地球は海に覆われ、温暖湿潤で安定した気候をもつ。従って生命にとって住みやすい惑星である。しかもそれが、地球誕生以来続いている環境だと、誰しもが当たり前のように信じている。だからこそ、その環境が少しでも変化すると、とんでもない天変地異が起こったかのように反応するのだろう。加えて、その原因が我々の現在のような生活の結果だとすればなおさらである。
しかし、地球がその歴史を通じて、そのような安定した環境を維持してきたという事実はそもそもない。地球環境はふらふらと、大小さまざまな変動を繰り返している。例えば、現在、地球は間氷期と呼ばれる温暖な気候状態にあるが、それは高々、最近の一万年くらいのことで、もっと長い時間スケールで見れば氷河期の真只中にいる。数万年とかの時間スケールで見れば、地球は確実に氷期という気候状態に変化する。ただし、もし我々が、もっと激しい気候変化の引き金を引かなければの話であるが。
地球環境問題とは、人間と地球との、関係性についての問題である。人間についても、地球についても、深い知識と洞察があって初めて、その本質に迫ることができる。しかし現実には、今我々が地球システムの中に築き、そこで生きている、人間圏(従来使われている用語で近いものを探せば世間)の内部システムにしか関心がないような人たちが、その専門家として地球環境問題を語り、解決を担おうとしている。私の知る限り、彼らの多くは、地球や人間とは何か、あるいはそれらの歴史について、ほとんど基礎知識に欠けている。
そのような人たち、あるいはそうしたマスコミの扇動に酔っているような人たちに、是非読んでもらいたい本が出版された。地球がかつて、一〇〇万年くらいという地球史としてはきわめて短い期間に、一〇〇度以上にも及ぶ気温変化を経験した、という事実を紹介した本である。それが明らかにされたのは、ここ一〇年くらいのことに過ぎない。著者は自らもその研究を進め、世界を飛び回っている、まさに最前線に立つ少壮気鋭の研究者である。
原生代前期に一回、原生代後期に二回、地球が凍りついた(スノーボールアース)事実が明らかにされる過程を、自らの体験を踏まえながら、丹念に紹介する。一方で、地質学的事実とその物理学的解釈が、詳しく解説される。読者はその展開に思わず引き込まれるだろう。そんな地球史における重要な事実が、今まで明らかにされなかったということに驚く人も多いだろう。若い読者のなかには、自らその探求過程に加わりたいという情熱を抱く人もいるかもしれない。
宇宙に目を転じると、むしろ凍りついたスノーボール状態の地球こそ、生命の惑星として普遍性があるかもしれない。話はこれからの学問の発展性にまで膨らみ、興味は尽きない。
(まつい・たかふみ 地球物理学者、比較惑星学者、東京大学大学院教授)