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日本一の農業県はどこか―農業の通信簿―

山口亮子/著

946円(税込)

発売日:2024/01/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

「労働生産性1位……北海道」「土地生産性1位……宮崎県」「園芸生産性1位……高知県」。では、コスパ1位の「最強の農業県」は? さまざまな指標で読み解く、都道府県の真の実力。

作っている作物も、事情もさまざまな各県の農業を、一律に評価するのは難しい。著者は、各県の農業産出額を農業関連予算で割ることによって「コスパ」を算出し、それをランキング化してみた。結果、浮かび上がってきたのは、都道府県魅力度ランキングの下位常連組が最強グループを成している意外な実態だった。さまざまな指標を駆使して読み解く各県農業の「真の実力」。

目次
はじめに
第1章 コスパ最高の農業は群馬にあり
1 魅力度ランキングでは低空飛行でも
2 国の指標では評価されない実力
3 誰も知らない北関東の高い財政効率
第2章 コメだけやっていても先がない
1 コシヒカリをバカにした静岡県知事
2 茨城の「たまげた」コメ減産計画
3 「コメの一本足打法」から脱却したい王者・新潟
第3章 サトウキビで太り過ぎの沖縄農業
1 サトウキビは沖縄のコメ
2 キューバ危機で拡大したサトウキビ
3 農家だけでなく農地まで急減の危うさ
第4章 海外に伍する産地――労働生産性と土地生産性
1 労働生産性は全産業の3分の1
2 労働生産性の3トップ、北海道・関東・南九州
3 愛知から大分に移住した「機関車農家」
4 人手不足とは無縁の新規参入キュウリ農家
5 高知が「園芸のコスパ日本一」の理由
第5章 農地の集積――農業における最大の課題
1 儲からないコメが多くて集積進む富山・石川・福井
2 北関東、埼玉、愛知では大規模農家が担い手に
3 農家版「そして誰もいなくなった」
4 集積遅れる果樹産地、山梨・和歌山・愛媛
5 「みかん県」の生き残り戦略
6 リンゴの新技術導入で先んじる長野
第6章 食料自給率――むしろ有害なガラパゴス指標
1 自給率が上がるほど都道府県の農業は衰退する!?
2 なぜか食料自給率を自慢する7位の佐賀
3 自給率0%でもすごい東京の農業
おわりに
主要参考文献
初出一覧

書誌情報

読み仮名 ニホンイチノノウギョウケンハドコカノウギョウノツウシンボ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 272ページ
ISBN 978-4-10-611026-9
C-CODE 0261
整理番号 1026
ジャンル ビジネス・経済、産業研究
定価 946円
電子書籍 価格 946円
電子書籍 配信開始日 2024/01/17

インタビュー/対談/エッセイ

食卓を支える生産現場のゆくえ

山口亮子

 日本一の農業県はどこか。こう聞かれたらどの都道府県を思い浮かべるだろう。北の大地・北海道か、米どころの新潟や秋田だろうか。
 本書の目玉となるランキングで1位を飾るのは、おそらくほとんどの人にとって意外な県である。私自身、自分で算出した結果の予想外さに、困ったことになったと思った。当該の県庁にも困惑され、高名な学者からは「えっ、そうなの」と言われ……。完成した本を前に、当初の目論見とずいぶん違う目的地にたどり着いたなと感じている。
 都道府県の農業を費用対効果(コスパ)でランキングする――。この試みが本書の柱となっている。
 農業は効率が悪くて儲からない、だからコスパとは縁遠いと思われがちだ。この認識は誤りで、農業でも百億円以上を売り上げる企業が存在する。
 日本の農業に投じられる予算は多く、全体を捉えれば「補助金漬け」と言っていい状況にある。しかし都道府県別にみると、補助金に極めて依存する県とそうでない県の落差が激しい。
 その違いを明らかにすべく、都道府県の農業の売り上げ額を予算で割り、コスパを算出した。1位がどこなのか、そしてあなたの住む県や出身県がどんな成績なのか、ぜひ確認してもらいたい。
「農業の通信簿」という副題の通り、コスパ以外にもさまざまなランキングを載せている。労働生産性や農地の集積の具合、食料自給率など。都道府県の生産基盤が現在どうなっているか、課題と強みは何かというところまで、なるべく掘り下げたつもりだ。
 その農業の現状は、私たちの生活と分かちがたく結びついている。
 たとえば、昨年からオレンジジュースが販売休止になったり、値上がりしたりしている。世界的な不作や円安が影響しているものの、そうであれば、原料を国産の柑橘に切り替える選択肢もあるはずだ。
 そうならないのは、国内で柑橘の生産量が減っているから。とくに和歌山と愛媛という「みかん県」は、農家の高齢化や人手不足に悩まされ、生産量を落としている。ジュース用には基本的にハネ品を使うので、その供給量は生産量と連動して減ってしまう。
 高島屋のクリスマスケーキの一部が崩れた状態で届き、年の瀬に謝罪会見が開かれた。その遠因と考えられるのが、昨夏の猛暑が影響したイチゴの品薄だ。品薄には今後拍車がかかると予想されている。根強い需要とは裏腹に、手間がかかるイチゴを栽培する農家は減っていく。
 あなたの食卓の広大なバックヤードである農業現場は、今後どうなっていくのか。それを考えるヒントにぜひ本書を手に取ってみてほしい。

(やまぐち・りょうこ ジャーナリスト)
波 2024年2月号より

蘊蓄倉庫

食料自給率という有害指標

 日本は、現在38%のカロリーベース食料自給率を2030年度までに45%に引き上げるという目標を設定していますが、この食料自給率という数値は曲者で、農業の価値向上という観点からはむしろ有害なものになっています。
 自給率は、人が一日に必要とする熱量のうち、どれだけ国産の食料でまかなわれたかを示すものですが、これを上げたければコメのようにカロリーが高くて生産が過剰で、しかも値段の下がり続ける作物を作ればいい、ということになります。さらに言えば、人口が少なくなるほど自給率は上がります。実際、県別の自給率を算出してみると、100%を超えているのは、1位の北海道を除くと秋田、山形、青森、新潟、岩手と、こめどころかつ人口減少の激しい県ばかりです。

掲載:2024年1月25日

担当編集者のひとこと

「コスパ1位」は意外な伏兵

 作っている作物も、事情もさまざまな各県の農業を、一律に評価するのはなかなかに難しい作業です。コメやジャガイモなどのように、ある程度広い土地を使わないと効率性が追求しにくい作物がある一方、リンゴやミカンなどの果実、キュウリやナス、トマトといった野菜類、畜産など人の手の関わる余地が大きいものもある。北海道のような広い土地の農業と、ビニールハウスの施設園芸のように限られた狭い土地で営まれる農業はまったく様相が異なります。

 それでも各県の農業を一律の座標で比べてみるべく、著者は各県の農業産出額を農業関連予算で割り出すことによって「コスパ」を算出し、それをランキング化してみました。その結果、浮かび上がってきたのは、都道府県魅力度ランキングの下位常連組が最強グループを成しているという意外な実態でした。農業県のイメージの強い、いわゆる「こめどころ」は、コスパの点から見ると最下位グループになってしまいます。

 労働生産性1位は、少ない人数で広い農場を管理できる北海道。土地生産性1位は、高値で売れる肉牛の生産が盛んな宮崎県。園芸(野菜や果物類)の生産性は1位は、狭い土地での収量の拡大をひたすら追求してきた高知県。ですが、全体のコスパ1位になった「最強の農業県」は、意外な伏兵でした。

 皆さんもぜひ、ご自分の目で確かめてください。読めば、その理由に納得するはずです。

2024/01/25

著者プロフィール

山口亮子

ヤマグチ・リョウコ

ジャーナリスト。愛媛県生まれ。京都大学文学部卒。中国・北京大学修士課程(歴史学)修了。時事通信記者を経てフリーに。共著に『誰が農業を殺すのか』『人口減少時代の農業と食』などがある。雑誌や広告の企画編集やコンサルティングなどを手掛ける株式会社ウロ代表取締役。

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