ダッシュで家を出て、鎖でつないだワンを連れて『当たり屋』に向かった。 『当たり屋』は、パパが子どもの頃から通っていたという学校の近所の駄菓子屋さんだ。狭い店の中に、お菓子やオモチャがぎっしり並んでいる。 ワンの鎖をガードレールにつないで、「今日こそクジで一等を当てるぞ!」と張り切って『当たり屋』に入ろうとしたら――。 ぎょっ、と足がすくんだ。 店の裏の空き地に、六年生がいる。三人組だ。同級生の中では小さくなってるくせに、下級生にはいばりまくるトリオ――ぼくたちはガムガム団って呼んでる。ガムが靴の裏に貼りついたらなかなか取れないように、しつこく下級生をいじめるから、ガムガム。サイテーの三人組だ。 ガムガム団は、二年生の男子を取り囲んで、クジで当てた景品を「貸してくれよー、すぐ返すからよー」とせびっていた。 二年生の子は半べそをかきながらも景品を胸に抱きしめて、絶対に渡さない、とがんばっている。でも、それ、まずいよ。ガムガム団はすぐにパンチとキックを出して、無理やり奪っちゃうんだから。しかも、「落ちてるのを拾ったんだ」「これがおまえのだっていう証拠あるのかよ」「名前書いてるのかよ」って、絶対に返してくれないんだから。 ヤバいなあ……。 「助けてあげなくちゃ」――心の半分で、思った。 「早く逃げないとオレまでガムガム団にいじめられちゃうぞ」――でも、心の残り半分は、そうつぶやいている。 ガムガム団も二年生の子も、まだぼくに気づいていない。いまなら、そーっと逃げれば、だいじょうぶ……。 一歩あとずさった。 そのとき――ぼくの後ろから、強い風が吹いてきた。 「え?」とおどろく間もなく後ろからあらわれたのは、一輪車に乗った子だった。 猛スピードで一輪車を漕いで、空き地と道路の境目のブロックを一輪車に乗ったままジャンプで乗り越えて……頭のてっぺんでチョンマゲが揺れていた。 マコトくんだ。ウワサのマコトくんが、いきなりあらわれた。 「なにやってんのよ! あんたたち!」 すさまじい勢いで向かってくる一輪車に、ガムガム団はあわてふためいた。 「うわわわっ」「危ないっ」「ひえええええーっ」 急ブレーキ――そして、スピンをかけるようにターン。 ぎりぎりのところでガムガム団をかわした。すごいテクニックだ。一輪車には自転車と違ってブレーキはついていないのに、ペダルの逆漕ぎだけで、ここまでピタッと止まれるなんて。 「明日から何年生になるの? あんたたち」 「……六年生、です」 「バッカじゃないの、下級生いじめて。今度見つけたら、本気でやっちゃうからね!」 ペダルを踏み込んで一輪車をグッと前に出すと、ガムガム団の三人は「すみません!」「助けて!」「ごめんなさい!」と叫びながら逃げ出してしまった。 その背中に「あっかんべえ」をして、二年生の子に「もうだいじょうぶだからね」と笑ったマコトくんは、気持ちよさそうにヒュウッとくちぶえを吹いた。 そして、ゆっくりと一輪車を漕いでぼくの前まで来ると、そっけなく一言――。 「あんた、いま、逃げようとしたでしょ。情けなーい」 そのまま走り去ってしまったマコトくんを、ぼくはボーゼンとして見送るだけだった。 勇気のなさを見抜かれた恥ずかしさだけじゃない。 とにかくおどろいて、口をぽかんと開けるしかなかった。 女の子の声だ。女の子のしゃべり方だ。 「マコト」って……女の子の名前だったの……? 次の日。 四年一組の黒板に、マコトの名前が漢字で書かれた。 『川村真琴』 同じ学年どころか、みごとに同級生になってしまったわけだ。 ぼくはうつむいて、マコトと目を合わせられなかった。勇気のないカッコ悪さを女子に知られたなんて、ほんとにカッコ悪くて、自分でも情けなくて……。 「はい、じゃあ川村さん、自己紹介してちょうだい」 クラス担任の中山先生に声をかけられたマコトは、ピンクのリボンで結んだチョンマゲを揺らして、教壇の真ん中に立った。 「川村真琴です。わたしの夢は、この学校の番長になることです」 は――? 番長、って――? 教室がざわめいた。ぼくも思わず顔を上げると、マコトと目が合ってしまった。 マコトは、「ふーん、あんたも同級生なの」というふうに笑ってうなずいて、一言付け加えた。 「弱い者いじめを見過ごして逃げるような子は、大っ嫌いです!」 それが、ぼくとマコトの出会いだった。 |