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これだけは知っておきたい! 水問題の第一人者による、“水に流せない話”。

  • 受賞水文・水資源学会学術出版賞
  • 受賞土木学会出版文化賞

水危機 ほんとうの話

沖大幹/著

1,620円(税込)

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発売日:2012/06/22

読み仮名 ミズキキホントウノハナシ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 334ページ
ISBN 978-4-10-603711-5
C-CODE 0351
ジャンル 地球科学・エコロジー、建築
定価 1,620円
電子書籍 価格 1,382円
電子書籍 配信開始日 2012/12/21

地球の水はいつかなくなるのか? 水資源をめぐって日本も戦争に巻き込まれるのか? 節水はすべて善いことなのか? 植樹で洪水・渇水が防げるのか? 外資が水源林を買うことは悪なのか? 水供給の運営は民より官がいいのか?――巷にあふれる誤解や思い込みをとり上げ、「水文学(すいもんがく)」の立場から「ほんとうのこと」を教えます。

著者プロフィール

沖大幹 オキ・タイカン

1964(昭和39)年東京生まれ、西宮育ち。東京大学卒。博士(工学)。気象予報士。現在、東京大学生産技術研究所教授。専門は水文学(すいもんがく)。著作に『水危機 ほんとうの話』など。日経地球環境技術賞、日本学士院学術奨励賞など表彰多数。国土審議会委員なども務める。

書評

水論壇、待望の横綱

椎名誠

 二十一世紀は「水戦争の時代」ということが言われている。とはいえ、日本人にはあまりピンとこないようで、ぼくの知るかぎり、日常の話題にあまりその言葉は出てこない。これは日本という国が位置的に国土環境的に非常に有利な水供給の適地にあり、全国に住む人に、明日自分の飲み水がない、という不安がまずない、ということが関係しているのだろう。
 けれど人間が生きていくための「真水」は、地球という限られた空間を、外部から新たな補給もなしにただ循環しているだけである。
 八年ほど前から、ぼくはこの水問題についての本(『水惑星の旅』)を書くために各方面を取材した。水に関する本も四十冊ほど読んだ。読んでわかったのはその多くが「同じことを」書いている、ということだった。いくつかのデータをみんなで使い分けして書いている、いわゆる「孫引き」「ひ孫引き」で論を組み立てているケースが非常に目についた。なかには意図的と思うやりかたで問題を誇張し、わたしたち国民全体が渇きで倒れてしまいそうなことが書いてある。これでは本当の意味での二十一世紀の水危機が理解されることはないだろう。
 本書は、そういう曖昧に錯綜する「水問題」を、はじめて網羅的に、かつ科学的にとらえ、明確な分析と思考によって、タイトルどおり「ほんとうの」水問題にはじめて真正面から切り込んだ、いわば水の論壇界待望の横綱登場というに相応しい重要な一冊である。
 六章からなる構成は、最初に地球全体の水についての概括からはじまる。長い時間、水問題を専門に追求してきた著者がフットワークよく世界のフィールドを取材し、膨大なデータを駆使して、今、地球の水がどうなっているのか、非常に分かりやすく説明している。それらの多くはもはや「法則」として認識しておいたほうが、今後の考え方に役立つ、と思えるものである。
 たとえば第一章のまとめにある「持続的な水資源利用を考える場合、淡水の貯留量(ストック)ではなく循環量(フロー)で考えるべきである」「水はローカルな資源だ」「農業用水には『水で水を運んでいる』という側面がある」などなど多岐にわたる指摘のひとつひとつが納得しやすくわかりやすい記述なので、読み進むうちにきわめて自然に目下の水問題の「ほんとう」が見えてくる小気味よさがある。
 第二章の「水、食料、エネルギー」は著者が早くから着目、指摘していたバーチャルウォーターの問題点をテンポよく分析してくれているので、食料自給率の低い日本の未来ははなはだ世界に肩身が狭く、かなり暗いものと認識していたが、論理的に考えると、それが世界環境に格別悪い影響をおよぼしているわけではない、ということがここで判明する。今出ている幾多の本には仮想水の消費増大が世界の水事情に相当悪影響を与えている、といたずらに警鐘を鳴らすものばかりなので、本書のようにしっかりしたデータと分析であらためて俯瞰的にそう指摘されると安心した気持ちになる。
 第三章「日本の水と文化」では、日本はモンスーンアジアの変動帯に位置するため、洪水にも渇水にもそれなりの危険性がある、と述べているが、梅雨や台風などの定期的な水の大量供給によって、水環境に恵まれている好条件はかわらない。問題は都市の水利用と山野の水供給の無駄のないシステムづくりだろう、ということがわかってくる。
 この本を読んでいて知的カタルシスを怒濤のように感じるのは「第五章 水危機の虚実」だろう。章タイトルにストレートに示されたように、まだ結末の見えない地球規模の「水危機」は、たとえば来るべき早い将来、わたしたちも家族ぐるみ水不足パニックに巻き込まれるのだろうか、という単純な不安と疑問に直面している。
 けれど著者は同じように膨大なデータとその分析によって冷静に推論していく。
「地球上の水はなくなることはなく、マクロにみれば枯渇はしない」
「日本の森林を外国資本がダミー会社を使って買い占めているのは『いい水』を狙ってのことだろうが、そういう動きに過敏に対応する必要はない。むしろ産業がなくて困っている地域に資本が投下されるのは喜ぶべきことである」
 この太っ腹な指摘には目を見張ったが、水問題の権威がそう分析するのだからとりあえず私たちは静観していいのだ。スリリングだが、深い思考あってのものだろうから、この指摘もまことに刺激的である。

(しいな・まこと 作家)
波 2012年7月号より

目次

まえがき
第1章 水惑星の文明
乾燥地にあった四大文明/地球は水の惑星なのか?/地球の水はどこにあるのか?/水の惑星でなぜ水が足りなくなるのか?/循環する水資源は無限か?/高い水、安い水/いったいどのくらいの飲み水が必要なのか?/健康で文化的な生活に必要な水――生活用水/生産のための水――工業用水/食料のための水――農業用水/水と光合成
第2章 水、食料、エネルギー
世界の水危機/水ストレスとは何か?/仮想水貿易とは/仮想水貿易は世界を救うのか?/仮想水貿易の推計と日本/工業製品を作る水は輸出超過ではないのか?/空気の次は水に課金される時代に?/水と食料とエネルギーのネクサス
第3章 日本の水と文化
日本は水に恵まれた国か?/日本と世界の豪雨/日本は地震国か洪水国か?/日本には国際河川がないから水をめぐる争いはないのか?/日本は大量の水の輸入国か?/日本はダム大国か? ダムは諸悪の根源なのか?/水は誰のものか?/日本の水需給のこれまでとこれから
第4章 水循環の理(ことわり)
木を植えると山の水源が保全されるのか?/洪水はなぜ起こるのか?/洪水と水害/洪水被害を軽減するには?/100年に一度の洪水とは
第5章 水危機の虚実
地球の水は枯渇するのか?/瓶詰水輸入の功罪/水マネジメントの民営化と水紛争/地下水の枯渇/なぜ気候変動問題なのか?
第6章 水問題の解決へ向けて
人工降雨――現代の雨乞い/雨水利用――水の地産地消/海水淡水化は万能か/水をきれいにするのは水を造ること/節水/統合的水資源管理とは/水をめぐる世界の政府の対応/水ビジネスは世界を救うのか/水問題解決へ向けて市民として何ができるのか?
あとがき
参考文献、図表出典
略語一覧
索引

担当編集者のひとこと

「魔が差した」1冊

 この本を、少し違う角度から読んでみると、理系大学教授の日常が垣間見えてくる。
 大学の先生は、頻繁に海外出張をしているらしいが、いったい国際会議やシンポジウムで何をやっているのか? とか、学部の授業の他に研究室の指導教授として、学生たちに何をどう指導しているのか、などだ。
 著者の沖さんは、日本に「バーチャルウォーター(仮想水)」という概念を初めて紹介した学者として知られている。研究室の学生たちとディスカッションしながら、実際、どのくらいの量の仮想水が、どこの国から輸入されているのかを、卒業論文のテーマにしたらどうかと勧めたりする。たとえば、食用の牛肉1頭分について、牛のエサとなる牧草を育てるのに必要な水などの量が「仮想水」というわけだ。ある学生は、牛丼屋でバイトをしている友達から牛肉や玉ネギの重さを聞き出したりして、地道な作業で空白だった数字を埋めていった。さらに「理系女子」と形容された大学院生の一人は、牛などの家畜が生まれてから屠畜されるまでどんな餌をどれくらい消費するのかを積算するという気の遠くなるような作業を続け、修士論文を書いていった。
 そうした研究結果は、英語の論文として科学誌などに掲載されたり、国際会議で発表されたりして、海外の科学者たちの研究心に火をつけていく。そうして、各国がお互い触発されながらさらに研究は高みへ進んでいくわけだ。
 ある時、ストックホルムでの会議で、バーチャルウォーターの提唱者であるアラン教授と会い、こうした日本の研究に大いに関心を示されたことがうれしかったと、沖さんは正直に書いている。
 沖さんは今では世界の「水文学」研究者のメインメンバーの一人となっているが、こうした人が、未だ単著を書いていないことがとても不思議だった。その理由は、「あとがき」にも書いてあるが、やはり「研究第一」の毎日で、書籍の原稿を書く時間あるくらいなら、学生たちと飲みながら(この場合、もちろんお酒)、テーマに関してディスカッションする方が、有意義で楽しいのだそうだ。その意味では、著者にとって「魔が差した」1冊といえるのだろう。
「今、僕の脳みそにあるすべてです」と著者が言い切るほど、中身の濃い一冊となっている。

2016/04/27

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