図々しくもない。でもインタビューとなると話は別で、ほとんどの人にそこまではできないと断られました。でも、受けてくれるという人もいた。

――引き受けてくれた人たちは、やはり孤独を感じていて誰かとつながりたいとか、話をしたいと思っていたんでしょうか。
 あからさまにそうだとわかる場合もありました。電話口ですぐに用件以外のことを話しだしたり。ジョーは早口でとにかくよく喋りました。それで「よければお宅にうかがって、お話を聞かせてもらいたいんですが」と言うと「うんうん、もちろん」と。ほかの人たちも、なんとなく興味をそそられたんでしょうけど、なぜわたしを家のなかに入れてもよいと判断したのかはよくわからない。彼らがわたしになにを求めているのか感じ取るのも自分の役割のひとつだと思っていました。

――ソーシャルワーカーとセラピストの中間のようなものだった、と言っていましたね。助産師みたいな部分もあったのでは?
 助産師ね、確かに。わたしも子どもを産んだばかりだから、わかります。出産のときって、自分のパーソナルな部分を他人とたくさん分かち合うことになる。でもわたしはもともと利他的なタイプじゃないし、人を助けるのが仕事でもない。彼らの人生をよりよくする必要はないのよ、と自分に言い聞かせ続けました。ただうっとうしいだけかもしれないし、不適切な質問をするかもしれない。わたしは自分が考えるストーリーにひたすら突き動かされていただけなんです。

現実に嫉妬する

――彼らとの出会いが映画「ザ・フューチャー」へのインスピレーションにもなった。
 ええ。「ああもう、こっちのほうがわたしの書いてるお話より全然おもしろいじゃない」と感じました。現実がおもしろすぎて、嫉妬してしまう。それでもしばらくは踏みとどまっていましたが、素人で、しかも文明社会の外側で生きているこういう人をキャスティングすることこそ、かっこいいパンクなやり方に思えてきて。資金面の状況はどうせよくないんだし、やってみよう、と。失うものはなにひとつなかったし、どうせ後で手を引きそうなスポンサーをふるいにかける、ちょうどいい試金石になるとも思ったんです。

――ジョーと奥さんのキャロリンに出会ったことは、素晴らしい偶然であり運命でしたよね。映画でジョーがかなり重要な役割を演じますが、これはリスキーなことでしたか。
 運命とか奇跡があるとするなら、まさにそれそのものでした。撮影クルーのほとんどが「これ、どうするんだ?」という感じで完全に混乱していましたが、気づけば現場がわたしのほうにぐっと近づいていました。

――ジョーの出演したシーンはほとんど即興によるものですね。彼が決められたセリフをなかなか言えなくて、ようやく発した彼流の言い回しのほうがよいものになったり。
 あれはとてもハッピーなアクシデントでした。もとのセリフは「君らはまだ始まりの途中なんだよ」。でも彼の言葉では「始まりはまだ終わっていないんだ」になってしまう。たぶん、とてもロジカルな人だから。このカップルはつき合って四年目だと説明すると、ジョーは「始まり」の長さと段階を示すべく「始まりはまだ終わっていない」と言うんです。そこでわたしも「そうか、〈始まり〉にも長さがあるのね」と気づいて。「始まり」にも始めがあって、真ん中があって、終わりがある。これは時間についての映画だし、このカップルの人生の「始まり」の長さや、猫の生涯の終わりについての映画でもある。そのことに気づいたおかげで、これが「枠組み(フレームワーク)」についての映画なのだということが、はっきりとわかりました。

――あなたはスピリチュアルなほうですか。この本では、星の巡り合わせのようなことにもかなり言及しているように思いますが。
 本のタイトルでそれを表そうと思いました。はっきり頭でわかる部分だけではなく、自分の意識のすべての部分に耳を傾ける。魔法のようなものがあると思っているのではなくて、目に見えるものに限定せず、自分のさまざまな部分がひきつけられているものを信じようとしているんです。「ザ・フューチャー」のジェイソンの人物像には、そういう生き方を織り込んでみました。わたしが演じたソフィーという人物のほうは、恐怖にとらわれると人はどうなるかを体現しています。

――『あなたを選んでくれるもの』に出てくる人たちについて、聞きたいことがたくさんあります。例えばベヴァリー。彼女はちょっと気持ちの悪いフルーツサラダを作ってくれましたよね。それがまるでなにかの予兆のようで、あなたはすぐに帰りたいと感じる。
 そう、どんなものが出てきても受け入れる聖人になることはできない。悲しいことですよね。実はこういうプロジェクトをやるのは、ひとつにはわたしの対人関係に問題があるからなんです。知らない人と一緒にいるのは本当に居心地が悪くて。だからわざとそのことに向き合わなくちゃいけない状況を作り出して、自分を見つめ直すようにするんです。今回、わたしの問題はまったく改善されませんでしたが、少なくとも自分のしたことをすべて観察して記録しました。悲しい気持ちになってしまいましたけど。もっと明るい結果にだってなったはずなのに、と思って。

それぞれの内面とファンタジー

――パムの場合はどうですか? お金持ちの白人夫婦のアルバムを見て、客船や世界旅行へのファンタジーを抱いている女性ですが。それから、彼女と同じようにマネキンや写真などイメージ(表象)に強くひきつけられているレイモンドやドミンゴは? ファンタジーや欲望をはらんだ彼らの肉体的/精神的/感情的空間に立ち入るのは、どんな気分でしたか。
 彼らに対してわたしが感じたことはそれぞれ違っていますが、でもあえてまとめれば、彼らが抱える内面世界やファンタジーにこそ、わたしは惹かれるんです。この本全体が、なんらかの形でそういうことを扱っています。コラージュとか他人の写真のアルバムに強い思い入れを抱くことが、変態的だとか異常な収集癖だとは思わない。もし集めているのがネット上のセレブの画像なら、誰しもが普通のことと見なすでしょう。本当は同じことなんです。それにこのご時世に「ペニーセイバー」を通して物を売る人たちが、デジタルではないもの、つまり空間に実在するものを扱うのは当然といえば当然のことです。

――ドミンゴについて少し話してもらえますか。
 会う前に彼のコラージュと写真の封筒を見ていたので「なにこの人、コワいかも」という感じでした。でも彼は、なぜそういうものを集めるのか、はっきりと、正直に話してくれました。「これからも自分は絶対に家庭や仕事を持つことはない」と彼は言うんです。おとなになることとほぼ同義だと、みんなが何となく教えられてきたものを、ドミンゴはこれからも持たない。家族も、仕事も。写真やコラージュはイヤらしいものじゃない、と彼は言いました。そんなふうに疑われるかもしれないことも知ってるけど、と。彼はカウンセリングも受けているようでした。大切なのは本人の言葉でしょう。「写真を壁に貼れば、自分にも仕事や家族があると空想したいときに役立つ。その世界に浸れるんだ」と。

――この「ペニーセイバー」版ビジョン・クエスト(自らの使命を知るため数日間自然の中をさまよう、ネイティヴ・アメリカンの儀式)は、ロサンジェルスじゅうの切ない思い出がつまった場所の連なりのようです。出会った人や見たものすべてに対する、あなたの口に出さない不思議な思いを感じるというか。
 そう、わたしはすぐ感情が高まるし、涙もろいんです。自分のそういう部分にすべてが影響されてしまわないよう、気をつけなくちゃいけなくて。「そこでわたしは涙をこぼした」と付け加えることもできましたけど。どれだけ居心地が悪くても、その場のリアリティのなかにいようとけっこうがんばりました。そして、いつも心を揺さぶられました。

――インタビューした人たちには、完成した本を見せましたか。
 ただひとり見てほしかったのはジョーでしたが、亡くなってしまいました。彼の娘さんと妹さん、お孫さんとは連絡を取っています。彼らはお互い疎遠になってしまっていて。ジョーにお別れを言えなかったり、もともと彼のことをあまり知らなかった親戚の人たちにとっては、この本と映画が大切なものになっているんです。実はつい最近、メールをくれた人がいて、「先週末にフリーマーケットで買った写真に住所が書いてあり、住人の名前が分かりました。それがジョー・パターリック氏で……」

――ええ、すごい!
「……そこからあなたにたどり着きました」って。実はそれで初めて、ジョーのお孫さんはお祖父さんの死を知ることになったんです。

――その男性はなぜあなたに連絡を?
 親切な人でした。お金を取ろうとかではなく、すごく興味を持ったみたいで。しばらくはわたしがそのアルバム三十冊を手元に置いていました。白黒写真から始まって最近のまで、子どもたちが成長し、結婚する姿まで見ました。アルバムの写真を眺めて、予想だにしなかったほどあの家族のことをよく知りました。その時点で、ジョーとキャロリンの夫婦はふたりとも亡くなっていました。彼らの息子がアルバムを保管していましたが、彼も交通事故で死んでしまい、それでオークションにかけられたんですね。アルバムはつい先週、ジョーの娘さんに全部送りました。そうなって本当によかった。彼女には唯一残された家族の思い出の品ですから。アルバムが奇跡的に救い出されたのはインターネットのおかげ。ネットはやっぱり便利ですよね。

――見知らぬ人との間に不思議なつながりを感じたことは、これまでにもありましたか。
 ええ、それはまた別の話。始まりは高校生のときまでさかのぼるんです。なぜかわからないけれどずいぶん長い間、わたしはそういうことをしてきてるんです。

“I Got To Pick Up The Phone and Talk To Somebody”
by Feliz Lucia Molina
(c)BOMB Magazine December 5,2012

Miranda July
1974年ヴァーモント州生まれ。カリフォルニア大学サンタクルーズ校を中退後、ポートランドでフェミニズムとパンクが融合した「ライオット・ガール」ムーブメントに加わり、短篇映画も撮り始める。2005年、カンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞。2007年、初めての短篇集『いちばんここに似合う人』でフランク・オコナー国際短篇賞を受賞。2011年、映画「ザ・フューチャー」を発表。2012年に長男を出産、夫で映像作家のマイク・ミルズとともにロサンジェルスに暮らす。

波 2015年9月号より

短評

▼Tsumura Kikuko 津村記久子
他者の中に埋まっている宝物を拾うような前半に興奮しながら、やがて他者という迷宮の中で立ちすくむ。他人とはこんなにも息苦しく、もの悲しく、違和感に満ち満ちたものなのだろうか。本書に登場する「他人」はあまりにも濃厚である。こんなやり場のない気持ちになるぐらいなら知りたくなかったとさえ思う。他者と関わることは相手の業に腕を突っ込む危険を冒すことでしかないのか。そして老いがもたらすものは小銭でしかないのか。答えは最後に訪れる。泣いた。出会う人々からこれほどの物語を引き出したミランダ・ジュライに感謝する。

▼Herald ヘラルド紙
楽しい本であり、それ以上に、奇妙に胸を打つ本だ。人生につまずくことの深い悲しみが、とても近くから共感を持って見つめられていることに、感動を覚えた。

▼Big Issue ビッグ・イシュー誌
ジュライの共感力の強さ、人とつながることへの執着は、本物のあたたかさを運んでくる。本書はアメリカの社会についての興味深い洞察でもある。

▼The Observer オブザーヴァー紙
彼らのストーリーはそれぞれに奇妙で、感動的で、中には読者を動揺させるようなものもある。そして彼らのキャラクターに劣らず強力なのが、ミランダ・ジュライの自分自身に対する徹底した観察眼である。

ミランダ・ジュライ『あなたを選んでくれるもの』著者メッセージ

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