![]() | 24:13 銀座駅 荒屋敷日出雄 |
「最高の1日──」 荒屋敷は、またその言葉を口に出して言ってみた。自然に顔がほころんでくる。 銀座線のホームへの階段を下りながら、つい笑ってしまう顔をむりやり引き締めた。引き締めることなど、到底できそうになかった。 あ、電車が来てる……。 右にも左にも、電車が停まっていた。 おっと、急がなくちゃ。 階段を駆け下りる。 「お父さんは、1人しかいないよ」 由雄が、そう言ってくれた──。不覚にも涙が出てしまった。嬉しくて泣いたことなど、ほんとうに久しぶりのことだ。 「電話していい?」 別れ際に、由雄はそう訊いた。 当たり前じゃないか。いつだって電話してくれよ。 抱きしめてやりたかったが、照れくさかったから握手して別れた。 その後の仕事が上の空になってしまった。だからまるで仕事は片づかず、こんな時間になってしまった。 でも、今日は、ほんとうに最高の1日だった。 「…………」 ホームへ降りたとき、荒屋敷は何か妙なものを感じて、自分の前方を眺めた。 数メートル先で、男が手錠を掛けられていた。そばにいるのは警察官なのだろう。男の刑事が1人、女の刑事が1人。そして、もう1人男が立っていた。 その脇をすり抜けるようにして男と女のカップルが抱き合いながらこちらへ向かってくる。 彼らの向こうには、もっと奇妙な光景があった。 黒こげになった人間がホームの床に転がっている。その脇で2人の男が屈み込んでいた──。 どうしたんだ、いったい……。 呆然としながらホームを見渡したとき、いきなりホーム中央に閃光が走った。同時に、ホームにいる人々が空中にはじき飛ばされるのが見えたような気がした。 はじき飛ばされたのは彼らだけではなかった。荒屋敷日出雄は、降りてきたばかりの階段に激突した。 彼は、人生の最高の1日を終えた──。 |
![]() | 男 | ![]() | 男の刑事 | ![]() | 女の刑事 | |
![]() | もう1人 男 |
![]() | 男 | ![]() | 女 | |
![]() | 黒こげに なった 人間 |