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妹はどこへ消えたのか。それとも妹などいなかったのか?
『遁走状態』に続く最新短篇集。

ウインドアイ

ブライアン・エヴンソン/著、柴田元幸/訳

2,160円(税込)

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発売日:2016/11/30

読み仮名 ウインドアイ
シリーズ名 新潮クレスト・ブックス
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 302ページ
ISBN 978-4-10-590132-5
C-CODE 0397
ジャンル 文芸作品
定価 2,160円

最愛の人を、目や耳を、記憶を、世界との結びつきを失い、戸惑い苦闘する人びとの姿。かすかな笑いののち、得体の知れない不安と恐怖が、読者の現実をも鮮やかに塗り替えていく――。滑稽でいて切実でもある、知覚と認識をめぐる25の物語。ジャンルを超えて現代アメリカ文学の最前線を更新する作家による、待望の第2短篇集。

著者プロフィール

ブライアン・エヴンソン Evenson,Brian

1966年アメリカ・アイオワ州生まれ。敬虔なモルモン教徒として育つ。モルモン教系のブリガム・ヤング大学で教職に就き、妻も信者だったが、1994年に発表したデビュー作Altmann's Tongueが冒涜的であるとして2001年に破門、離婚して職も失う。“Two Brothers”(1998)、「マダー・タング」(2007)、「ウインドアイ」(2011)で0・ヘンリー賞を計3度受賞。ジャック・デュパン、クリスチャン・ガイイらの著作の翻訳のほか、ゲームソフトやホラー映画のノベライゼーションも手がけている。2016年11月現在、カリフォルニア芸術大学で教鞭を執る。

柴田元幸 シバタ・モトユキ

1954年、東京生れ。米文学者・東京大学名誉教授。翻訳家。アメリカ文学専攻。『生半可な學者』で講談社エッセイ賞受賞。『アメリカン・ナルシス』でサントリー学芸賞受賞。トマス・ピンチョン著『メイスン&ディクスン』で日本翻訳文化賞受賞。アメリカ現代作家を精力的に翻訳するほか、『ケンブリッジ・サーカス』『翻訳教室』など著書多数。文芸誌「Monkey」の責任編集を務める。

書評

おぼえておくにはおそろしいこと

藤野可織

 いろいろな話がある。25篇も収録されているのだから、それで当然だ。妹をなくした(亡くした、ではない)少年の話があり、雪山での遭難中に友人から不吉な物語を聞かされ続ける男の話があり、血に飢えた一頭の馬に取り憑かれた男の話があり、行方不明になった盲目の妹を探す男の話があり(消えた妹はこれで二人目だ)、独自の方法で世界を理解しようとする人工知能の血塗られた話があり、スレイデン・スーツと呼ばれる潜水用スーツを通ってこの世界から逃れようとする男たちの話があり、音が実際にそれが発された時点よりずれて聞こえるようになった女の話があり、AC/DCのボン・スコットの死と信仰についての調査と考察があり、肉体が再生され何度でも生きられる社会で謎の死に見舞われ続ける男の話があり、社会のためにコールドスリープに入るよう執拗に求められる男の話があり、他人の病を肩代わりしたいという願いを叶えてくれる奇妙なあばら家の話がある。あるものはゴーストストーリーのような味わいがあり、あるものは寓話のふりをしてはじまり、あるものはSFで、あるものは認識と言葉のあいだにある落とし穴の探査であり、そして、すべてはただ単にとんでもなくひどい話である。
「トンネル」という短篇は、こんなふうに終わる。
「自分たちに何が起きているのか、彼らの誰一人ちゃんとわかっていないように思えた。誰一人理解できず、なのに誰一人やめられなかった。
 やがて、全員にとってさらにもっとひどいことになった。」
 うん、と思わずうなずいてしまう。「トンネル」は本書の半ばあたりに位置している。はじめから順番に読んでいれば、「トンネル」を通り過ぎるころには、悲惨な事態には慣れてしまっている。そのくせ、次はどんなひどいことが起こるんだろうと心を冷やし、心が冷えるごとにその直前まで自分の心がいかにあたたかだったかを思い知ることになる。
 ところが、これらの25篇の共通点は、とんでもなくひどいというだけではないのだ。どれもが同じ結論をまっすぐに指差しているのである。エヴンソンの小説には、どうしてこのようなことが起こったのか、これが起こったことによって何がもたらされるか、ということは書かれない。つまり、とんでもなくひどいことが起こるのに理由はないし意味もない、私たちが生きているこの世界はそういうところなのだ、そういうものなのだ、という結論だ。この本は、手を替え品を替え、そういうことを辛抱強く、懇切丁寧に説明している。ともすれば希望を抱き、救いを求めがちな私たちにでもしっかりと理解できるように、とても親切に。
 しかしふと、彼らがこんなひどい目に遭っているのは、何らかの罠にかけられたせいではないか、という気がすることもある。原因は明らかだ。ときどき、主人公たちに絶対的な権威をもって接触する、監視者のようなものの姿がちらつくからだ。それは、はっきりと書かれているものとしては、「モルダウ事件」の「我々」と称する「組織」、「彼ら」に出てくるまさに「彼ら」、「酸素規約」でも「彼ら」で、「溺死親和性種」では「対話者」と呼ばれる存在だ。主人公たちは、それらの存在に対し従順であるように見せかけて出し抜こうとしたり、真っ向から反抗したりする。
 監視者たちはその存在が明示されるときには、一見人間のように描かれている。けれど、こういったある意味典型的な監視者の像を結ばずにほのめかされる監視者たちの気配を重ね合わせると、私にはそれらはどうも人とは思われない。私は、それらは、本来なら対話できないはずの世界の仕組みなのではないかと勘繰っている。人は、人のつくった規則や秩序にのっとって生きていると考えたいところだが、実際にはそうでもない。人がつくった規則も秩序も、理解の及ばない自然世界の規則や秩序の支配下にあって、ときにはすんなり通り、同じものがときにはめちゃくちゃに引き裂かれるのだ。
 だから、そう、とんでもなくひどいことは起こる。そのことに理由はないし、意味もない。罠なんかはじめからどこにもない。でも、それをこんなに噛んで含めるように知らせてもらっても、もうわかった、もういい、と思っても、きっとすぐに忘れてしまうだろう。常におぼえておくにはあまりにもおそろしいことだから。だからこそ本書は目に入るところに置いておいたほうがいいし、今この瞬間もアメリカのどこかでエヴンソンは親切心を発揮してこつこつと小説を書いているべきだし、それが適切な時期にまたこの手に届くべきだと思う。


(ふじの・かおり 作家)
波 2016年12月号より

目次

ウインドアイ
二番目の少年
過程
人間の声の歴史
ダップルグリム
死の天使
陰気な鏡
無数
モルダウ事件
スレイデン・スーツ
ハーロックの法則
食い違い

赤ん坊か人形か
トンネル
獣の南
不在の目
ボン・スコット――合唱団の日々
タパデーラ
もうひとつの耳
彼ら
酸素規約
溺死親和性種
グロットー
アンスカン・ハウス
訳者あとがき

イベント/書店情報

短評

▼Fujino Kaori 藤野可織
25篇のどれもが、同じ地点をまっすぐに指差している。そこでは、すでに決定的なものを奪われた人々が、なおも逆さにされ、入念に揺すられている。はじめのうちは、彼らは罠にかけられてああなっているんだと思うかもしれない。でも読み進むにつれ、だんだん飲み込めてくる。あれは罠ではなくただの仕組みで、私たちの内と外ははじめからそうなるようにできているのだと。だから、どんなにひどいことが起こっていても、事態はあるべき姿できちんと進行していると考えるべきだ。唯一のエラーは、私たちがそれをおそろしいと感じることなのだ。

▼Jonathan Lethem ジョナサン・リーセム
ブライアン・エヴンソンはアメリカのストーリー・ライティングの宝である。彼こそクーヴァー、バーセルミ、ホークス等々の世代の真の後継者であり、かつ、エドガー・アラン・ポーの末裔である。

▼The Believer ザ・ビリーヴァー誌
今日のアメリカでもっとも挑発的で、創造的で、才能ある作家の一人。

▼Victor LaValle ヴィクター・ラヴァル
エヴンソンが図抜けて鋭敏で、捉えがたく、強烈な作家であるのは周知のこと。加えて、彼が図抜けて笑える作家であることも指摘したい。軽くて明るいユーモアなどではない――恐怖と痛みを通して人を笑わせる、骨に染み込むユーモアである。

▼NPR ナショナル・パブリック・ラジオ
エヴンソンを読むことは、自分自身の死を想いながら人が体験しうる最高に可笑しい出来事である。

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