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満洲朝鮮復刻時刻表
日本鉄道旅行地図帳編集部/編

入手困難! まれに古書市場で高額取引! 日本鉄道旅行地図帳「歴史編成」の発売に合わせて満洲、朝鮮、さらに台湾、樺太の戦前の時刻表も復刻。鉄道ファン・時刻表ファン垂涎の4冊セット。地図だけでは物足りないというファンに千夜の喜びを差し上げます。

ISBN:978-4-10-320521-0 発売日:2009/11/20

おすすめの一冊 書評

2,940円(定価) 購入

波 2009年12月号より

鉄道地図帳と復刻時刻表

曽我誉旨生


 一年にわたる日本列島縦断の旅が終わった『日本鉄道旅行地図帳』。今度は時空を超えて「歴史編成」と題し、戦前に日本が統治(または事実上支配)していた地域である朝鮮・台湾・満洲・樺太へのタイムトラベルに我々をいざなう。
 これらの地域の地図からはどんな風景が見えてくるのだろうか? それは日本本土とはまったく違ったものだろう。たとえば満洲では高い山脈や大海原といった“絶景”がほとんど期待できない代わりに、南満洲鉄道の社歌にも歌われている「万里つづける広野」や「高粱の波」が車窓の友になる。
 さて今回、「歴史編成」の刊行を機に、戦前の満洲や朝鮮の時刻表が復刻された。見る者の脳裏に車窓風景を映し出すスクリーンが地図だとすれば、時刻表は旅のノウハウが詰まったシナリオだ。あの駅からこの駅まで何時間かかるのか? 列車はいつどこに何本走っているのか?
 そして、外地ならではの記述としては税関検査の要領も。巻末には食堂車の営業案内が掲載されており、洋食や和食の他、現地の人々向けに満食も出されていたことがわかる。内容は鉄道関係だけではなく、日本と満洲を結ぶ航路の予定や、日本の四倍にもおよぶ広大な地域をカバーする航空便、鉄道の駅から奥地に分け入るバスの時刻まで盛りだくさんで、興味は尽きない。
 こうした地図や時刻表を読み解くとさまざまな事実が浮かび上がる。まず気付くのは、まるで指先へと通じる毛細血管のようにソ連との国境地帯にまで伸びる満洲の鉄道網。それらは北方からの脅威に対する備えとして建設されただけに、当時あなたがそういった路線の汽車(一日たった一本!)に乗って地図を片手に沿線を興味津々と眺めてでもいようものならば、当局の厳しいお咎めは避けられなかったに違いない。今回の刊行により、七十年の時を経て初めて、往年の満洲辺境の鉄道旅行を立体的かつ心ゆくまで楽しむことができるようになったのである。
 復刻版『満洲支那汽車時間表』の元本が発行された昭和十五年前後は、満洲のツーリズムにとっての転換期と言える。満洲国の先進性をアピールする先導役を担った交通・観光産業が繁栄の頂点を極めた一方で、日中戦争やノモンハン事件など、戦争の暗雲が到来。それまで青少年にとっての満洲体験は物見遊山の修学旅行が多かったのだが、「満洲建設勤労奉仕隊」と称し、現地での開拓など短期労働に取り組む形態も登場した。
 そんな中、大陸におけるツーリズムの光と影を象徴するイベントが開催されている。題して「大陸都市早廻り競争」。日本の紀元二千六百年を祝う催しのひとつとして昭和十五年四月にジャパン・ツーリスト・ビューローと満洲日日新聞が実施したもので、紅白二チームが奉天から大連・新京・哈爾浜・牡丹江・羅津・北京・張家口・青島・済南・上海・南京の各都市を鉄道や飛行機で実際に巡り、所要時間を競った。その背景には、中国大陸における日本の支配力誇示というプロパガンダがあるのは言うまでもない。時刻表を駆使した苦心の乗り継ぎプランを春の気まぐれな天候に阻まれながらも、白班が七日と十七時間で勝利している。ちなみに、所要時間を当てる懸賞クイズも行われ、当選者には日本の“聖地参拝旅行”が贈られたという。
 もしもいま、同じ行程でこれらの都市を巡ったらどれ位の時間が掛かるだろうか? 幸い、中国の鉄道や航空の時刻表については市販されているので、それらを元に組み立てて七十年前と比較してみるのも興味深いことかもしれない。おそらく、高速鉄道やジェット機のお陰で格段に短縮されていることであろう。そこでひとつ指摘しておきたいのは、日本人にとって「満洲」は昭和二十年八月に終わった過去かもしれないが、歴史は滔々と現代に至るまで流れているということである。満洲国があった時代はその途中通過点に過ぎない。『日本鉄道旅行地図帳「歴史編成」』と『満洲朝鮮復刻時刻表』がノスタルジアだけにとどまらず、その土地の「いま」を見つめるきっかけになれば一層、面白いのではないかと思う。


(そが・よしき 交通史研究家)

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