ホーム > 書籍詳細:「男はつらいよ」を旅する

寅さんが見たものは、もはや決定的に失われた風景、人情、そしてニッポン。

「男はつらいよ」を旅する

川本三郎/著

1,512円(税込)

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発売日:2017/05/26

読み仮名 オトコハツライヨヲタビスル
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 287ページ
ISBN 978-4-10-603808-2
C-CODE 0395
ジャンル 演劇・舞台、映画
定価 1,512円

「寅さんの負け犬ぶりにいまだに共感する」という著者が、〈美しきもの見し人〉車寅次郎の旅路を追って、「男はつらいよ」全作品を詳細に読み解きながら、北海道知床から沖縄まで辿り歩いた画期的シネマ紀行文。なぜ、あのいつもずっこける放浪者はかくも日本人に愛されるのか? 映画に“動態保存”された「時代」がいま甦る。

著者プロフィール

川本三郎 カワモト・サブロウ

1944年東京生まれ。文学、映画、漫画、東京、旅などを中心とした評論やエッセイなど幅広い執筆活動で知られる。著書に『大正幻影』(サントリー学芸賞)、『荷風と東京』(読売文学賞)、『林芙美子の昭和』(毎日出版文化賞・桑原武夫学芸賞)、『白秋望遠』(伊藤整文学賞)、『マイ・バック・ページ』『いまも、君を想う』『成瀬巳喜男 映画の面影』『老いの荷風』など多数。訳書にカポーティ『夜の樹』などがある。

目次

1 沖縄のことを何も知らなかった
「ひめゆりの塔」と「亀甲墓」/三本の軽便鉄道/戦争と日常の共存/「基地」と「観光」/リリーが職探しをした町/海の見える集落で
2 すべては柴又に始まる
ニャロメに通じる魅力/「近所田舎」を舞台に/江戸川の桜/水郷、葛飾/江戸川でうなぎが釣れる/京成電車文化圏
3 京成金町線を行き来して
銀座でも上野でもなく金町で/やくざ者としての寅/荒川から江戸川へ/荷風が見た風景
4 寅が福を運んだ網走
タイからの観光客/ウトロ漁協婦人部食堂/駅が消えてゆく/「お父ちゃん、泣いてないよ」
5 奥尻島「渥美清がうちに来るなんて」
破壊された町/テキヤの死/最後の蒸気機関車/「女が幸せになるには」
6 寅と吉永小百合が歩いた石川、福井
犀川畔の宿/尾小屋鉄道のバケット・カー/“動態保存”されたローカル線/吉永小百合と大工さん・・・・たち/高見順の生まれた町
7 会津若松から佐渡へ
高羽哲夫記念館/家庭劇そして股旅もの/集団就職の風景/「無法松」を踏まえて/寅と良寛
8 木曽路の宿場町
蒸気機関車の登場/老人問題と過疎化/田中絹代の住む家で
9 瞼の母と出会った京都
連れ込みホテルと実の母親/「ひりっぱなしにしやがって」/寅の「人助け」/二枚目のつもり、渡世人のつもり
10 岡山の城下町へ
因美線の小さな駅/荷風の八月十五日/「のれん」商店街/タンゴのかかるうどん屋で/博の実家がある町/寅の気分になる
11 播州の小京都と大阪へ
赤とんぼだらけ/岡田嘉子の「後悔」/引き際が肝腎?/寅さん版「キッド」
12 寅が祈った五島列島
仏壇に手を合わせた渥美清/恋の指南役/本土最西端の駅/「悪人」の灯台
13 伊根の恋
「舟屋」のある漁師町/「度胸のないかた」か/温泉津の風情/校正の神様、神代種亮/真面目なヒロインの系譜
14 「さくら」も旅する
彼女は五度、旅に出た/五能線に乗って/寅の後ろ姿/登場しないヒロインだが
15 「渡世人」の迷い
美人のためなら/茨城の寅さん/「旅の夜風が身に沁みる」/廃線を辿って
16 九州の温泉めぐり
机上のポケット時刻表/筑前の小京都/山頭火も来た温泉地/秘湯田の原温泉
17 加計呂麻島で暮す寅とリリー
「男はつらいよ」と「おはなはん」の町/珍しく濃艶/「背のびして大声あげて虹を呼ぶ」/最終作の舞台へ
あとがき

インタビュー/対談/エッセイ

映画に“動態保存”された日本

川本三郎

――『成瀬巳喜男 映画の面影』(2014年刊)に続く新潮選書のテーマに選ばれたのは「男はつらいよ」です。川本さんが成瀬を発見したのはバブル期だったと前著にありましたが、こちらは……。

 1969年の第1作から熱心に見てきました。大学を卒業して朝日新聞社へ入った年です。当時、邦画は東映やくざ映画全盛で、洋画はゴダール、トリュフォーの時代ですよ。松竹で言えば、山田洋次ではなくて、もう退社していたけれど大島渚、篠田正浩、吉田喜重の時代。だから「男はつらいよ」が好きだなんてなかなか言えませんでした。バカにされる(笑)。ちなみに言うと、私は健さんは好きだけど鶴田浩二が苦手で、名作とされる「総長賭博」も好きではありません。組織暴力も嫌いだし、親分が殺されて子分が泣くなんて場面も大嫌いなんです。一方で市川雷蔵や中村錦之助の股旅ものは好んで見ていました。どうも単独者、それも放浪者に惹かれるんですね。

――「男はつらいよ」はそもそも、やくざ映画のパロディという面がありますね。

 ええ、寅さん(渥美清)という〈渡世人〉は、深刻きわまりないやくざ映画の登場人物のパロディ的な存在です。「男はつらいよ」が見る前の予想以上に感動的だったのは、そんな喜劇的側面だけではなく、ダメな者に対する共感があったからです。第1作で、帝釈天の御前様(笠智衆)のお嬢さん(光本幸子)にフラれた寅さんが上野駅の地下にある安食堂でラーメンをすすりながら盛大に涙を流しますよね。ラーメンと涙がまじり合うような盛大な泣きっぷり。健さんも三船敏郎も映画の中で泣いていますが、それはいわゆる男泣きで、渥美清のようにみじめな泣き方はしなかった。誰もが高倉健になれるわけではない、という人生の真実があの姿(笑)。私も多くの人と同様に健さんにはなれなかった一人として、寅さんに共感したんです。

――これは秘話ですが、川本さんはご自身の結婚式で「男はつらいよ」の主題歌を歌ったという(笑)。

 さすがに歌ってはいません、歌詞(星野哲郎作)を暗誦しただけ(笑)。72年1月に私はある公安事件の取材でミスを犯して逮捕され、会社を辞めざるを得なくなりました。翌年結婚したのですが、結婚式で「ドブに落ちても根のある奴はいつかは蓮の花と咲く」と(笑)。

――で、参列者の方々が泣いたり……。

 みんな、キョトンとしていました(笑)。妻も結局、「男はつらいよ」は見たことないままだったんじゃないかなあ。私はその後もシリーズをずっと見てきましたが、途中から――それこそバブル期の前あたりから、「男はつらいよ」の世界がノスタルジーになっていくんです。最後の蒸気機関車が走ったのは1975年ですが、そのSLにせよ、今はなくなった小さな駅にせよ、もはや見る影もない木賃宿や駅前食堂にせよ、ちゃんと映画の中に残っている。これは山田洋次監督がどこかで、「こういう消えゆく日本の風景を、フィルムに“動態保存”しなくては」と気づいたんだと思うんですよ。

――そう言えば集団就職で上京する少年少女が写っている回がありましたね。

 第7作の「奮闘篇」(71年)ですね。ドキュメンタリー・タッチなんだけど、実際は現地の子どもたちに演技させたのだそうです。あれは新潟の只見線越後広瀬駅でのロケ。今回、『「男はつらいよ」を旅する』という書名通り、寅さんの足跡を全作品、つまり北海道から沖縄まで(寅さんが行かなかったのは富山県と高知県だけ)辿って歩いたわけですが、実に取材がしやすい旅でした。越後広瀬でもどこでも、住民の方は撮影に来た監督や渥美さんたちをよく覚えていて、すぐ笑顔になって親身に答えてくれるんです。最終作の舞台である加計呂麻島には、シネマスコープの画面のような大きな碑が町の人たちの手によって建てられていました。寅さんがどれだけ愛されているか、つくづく感じましたねえ。むろん寅さん個人の魅力もありますが、種田山頭火や尾崎放哉といった放浪者はみんな好かれるでしょう? 末は野垂れ死にするに決まっているから、自分で放浪する勇気はないけれども、ああいう人物に対する憧れが日本人にはあるんですよ。

――今回、本書のために、改めて日本全国を旅して新しく気づいたところはありましたか。

 以前行った時にはあった店がなくなっていたり、鉄道もたくさん廃線や廃駅になったりしています。でも同時に、地方の豊かさも感じたんです。フローではなく、ストックの厚みですね。その土地できちんと幸せに生きている人々がいるのだから、あまり地方の衰退とか限界集落とか強調しすぎるのもどうかと思いました。むろん人口はもう増えないのだから、コンパクトな共同体をいかに作るかを考えていくべきなんでしょうね。

――さて、「男はつらいよ」を見ていない人に、まずどの作品から薦めますか?

 役者のアンサンブルで言えば、おいちゃん役を森川信がやっていた第8作まではどれを見ても満足できます。ヒロインで言えば、好みになるけど十朱幸代(第14作「寅次郎子守唄」74年)、藤村志保(第20作「寅次郎頑張れ!」77年)、音無美紀子(第28作「寅次郎紙風船」81年)などが良くて、そうだ、太地喜和子(第17作「寅次郎夕焼け小焼け」76年)のも中期の傑作ですね。だけど、「偉大なるマンネリ」のシリーズについて、たまたま見た一作を面白い、詰まらないと言っても仕方がないんです。結局、全作品を繰り返し見ることに尽きるんですよ。

(かわもと・さぶろう)
波 2017年6月号より

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