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唇から溢れるのは悦びの吐息と本能の滴り。男と女の心の秘部を押しひらく官能短編集。

くちびる遊び

花房観音/著

562円(税込)

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発売日:2017/11/01

読み仮名 クチビルアソビ
装幀 池永康晟(「接吻と泡・穂波」より)/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-120582-3
C-CODE 0193
整理番号 は-67-2
ジャンル 文芸作品
定価 562円

「女の匂いをさせては、獣が来ます」山奥の宿坊。妖艶な僧が、手で舌で、私の体を清めていく――(「女禁高野」) 妻よ、俺の顔に跨(またが)ってくれ。潤みに塗(まみ)れたその尻で、潰してくれ(「悦楽椅子」) 先生は、私の髪で先をくすぐられるのが、たまらなく好きでしょう?(「みだら髪」) 狂おしいほどに疼(うず)き、したたり、吐息が漏れる。団鬼六賞作家が男と女の心の秘部を押しひらく、文庫オリジナル欲情短編集。

著者プロフィール

花房観音 ハナブサ・カンノン

1971(昭和46)年、兵庫県生れ。京都女子大学文学部中退後、映画会社や旅行会社などの勤務を経て、2010(平成22)年に「花祀り」で団鬼六賞大賞を受賞しデビュー。2017年10月現在も京都でバスガイドを務める。官能小説では、男女のありようを芯から炙り出す筆力の高さに女性からの支持も厚い。ホラー小説も手がける。著書に『寂花の雫』『花祀り』『萌えいづる』『女坂』『楽園』『鳥辺野心中』『指人形』『黄泉醜女(ヨモツシコメ)』『女の庭』『好色入道』『偽りの森』『愛の宿』『まつりのあと』『花びらめくり』『色仏』『鬼の家』など多数。

書評

活字を漏らさず味わう「妄想セックス」

いしいのりえ

 私は花房観音のファン第1号である。
 花房観音の作品を初めて手にしたのは、彼女のデビュー作でもある「花祀り」の原稿であった。
 イラストレーターとして、第1回・団鬼六賞の大賞受賞作の装画を担当することになり、まだ製本されていないゲラの状態であった「花祀り」を拝受した。編集者との打ち合わせの帰り道、電車の中で原稿を読み始めてからすぐに花房観音の世界に引き込まれてしまい、一晩かけて読み終えた。
 京都を舞台にしたその作品は、文芸的な匂いを放ちながらも「エロい」官能小説として成立している。選考委員長でもあった団鬼六氏の名を掲げた賞にふさわしく、気品と逞しさを漂わせた花房観音の世界に初めて触れたその夜は、とんでもない新人が誕生したものだと夜中にひとり高揚したことを今でも覚えている。
 私は花房観音の底知れぬ渇望感がとても好きだ。愛する男を飲み込みそうなほど醜態を晒すセックス描写や、内に秘めた闇を露わにする作品の数々に憧れる同性ファンも多いのではないだろうか。花房観音は、私たち女が「女だから」という不透明な理由で口を噤んでいる、タブー視されていた事柄をまざまざと作品中で表現している。
 女が官能小説を書くことはかなりハードルが高いと私は感じている。男であれば定期的に「排出」をしなければ生きていけないので、衰えこそしても一生性欲と付き合っていかなければならない。そのために男の官能小説家は「抜く」ことを前提とした官能小説を書くことに長けている。
 一方、女にとっての性欲は、男とは少々異なり、厄介だ。女は肉体的に性欲を感じる周期が存在するし、第一に女が「セックスが好きだ」と声に出して言える世の中でもない。
 セックスを書くことを生業にするのならば、言うなれば毎日セックスのことを考え、毎日セックスと向き合い、毎日セックスを書き続けなければならない――我々が考えている以上に女がセックスを書くことは、覚悟が要る作業なのだ。
 しかし花房観音は2010年にデビューしてから現在まで、毎日のようにセックスを書き続けている。「私はセックスが好きだ」と堂々と公言している一貫した彼女の作品スタイルは、なかなか真似できるものではない。それは彼女が幼い頃から「いやらしいこと」への探究心が強かったからこそ為せることではないだろうか。
 本作『くちびる遊び』は、花房観音自身が幼い頃に読み漁った近代文学を代表する文豪たちが書いた作品を本歌取りし、新たに官能小説に仕上げた文豪官能短編集だ。前作『花びらめくり』に続く第2弾である。
 森鴎外与謝野晶子太宰治などの馴染み深い文豪たちの作品も、花房観音の手にかかればものの見事に隠されたいやらしさが解き放たれてしまう。肩肘張って名作を読み「読書家」を気取る人々を横目に、今も昔も男も女も、愛を求めたその先にはセックスがあり、このセックスという行為が人を狂わせ、翻弄し、“物語”を生んできたということを示すのだ。
 そもそも本作の核となる文豪たちの作品が発表された時代は「妄想するセックス」が今より楽しまれていただろう。
 現代のようにインターネットで検索すればすぐにアダルトビデオが観られたり、はたまたVRなど最新機器で目の前に相手がいるかのように楽しめたりする時代ではない。人々はあらゆるものから性を妄想し、脳内で擬似セックスを楽しんでいたはずだ。それこそ文豪たちが発表する活字を頭の中で変換し、性を楽しむというもどかしさは、現代にはなかなか存在しない「創造するエロ」という快楽を与えていただろう。それを追い求めてみせたのが本作だ。
 一般的にセックスは、男性器を女性器に挿入する行為だが、官能小説の面白さは、その行為に至るまで無限のストーリーを見せられるところにある。
 この人と人とが一糸まとわぬ姿で行う獣のような行為に翻弄される、人としてのばかばかしさや面白さを、花房観音はあらゆる視点から表現している。本作を読むと、セックスの話を恥ずべきことと避けてきた女たちは悔しく思うだろう。誰にとってもセックスは面白いものなのだと、自ずと気づかされてしまうのだ。
 想像する間もなくエロが手に入るこの時代に、想像がもたらす豊かないやらしさを、誰にも遠慮せず自由に堪能いただきたい。これが花房観音ファン第1号からの願いである。

(いしい・のりえ イラストレーター、ライター)
波 2017年11月号より

目次

愛しの舞姫
女禁高野
タレコミ訴え
快楽椅子
みだら
あとがき
解説 本橋信宏

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