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私たちが、科学にとって「正しいクライアント」となるために。

人間にとって科学とは何か

村上陽一郎/著

1,296円(税込)

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発売日:2010/06/25

読み仮名 ニンゲンニトッテカガクトハナニカ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 206ページ
ISBN 978-4-10-603662-0
C-CODE 0340
ジャンル ノンフィクション、科学読み物
定価 1,296円

純粋な知的探究から発して二百年、近代科学は社会を根底から変え、科学もまた権力や利潤の原理に歪められた。人類史の転換点に立つ私たちのとるべき道とは? 地球環境、エネルギー問題、生命倫理――専門家だけに委ねず、「生活者」の立場で参加し、考え、意志決定することが必要だ。科学と社会の新たな関係が拓く可能性を示す。

著者プロフィール

村上陽一郎 ムラカミ・ヨウイチロウ

1936年東京生まれ。科学史家、科学哲学者。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。上智大学、東京大学先端科学技術研究センター、国際基督教大学、東京理科大学大学院などを経て、東洋英和女学院大学学長。著書に『科学者とは何か』『文明のなかの科学』『あらためて教養とは』『安全と安心の科学』ほか。訳書にシャルガフ『ヘラクレイトスの火』、ファイヤアーベント『知についての三つの対話』、フラー『知識人として生きる』など。編書に『伊東俊太郎著作集』『大森荘蔵著作集』など。

書評

波 2010年7月号より 碩学の見事な「距離感」

佐藤健太郎

昨年行われた「事業仕分け」において、科学技術予算の削減が大きな話題となったことは記憶に新しい。「1位じゃなきゃダメなんですか」発言を初めとするやりとりは、いわば科学者の存在意義に刃を突きつけるものともいえた。科学者たちの怒りと動揺は、ノーベル賞受賞者が集結した前代未聞の記者会見が、ほとんど反射的といってもよい速さで行われたことによく現れている。仕分け事業には各方面から賛否両論があったが、科学と社会の関わりという重要なテーマを、科学者たちが改めて考え直すよいきっかけになったのは事実だ。
この問題に関し、村上陽一郎氏こそは我が国における第一人者であろう。1994年刊行の『科学者とは何か』を改めて読み返すと、「科学」と「技術」の差、研究の自由を阻害された科学者の本能的抵抗感など、今回巻き起こった議論の多くがすでに的確に論じられていることに驚かされる。
そして今回、その16年ぶりの続編となる『人間にとって科学とは何か』が上梓された。登場する話題はクローン羊、遺伝子組み換え食品、裁判における科学など多岐に及び、社会の中で科学の果たす役割が多様化・複雑化している状況が描かれる。科学が絡んでいるけれども、もはや科学だけでは結論を出せない問題は増える一方であり、特に医療や生命倫理に関する著者の深い考察は本書のハイライトだ。
この問題の一つの現れといえる今回の予算削減も、本書の最終章で取り上げられる。前著で科学者の暴走を戒めた村上氏は、この本では科学の「クライアント」となる市民に向けて、専門性への理解と科学リテラシーの向上を説き、一見実生活の役に立たない分野の安易な切り捨てに警鐘を鳴らしている。こうして両者が歩み寄り、話し合ってルールを定めてゆくべきだとする著者の主張には、十分な説得力がある。
実のところ、この本を読んで最も唸らされたのは、著者の「距離感」の的確さであった。学者という人種は、一般とはかけ離れた知識・見識、そして常識の持ち主である。彼らの書く本は往々にして読者との距離を測り損ね、メッセージを伝えきれない。
しかし村上氏は、科学者周辺に向けてやや硬質な文体を用いた前著とは対照的に、一般層を相手としたこの本ではあくまで平易な叙述に徹し、これだけ重いテーマを難渋することなく読ませる離れ業をやってのけている。目から鱗のエピソードや、印象に残る言い回しを駆使して、読む者を全く飽きさせずに最後まで引っ張ってゆくその名人芸には、全く舌を巻く他ない。
最近、大型研究資金を獲得した研究者は、一般へ向けた講演会などで、その成果の解説を義務づける案が出された。社会への説明責任を強く求められるようになった科学者が最も見習わねばならないのは、著者のこの卓越した「距離感覚」なのではないだろうか。

(さとう・けんたろう 東京大学大学院理学系研究科特任助教)

目次

まえがき
1 「科学の本質」はいかに形成されたか
新しい学問として生まれた科学/科学者共同体の誕生/科学者たちを動かしたものは/日本の近代科学
2 ネオタイプの科学の誕生
冊子『科学者であるということ』が示すもの/核兵器のもたらした衝撃/ネオタイプの科学の倫理/生命科学における科学者の試み/科学にとってのクライアント
3 医療における新たな制度
第三者という風穴/医療はキュアからケアへ/患者学の必要/専門家と非専門家の間の「橋渡し」
4 科学的合理性と社会的合理性
「専門家」として法廷に立つ/科学は「価値観」に立ち入らない/トランス・サイエンスの時代
5 生命倫理をめぐる試論
クローンはなぜだめなのか/歴史、立場によってちがう生命倫理のとらえかた/生命観の明確な規定のない日本/日本人の自然観とは何か/生命倫理をどのように考えたらいいか
6 安全とリスクの科学
安全を重視する社会/リスクの認知/リスクに対処する三つの方法/リスク・マネージメントがしにくい問題
7 社会における意志決定
「常識のなかの賢慮」という原則/「様子見」という原則/「転ばぬ先の杖」という原則/市民参加型技術評価
8 社会とは何か
社会の倫理における「他者」/「他者」の拡大/デモクラシーの発見/日本における「パブリック」を確立する
9 私たちにとって科学とは何か
事業仕分けで再確認されたこと/科学研究費はどうあるべきか?/科学者からの働きかけと、社会の評価/科学リテラシーを鍛えるには/科学教育の必要
おわりに 人間にとって科学とは何か
あとがき
近代科学・技術に関する出来事年表

担当編集者のひとこと

人間にとって科学とは何か

科学と、もっときちんとつきあいたい! ふと気がつくと、ここ何年か、現役の科学研究者がTVや雑誌で活躍するようになりました。学生の“理科ばなれ”や日本の“技術競争力の低下”が嘆かれるいっぽうで、この現象はどういうことだろう? 科学の普遍化か、たんなる消費なのか……というモヤモヤした疑問が、村上陽一郎さんに本書をお願いするきっかけとなりました。
 村上さんは、問いかけに単純な答を出すことはしません。科学の発祥について、科学者の意識について、科学と人間との関わりについて、丁寧に語っていきます。宇宙の謎、自然の法則を知りたい――この知への渇望が、人類の進歩の原動力となりました。歴史をたどり転換点となった出来事を知ると、科学・技術が、国境を越えて人間が共有できる財産であること、と同時に、われわれの科学リテラシーを身につける努力なしには価値を失い、あるいは災厄の元ともなりかねない諸刃の剣であることが、つくづく納得されます。
 科学とあらためて向き合いたい、そんな方におすすめの一冊です。

2016/04/27

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