 | 24:13 新橋-銀座駅 |
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こういうとき、第三者は全員が敵であることを、鶴見は知っていた。 都会ではなおさらだ。都会の人々には、すぐ隣で起こっていることも地球の裏側の出来事と変わらない。関わり合いになることを極端に怖れるのだ。大勢の人間がいる目の前で暴行に遭ったというニュースなど、さほど珍しくもない。 相変わらず、男は雪絵を睨みつけるようにして立っていた。 電車の振動が、大きな彼の身体をゆらゆらと揺らし続けている。 鶴見は、注意深く男の監視を続けた。 問題は、次の銀座で下車するときだ。 男には、雪絵以外の一切が目に入っていないように見える。人のいる場所では行動を控えるといった〈常識〉など、あの男は持ち合わせていまい。 鶴見と雪絵が下車したとき、彼はどんな行動をとるのか？ 十中八九、追ってくることは間違いない。 わからないのは、男の目的なのだ。 あいつは何を考えているのか？ 電車がガクンと大きく揺れて、スピードが落ちる。 銀座だ……。 ふう、と鶴見は息を吐き出した。 ドアの位置を確認する。雪絵のすぐ脇にドアがある。あの男の横にもドアがある。男は、どちらのドアを使うだろう。 いきなり車内が明るくなった。ここは、先頭車両。 首を回し、ホームの状況を確認する。ホーム最前部に階段がある。あの階段を使いたいところだが、向こうのドアから男が降りた場合には、行く手を阻まれる格好になる。 電車が停まり、シューッという音とともにドアが開いた。 「降ります」 鶴見は、言いながら立ち上がり、シートから腰を上げようともしない雪絵を促した。 「お願いします。降りてください」 もう一度言う。雪絵は、それでようやく立ち上がった。 男のほうを注意しながら、鶴見は雪絵を先に立ててホームへ降りる。 「――――」 ありがたい。 男は、雪絵の後を追って、車内を移動していた。行く手を塞がれないですむ。ホームでの移動はなるべく短くすませたかった。 「…………」 ホームの様子がいささか妙に感じられた。目つきの悪い男が数人、あちこちに散らばっている。彼らは、ホームの両側に電車が停まっているにもかかわらず、乗車するでもなく立っている。 何気なく後ろを振り返る。 あの男が、電車に乗ろうとしていた老人を突き飛ばしてホームへ降りるのが見えた。老人は、ペタンとホームに尻餅をついた。 なんてやつだ……。 そばにいた老婦人が倒れた老人に被さるようにしゃがみ込んだ。男のほうは、その２人にかまうことなくこちらへ向かってくる。ぎくしゃくした妙な歩き方だった。 雪絵を急き立てるようにして階段のほうへ向かう。 前方から来た若い男とすれ違った。倒れた老人を助けようというのだろうが、できればあのストーカー男を足止めしてほしかった。 周囲がぱっと赤く輝いたように見えて、とっさに鶴見は後ろを振り返った。 「キャーッ！！」 と、雪絵が悲鳴を上げながら鶴見の腕にしがみついてきたが、驚いたのは鶴見も同じだった。 ホームの中央で、今すれ違ったばかりの若い男が、全身から炎を吹き上げていたのだ。男の身体が燃え上がっていた。 男は、火だるまになりながらホームに倒れ込み、叫び声を上げて転がる。 理解不能な事態だった。目の前で起こっていることが理解できない。依然として、ストーカー男は雪絵を無表情に見つめていた。 異常な事態だった。 雪絵は、ガタガタと震えながら鶴見の腕にしがみついている。 男が握った右の拳をこちらへ上げた。身体を痙攣させながら、雪絵のほうへ右腕を突き出している。 とっさに、鶴見は雪絵の身体を抱え込むようにして、踵を返した。 とにかく、あの男から離れるべきだ。起こったことを理解するのは後でいい。今は、雪絵を安全な場所へ避難させることだ。 男は、ホームの中央で仁王立ちになり、身体を激しく震わせている。 鶴見は、雪絵を抱えるようにしながら、階段へ向かった。 前方で、２人の男が青いクーラーバッグを引っ張り合っていた。 何が起こっているんだ……？ 駅全体が異常だった。 ここから早く離れるべきだ。 クーラーバッグの取り合いをしている横をすり抜けるようにして、鶴見と雪絵は階段へ向かった。その階段から、サラリーマン風の男が降りてきた。男は、なにごとかと言うように、鶴見たちの背後に目をやったまま、階段の下で立ちすくんだ。 階段を上ろうとして、鶴見は一度後ろを振り返った。雪絵もつられたように男のほうへ目をやる。 男は依然としてホームの中央で仁王立ちになっていた。 男が両腕を広げた。 そして、次の瞬間――。 男の身体が、いきなり真っ白く光りながら膨張したように見えた。 鶴見はとっさに雪絵に覆い被さった。同時に、とてつもない衝撃が身体を階段に叩きつけ……鶴見の意識は、そこで途絶えた――。 |
 | 男 |  | 雪絵 |  | 電車に乗ろ うとしてい た老人 |
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 | 老婦人 |  | 若い男 |  | サラリー マン風の 男 |
