二次選考通過作品発表(受理順)
作品名 |
きれいにしたい |
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作者名 |
青葉マドカ |
コメント |
仕事に疲れた鈴奈が、自然派のお店で出会った年上の女性、真智子さんに憧れ、近づき、傷つき、疑い、戸惑う様子が丁寧に描かれていて、素直な主人公に好感が持てました。同時に、「エコ道楽」というドキッとさせる言葉が出てくるなど、エシカルを語ることには慎重さが求められる、と考えさせられました。終盤、鈴奈が感じた真智子さんの中の「隔たり」をもう少し真智子さんに語らせるなど、ヒントがある方がよかったと思います。 |
作品名 |
しゃべりこうべ |
作者名 |
橋本暁 |
コメント |
書き出しが秀逸で一瞬で引き込まれました。夫が足先から消えていく──そんな出来事にも妻は動じず、徐々に身体が失われていく夫を介護する日々が淡々と描かれていきます。夫の小さくなっていく足指や、下半身がすっぱりと消えた断面の感触などが写実的に描写されているので、異常な設定を読者に飲み込ませる説得力がありました。人間が消えたその一歩、二歩先までを描く意欲作だと思いました。 |
作品名 |
ペトルーシュカ・バブーシュカ |
作者名 |
岡山純菜 |
コメント |
簡単には割り切れない、家族に対する悲しみと憎しみと愛情の問題が割り切れないままに綴られていて、引き込まれました。母との思い出であるバブーシュカを洗い、自分でも新たに編み、母に結ぼうとする描写には、慰め、そして愛憎を感じました。眠る母の側に、母の安らぎを願いながら寄り添うひとときの情景は穏やかながら、日常の問題は解決したわけではなく、主人公には自分自身の為の人生を歩んでいって欲しいと、読み終えて思いました。 |
作品名 |
ゲンセキ |
作者名 |
佐々木千裕 |
コメント |
心が温かくなる、読みながら映像が浮かぶお話でした。ともすれば「空気が読めない」と評されそうな新沼さんが他人の印象に左右されず、人や物事にしっかり向き合うまっすぐさと、戸惑いながらもそれに応える周囲の人々の態度にはとても勇気づけられました。「メモを取る」という習慣自体に、新沼さんの書く登場人物を素直に応援したくなり、読後感も良かったです。 |
作品名 |
伝道師 |
作者名 |
佐々木千裕 |
コメント |
地方TV局に勤める新米記者の成長物語。ちょっと浮いているけど、謹厳実直な主人公が己の信じる道を突き進むさまはすがすがしく、その真っ直ぐすぎる熱意に心を動かされた周囲のキャラクターを巻き込んで物語が展開します。期せずして相手を味方につけてしまう、彼女の不思議な魅力を描き出す筆力は見事です。一方、スクープに至るまでの経緯はどこかご都合主義的で、もっと言えばスクープそのものがパンチに欠けるようにも見えました。この部分に重厚さが増せば、より魅力ある作品になるのではないかと思います。 |
作品名 |
繋がる |
作者名 |
佐々木千裕 |
コメント |
個性的で融通の利かない、でも憎めない主人公と「婚活パーティー」という組み合わせがハマっていて、とても面白く拝読しました。読み進めるに従って、登場人物たちの愛おしさが増し、脇役のキャラクターの描き方、エピソード、印象的なフレーズや小物の使い方もお上手です。ただ、やや都合よく展開しすぎるようにも感じられ、特に主人公のキャラクター設定は、丁寧に描く必要があったようにも思いました。 |
作品名 |
タコのハナシ |
作者名 |
逸見真由 |
コメント |
主人公が子供のころに起きた父母のケンカのエピソードが面白く、冒頭から引き込まれました。主人公は年の差恋愛に悩んでいますが、悩みの内容に笑えるところがあり、あまり深刻になりすぎないところが良かったです。一方で語り口調のため状況が分かりにくい場面があるのと、後半は特に会話の羅列で駆け足に感じられるので、もう少し丁寧な描写や情景説明が欲しかったです。全体の雰囲気に魅力がある作品だと感じました。 |
作品名 |
水を嚙んで泳ぐ |
作者名 |
奥山いずみ |
コメント |
主人公をとりまく日常や夢に出てくる海の情景、徐々に進む彼女の不思議な変化が、みずみずしく丁寧に書かれており、全体を貫く幻想的で静謐な雰囲気にひきこまれました。主人公の心の揺らぎも、匂いや手ざわりといった彼女の五感を通して繊細に表現されており好感をもちました。青梅の実やサメ、土の匂いの解釈については、読者の想像に委ねるような余白のある書き方だったと思うので、もう少しだけヒントがあってもよいのかなと感じました。 |
作品名 |
取り憑かれトリッパー |
作者名 |
北村よしみ |
コメント |
泣きました。自殺を試みる女子大学生の前に、パソコンのモニターに映った幽霊が「その命、捨てるのだったら私にちょうだい」と、こちらの世界に出てくるという場面から始まるこの短編を読み始めた時、後半で涙するとは……。物語を構成する要素に新味はないにもかかわらず組み合わせ方と展開が上手く、引き込まれました。うざい側面のある親の愛を「尊い」と感じさせてくれる作品です。 |
作品名 |
芭蕉と私の推し活 |
作者名 |
筒井透子 |
コメント |
認知症の義父に芭蕉の弟子が乗り移るという、ちょっと不思議な設定も、違和感なく受け入れさせてしまう筆力の高さ、テンポのよさに引き込まれました。それぞれの登場人物の人物造形もすばらしく、情景が自然と目に浮かぶようでした。主人公が先生と旅をした日の夜、ホテルの部屋に戻って一日を反芻するシーンは微笑ましく印象に残っています。一方で、原稿枚数の制限があったためか、終盤はやや急いで物語が閉じられたように感じられた点は残念でした。また、この作品は読む世代によって評価が分かれるところも興味深いと感じました。 |
作品名 |
夜明けとマヨネーズ |
作者名 |
ねじまきねずみ |
コメント |
失礼な同僚によって死んでしまった彼氏の残した謎が分かっていく展開が面白く、謎自体の回答にピンと来ないところはありつつも最後にマヨネーズを掻き込むところがとても爽快でした。同僚の距離感に戸惑う読者は多そうですが、失礼さが人間関係を良くも悪くも進めていくことは現実でもよくありますし、彼のキャラクターの強さと主人公との関係の絶妙さも読みどころだと思います。終盤に明かされる主人公の気持ちと保守的な姿勢も驚きがあってよかったです。 |
作品名 |
水を得にゆく魚 |
作者名 |
水登マヤ |
コメント |
この難しいテーマの中、登場人物のリアリティ(どうしようもなさ)をありありと感じさせながら、ここまでバランスよく書けるのは本当に稀有な才能だと思います。田舎・ベトナム・東京の対比も見せ方が上手い。読者に“遠くの話”だと感じさせたあとにグッと自分事にさせるような、そんな力も感じました。とにかく「今、みんなで読まなければいけない作品」だと思います。 |
作品名 |
ハルシネーション・ミー |
作者名 |
芦畑礫 |
コメント |
うっとうしい母親からのLINEに、理想の娘のように返信してくれるアプリ、という設定がまず面白かったです。(私もこのアプリが欲しいです!)しかし、その返信がエスカレートして思わぬ事態に……という展開には恐ろしさやアイロニーがあり、ドキドキさせられました。主人公と母との関係を軸としながらも、アプリ開発者の黛と主人公の関係性にももう少し変化や展開があるとさらによかったかなと思います。 |
作品名
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かがみよ、かがみ |
作者名 |
大宮三晴 |
コメント |
ファッション誌の現場でバリバリ働く主人公が、シェアハウスの大家さんと出会うことで、もがきながらも解放されていく様子に心が温かくなりました。編集部の様子もリアルで、お仕事小説のような楽しさもありました。登場する女性たちの年齢幅が広く、結婚、出産、美容などつい他人と比較したくなる構図がとても自然で、物語全体のテンポも良く、主人公の今後や大家さんの過去の物語も読んでみたいと感じています。 |
作品名
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レモンの絞り方 |
作者名 |
井出成美 |
コメント |
仕事上の会食の席、岩牡蠣に添えられたレモンの切れ端から「酸っぱく、重たい苦み」を伴う新卒時代の記憶がフラッシュバック。主人公は当時の傷つきを、ドロップアウトし契約社員として働く現在もなお引きずっています。その心の機微が静かに、丁寧に描かれており、胃の中から湧き上がるような「酸っぱさ」への共感がじわじわと広がる作品でした。物語終盤、主人公がけっして一人ぼっちではなかったことがわかる展開に、読み手の心も救われます。 |
作品名
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嚙みちぎるオレンジ |
作者名 |
竜頭蛇尾子 |
コメント |
やっぱりやりたいことが三つしかない。睡眠、読書、セックス。どうしよう。日常のすべてがめんどうくさくて、こんな日記を書いてしまう主人公の女子大生の無気力さは、誰もが何者かになることを半強制されているような今の時代には新鮮で、好ましいとさえ思えました。無気力なだけでなく、みんなに見えていることが見えない、かと思えば気づかなくて良いことに気づいてしまう厄介な性質の主人公ですが、彼女が見ている世界を文字を通してダイレクトに感じられるような文章は、読んでいて心地が良かったです。 |
作品名
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今日の運勢は最悪です |
作者名 |
あやせそら |
コメント |
占いに過剰に翻弄されながらも同級生に恋をする主人公がいじらしく、思わず応援したくなります。友人との会話のリズムも心地よく、若さゆえの過剰な自意識や臆病さが的確に表現されていて、終始楽しく読めました。恋の相手である町田くんの無神経さや狡さも、単純に「嫌なやつ」と切り捨ててしまえない絶妙な描写で印象に残ります。主人公が失恋を経て前を向いていく過程も爽やかで、読後感の良い短編でした。 |
作品名
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曇る母へ |
作者名 |
白木凛 |
コメント |
子どもの頃あんなに頼もしく思えた母が、職を失い自分の仕送りを待ち、ごめんなぁと繰り返す。大人になって親が小さく見えるもどかしさ、苦しさが、主人公の言葉を通して生々しく切実に伝わってきます。決して明るいお話ではなく、読みながらしんどい気持ちにもなったのですが、主人公のその後をみてみたいと思わされる力がある作品でした。 |
