新潮社

エッセイ

一番簡単で、一番効果的なマイブックの使い方原田ひ香

チケットもレシートもおみくじも貼っちゃえ! 来年ではなく思わず明日から始めたくなる、極意の詰まったエッセイをお楽しみください。

 自分で言うのもなんですが、私のマイブックの使い方は世界で一番簡単で、一番効果的な使い方だと自負しております。
 それはただ、その日もらった「紙の資料」を糊で貼るだけ、というものです。
 例えば、コンサートのチケット、レストランのショップカード、新幹線の切符(私はスマートEXでチケットを購入しているので、Suicaで入場すると改札で乗車時間やシート番号が明記された小さな紙が出てきます。それを貼ります)、小吉のおみくじ、編集者さんからの手紙、重版の連絡用紙、カフェでふと思いついたアイデアを紙ナプキンにメモしたもの、良い買い物をしたときのレシート……などなどです。
 もう、ただ、ただ、貼るだけ。ちょっと説明が必要な時には、横に簡単なメモをしたりもしますが、ほとんどそれもなしです。
 でも、これだけで一年を通して何をしてきたかもなんとなくわかるし、マイブックは日に日に太っていくし、なんとなく「自分、ちゃんと記録してる! マイブックを使いこなしてるー!」という気分になり、すこぶる満足感が高いのです。
 それにこういう、取っておくほどでもないし、捨ててしまうのもちょっと心残り、というレベルの紙の資料というのは、自然と机やテーブルに積もりがち。それを一応、まとめておくことができますし、逆に、ここに「貼らない」ということはそれほどの価値はないのだ、ということできっぱり捨てられます。また、「あの時、どこのレストラン行ったっけ?」「あそこ、また行きたい」なんていう時にももちろん便利です。
 そして今年はこんなずぼらな使い方の私に、すてきなご褒美がありました。
 今年三月(放送は四月)、あの鈴木保奈美さんが出演されているBSテレ東の「あの本、読みました?」の文庫本ランキングの回の収録に参加して欲しい、というご連絡がありました。当初のご要望は私が帯コメントを書いた「『青い壺』のヒットについて話して欲しい」ということでした。
 最近のテレビ番組というのは、事前にアンケートという形でいろいろ質問をされます。この時も必要なのは『青い壺』だけでよかったのですが、他にも「『幸せな家族―そしてその頃はやった唄』は読んだことがありますか?」「マイブック使っていますか? その使い方は?」などという細かな項目があり、自分のマイブックの使い方などを書いたのです。すると局の側から「お使いのマイブックをお持ちいただきたい」という要請があり、マイブックともども出演、さらにマイブックのコーナーでも出ていただきたい、ということになりました。
 その中で、「私はこうして使っています」というように、マイブックをめくって話していたら、隣にいた新潮文庫のマイブック担当の編集者さんが「え! 私も清水ミチコさんのコンサート行ってます!」という、台本にはない、発言が!
 私はここ六、七年、清水ミチコさんのお正月のコンサートには欠かさずうかがっているのでマイブックにもその半券を貼っていたのですが、偶然、彼女もそうだったのでした。清水さんは「国民の叔母」と自称される通り、コンサートも、まるで実家のこたつに入ったような、温かさとおかしみがあります。だからこそ、彼女も思わず、声が出てしまったのでしょう。
 放送にはその部分もちゃんと使われていて、とても楽しい一シーンとなりました。
 というわけで、手帳というと「使いこなせないかも」「三日坊主になりそう」という方も多いと思いますが、このマイブックは日付が入った手帳の中では比較的安価ですし、文庫サイズなので本棚にも並べやすく、そして、私の使い方ならとにかく簡単ですので、来年はぜひ、お使いになることをお勧めします!

(はらだ・ひか 作家)
波 2025年12月号より

マイブック―2026年の記録―

大貫卓也/企画・デザイン

    マイブックには、日付と曜日しか入っていません。これは2026年のあなたがつくる、世界に一冊だけの本。どんなふうに使うかはあなたの自由です。日記をつづってもよし。手帳として持ち歩くのもよし。誰にも思いつかないオリジナルな使い方を試してみるのも、きっと楽しいでしょう。毎日使い続けて完成させたなら、他のどの本よりも記憶に残る、とっておきの「自分の本」になっているはずです。

    539円(税込)