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2035年の中国―習近平路線は生き残るか―

宮本雄二/著

902円(税込)

発売日:2023/04/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

GDP世界一、米中対立に勝利、台湾統一……。壮大な「夢」と、薄氷の「現実」。習近平を最もよく知る元大使による冷厳な分析。

中国共産党総書記として異例の三期目に突入した習近平。幹部人事を意のままに行い盤石の体制に見えたが、コロナ対策では国民の反発で軌道修正を迫られ、一転、不安を感じさせる幕開けとなった。建国百年を迎える2049年への中間点とされる2035年に、彼は八十二歳。国内外の難問が山積する中国は、その時どうなっているのか? この国と中国共産党の本質を踏まえながら、第一人者が今後の行方を占う。

目次
はじめに
尽きない疑問/長期目標「二つの百年」/2035年問題と本書の視座
第1章 中国共産党は「国民」を恐れている
「権力集中」を容認する党内世論/国民を恐れなかったソ連共産党/「収入増」だけでは満たされない/豊かになるほど「管理」の難しさも増す
第2章 中国社会の中核をなす「義」とはいかなる価値観か
「国民」とは/習近平の曾祖父/党の人事分析の特徴/共産主義は心の問題に答えを持たない/「義」とは人倫道徳の根源/「自由」「人権」は「義」か?
第3章 未完の「習近平思想」は党と国民に支持されるのか
理屈へのこだわり/「中国の特色ある社会主義」/党の指導思想/「腕力」とは別の力/政治とイデオロギーの重視/党の重要性を強調/ナショナリズムを反映/「路線闘争」も
第4章 人間・習近平の「思考様式」を生い立ちから読む
中国観察の鍵/父・習仲勳/母・斉心/文革の評価は/「政治・イデオロギー重視」の修正が難しい理由/現実から切り離された「思考様式」の懸念
第5章 習近平は米国の本当の「怖い顔」を知っているか
「優しい顔」と「怖い顔」/9・11で先送りされた「優しい顔」からの方針転換/危機対応を左右する大統領の「人間力」
第6章 「乱から統へ」中国のガバナンス移行は奏功するか
中国の官僚機構の特徴/ジグザグ行進を進める中国経済の現場/「共同富裕」の真の姿はまだ見えていない/恒大集団の破綻処理をどう見るか
第7章 「権力集中」と「党内民主」のせめぎ合いの行方は
波瀾を避ける道は?/党の歴史を四つに区分した「歴史決議」/「二つの確立」を勝ち取る/「毛沢東の再来」には強い反発も/「集団指導制」「個人崇拝禁止」は堅持
第8章 ウクライナ侵攻「ロシア」からどう距離をとるか
呼び起こされた「冷戦構造」/中国の対ロシア観/対米関係ではお互いを利用/「対ロ関係」と「外交原則」の間で/ロシアを孤立させるべし
第9章 日本の国益を最大化する「したたかな対中外交」とは
ドライな関係/リーマンショック克服/吉田茂の外交的視点/「中国崩壊」は“楽観的”シナリオ/相互理解と「抑止力」/「普通のあるべき外交」を
第10章 それでも「江沢民の安定」得られぬ習近平統治
習近平政権が「安定感」に欠ける理由/江沢民政権はなぜ安定していたのか/路線転換の難しさ/過渡期としての不安定さ/実施が難しい「習近平思想」
第11章 国際社会を変える「瀬戸際外交」の行き着く先は
現行国際秩序から最大の利益/独自の国際情勢認識/「東昇西降」と「対米持久戦」/「平和」「発展」の認識は回復したか/瀬戸際外交の危うさ
第12章 突然の「ゼロ・コロナ」破棄で生じた統治の陰りとは
「政治の北京」と「経済の上海」/「上海モデル」の意味/孫春蘭が急派された異常事態/諦めるわけにもいかず/国民のダメ出し/権威に陰り
第13章 「反腐敗」は毛沢東「延安整風」を超えられるか
トウ小平を超えられぬまま「毛沢東回帰」/恭順のための儀式=「整風運動」/「反腐敗」では人の心は変わらない
第14章 共産党政権が抱える永遠の矛盾「民主」と「集中」とは
避暑地・北戴河/コンセンサスづくり/「個別ウン醸」というルール/習近平は北へ、李克強は南へ/確実視されていた3選/人心掌握への遠い道のり
第15章 「台湾問題」で米中ガラスの了解事項は守られるのか
日米戦争の引き金/日華平和条約/日中復交三原則の壁/武器輸出の“遺恨”/レーガン政権の「六つの保証」/台湾有事を起こすな/最大の安全保障
第16章 習近平は「トウ小平の老練」を手にできるか
一人勝ちのように見えるが……/グランド・バーゲン/中国政治のフェイズは変わった/毛沢東の錯覚/老獪なトウ小平/「百年未だなかった大変局」/テクノクラートの意見は/外交の試練と民の声
終章 2035年の中国
(1)「中華民族の偉大な復興」で国民を引っ張っていけるのか
建国百年への中間点/中位の先進国レベル/中国式シミュレーションの持つ限界/国民が求める「日々の生活の向上」/「政治と経済の根本矛盾」の調整
(2)軍事大国化路線は持続可能か
東アジアは軍拡競争に入った/2027年まで軍増強のスピードは落ちない/中国財政がいつまで軍拡を支えられるか?
(3)対外関係の修正は可能か
「転換」の兆候も見られるが……/まずは中国側から譲歩を
(4)2035年の中国はどうなっているのだろうか
習近平路線の修正は時間の問題か/日米は中国の路線修正を促せ/グローバリズムの質は変わるが/「民主」という真の挑戦は国内から来る
おわりに

書誌情報

読み仮名 ニセンサンジュウゴネンノチュウゴクシュウキンペイロセンハイキノコルカ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 Foresightから生まれた本
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 240ページ
ISBN 978-4-10-610992-8
C-CODE 0222
整理番号 992
ジャンル 政治
定価 902円
電子書籍 価格 902円
電子書籍 配信開始日 2023/04/17

インタビュー/対談/エッセイ

習近平を待ち受ける困難と挑戦

宮本雄二

 中国は分かりにくい。しかし中国が分からなければ対中外交は成り立たない。1969年に外務省に入って以来、現場での体験に加え、中国共産党の文献を読み、中国関係の世界の文献を読み、中国の有識者と意見交換をしていく間に、中国分析の「脳内ソフト」が次第に出来上がってきた。外交の現場はすぐに答を要求する。その時点で、手元にある「事実」をソフトにぶち込み、中国の現状はこうであり、中国はこう動こうとしているという「仮説」を立てる。それを基に中国ないし中国がらみの事案に対する対応を考えてきた。判断の間違いが判明すれば、どうしてそうなったのかを考え、自分のソフトを修正してきた。かなり前に共産党政権は持たないと本気で思った時期があった。だがそうはならなかった。なぜそうならなかったかを考え、ソフトに組み込んだ。研究者の学術書は、ソフトを精緻化し、事実関係を整理する上でとても役に立つ。
 これまで実務家の中国分析が世に問われることは希有であった。われわれも自分たちの「脳内ソフト」を解析し説明する努力をしてこなかった。2010年に外務省を辞めた後、中国や日中関係について講演をする機会も増えた。そこで宮本さんの話は新鮮だ、というコメントを多くいただいた。自分にとって普通の話をしているのに珍しがられる。もっと自分たちの見方をより多くの方に伝える必要がある。そう考えて本を書くことにした。「脳内ソフト」は、中国理解の近道が、中国共産党はどのように中国の現状を理解し、対応しようとしているかを知ることにある、と教える。2015年の新潮新書習近平の中国』は、そういう認識の下に書かれたものだ。今回の『2035年の中国―習近平路線は生き残るか―』は、その続編と位置づけていただいて差し支えない。
 2015年から8年が経ち、中国も大きく変貌した。真の「習近平の中国」が確立しつつある。2015年当時、おぼろげにしか見えなかった習近平路線の全貌が、ほぼ明らかとなった。それは今世紀半ばまでに、あらゆる面で世界の最高峰に立つ中国の実現である。習近平は、その中間点を2035年におき、そこで達成すべき具体的目標を定めた。この年、習近平は82歳となる。最終目標に向かって邁進する中国の姿を自分の眼に焼き付けたいのであろう。
 だが、中国の内外情勢は実に厳しい。習近平の長期政権の存続も、「中国の夢」の実現も、何の保証もない。現場で結果を出せなければ、そこで終わる。国内は盤石で自信満々、米国主導の世界に真っ向から挑戦する習近平――この姿は中国の現場からは浮かんでこない。多くの困難と挑戦が待ち受けているのだ。再び中国の現場に立って、中国の視点で眺めることの必要性が分かる。『2035年の中国』が、読者の皆様の中国理解の有益なガイドブックとなることを念じて止まない。

(みやもと・ゆうじ 元中国大使)
波 2023年5月号より

著者プロフィール

宮本雄二

ミヤモト・ユウジ

1946(昭和21)年福岡県生まれ。宮本アジア研究所代表。1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。1990年アジア局中国課長、2006年在中華人民共和国日本国大使館特命全権大使。2010年退官。著書に『習近平の中国』『強硬外交を反省する中国』など。

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