ホーム > 書籍詳細:〈映画の見方〉がわかる本 ブレードランナーの未来世紀

あの作品の本当の意味とは? 資料や証言をヒントに謎を鮮やかに解読する、傑作映画評論。

〈映画の見方〉がわかる本 ブレードランナーの未来世紀

町山智浩/著

724円(税込)

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発売日:2017/11/01

読み仮名 エイガノミカタガワカルホンブレードランナーノミライセイキ
装幀 (C)Allstar/カバー写真、amanaimages/カバー写真、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-121142-8
C-CODE 0174
整理番号 ま-49-2
ジャンル 演劇・舞台、映画
定価 724円

この本は〈映画の見方〉を変えた! 『ブレードランナー』や『未来世紀ブラジル』、『ロボコップ』に『ターミネーター』……今や第一線で活躍する有名監督による80年代の傑作が、保守的で能天気なアメリカに背を向けて描いたものとは、一体何だったのか――。膨大な資料や監督自身の言葉を手がかりに、作品の真の意味を鮮やかに読み解き、時代背景や人々の思考まで浮き彫りにする、映画評論の金字塔。

著者プロフィール

町山智浩 マチヤマ・トモヒロ

1962(昭和37)年、東京生れ。早稲田大学法学部卒。宝島社にて『おたくの本』『裸の自衛隊』『いまどきの神サマ』『映画宝島』などを企画編集。洋泉社にて「映画秘宝」を創刊。1997年にアメリカへ移住、2017年10月現在オークランド在住。著書に『〈映画の見方〉がわかる本』『底抜け合衆国』『USAカニバケツ』『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』『トラウマ映画館』『トラウマ恋愛映画入門』『さらば白人国家アメリカ』『今のアメリカがわかる映画100本』など多数。

書評

これぞ、映画評論家の仕事

松江哲明

「ブレードランナー」を初めて観たのはテレビの深夜放送だった。正確には、小学生の僕にそんな時間に起きていることは許されなかったので、VHSに録画したのを翌日に再生した。テレビガイド誌にハリソン・フォードがビルの鉄柱に片手でぶら下がっているスチールが載っていて、彼の代表作である「スター・ウォーズ」のようなSFアクション映画であることを期待したのだが、それ(多くの観客同様)は裏切られた。しかし、あの世界を体験してからは数カットしか違いのない完全版のソフトを中学生にとっては決して安くない4000円という金額で買い、ディレクターズカット版が公開されれば友人を誘って新宿ミラノ座に行ったものの「何これ?」と言われてしまい、それでもDVD、BDとメディアが変わる度にソフトを購入しては満足する大人になってしまった。それは「ブレードランナー」が映像や音が鮮明になることで新たに「見える」映画であり、何層にも重ねられたレイヤーによって作られているからだと思う。故に誰もが繰り返し見、または語らずにいられない魅力をもっているのだ。
 本作は「ブレードランナーの未来世紀」でも最も長い文字数で批評されているだけあって、町山さんの強い気迫を感じさせる。特に「これは『デュエリスト/決闘者』の再現だ」「これは『エイリアン』だ」とリドリー・スコット監督の代表作と並べる箇所には、久々に読み返した今回も、鳥肌が立った。それは1人の評論家が何年もかけて作品を追い続けることで、作り手の逃れられない業のようなものを発見し、核心を突いたことが読者にも伝わるからだ。本書にはデヴィッド・クローネンバーグ、ジェームズ・キャメロン、デヴィッド・リンチ、オリヴァー・ストーンといった監督たちの、完成度や興行収入だけでは計れない、赤裸々な部分が露になった作品たちが批評されている。今はコメンタリー等で作り手自身によって解説されることが当たり前の状況になっているが、町山さんは本人も気づかないような作品のヒントを探す。それこそが評論家の仕事だと言わんばかりに。
 僕もドキュメンタリーの監督としてインタビューを受け、語ることも多々あるが、その言葉通りに受け止められたり、それを絶対とされることには抵抗を感じる。あくまでも作品に映ったものがすべてであり、観客の解釈が答え(のひとつ)なのだと思う。だからこそ町山さんは「ブレードランナー」を今、語る際には絶対にはずせない「デッカードはレプリカウントなのか?」という問題は、あえてあっさりと書く。それは監督の意図なのかもしれないが、最初の脚本家や主演俳優にとってはバカげた意見でしかない。本書は監督の作家性に重点を置いて書かれているが、それよりも重要視されているのは「映画そのもの」である。それは町山さんの全批評に共通する点でもあると思う。僕はそこが好きだ。
 本書に登場する作品のすべてを僕はブラウン管で見ている。80、90年代に映画を好きになった世代にとっては地上波のゴールデンタイムとレンタルビデオが映画との出会いのきっかけだった。そして番組の冒頭とラストには作品を解説してくれる映画評論家がいた。見所や裏側、そしてその人の解釈を限られた時間で教えてくれる。「あなたの心には何が残りましたか?」と問われても爆発しか残らないような作品もあったが、彼らは決して作品を否定しない。最近の町山さんの批評を読むと、そんな時代を思い出してしまうのだ。
 例えば「映画秘宝」の初期ではボロクソに(そして笑いを込めて)批評していたが、今は時代が違う。ネットを見れば分かるように、映画の感想はプロアマ同列に並べられ、絶賛または酷評といった強烈なものほど拡散し易い状況にある。それは現代にとっては必然なのだろう。だからこそ僕は膨大な資料を調べた上で、確固たる視点で書かれた長文の批評が必要なのではないかとも思う。それが映画評論の基礎だからだ。140文字の魅力もあるが、それは決して評論ではないし、なり得ない。本書を読むと、時代が変わってもなくしてはいけない、あるべき映画批評が残っていると思える。
 ブラウン管越しに映画を教えてくれる評論家はいなくなってしまったが、町山さんを信頼する読者は多いはずだ。僕はまだ見ぬ新作もかつて見た名作も、その魅力を「教えて」欲しいと待っている。

(まつえ・てつあき 映画監督)
波 2017年11月号より

目次

はじめに
第1章 デヴィッド・クローネンバーグ『ビデオドローム』
 メディア・セックス革命
カフカと昆虫とエンジン
エロティックな科学、セックスとしての映画/これはホラーではない
スナッフ・ビデオの罠
シビックTV/赤い拷問部屋/「セックスと暴力のどこが悪い?」/ニッキー・ブランド
マクルーハンの亡霊
ソフト・マシン/ビデオドロームの正体
ヴァーチャル・ウォーズ
アキューミコン・ヘルメット/テレビ伝道師の野望/キャンサー・ガン(癌銃)/中世対ルネッサンス/死は終わりではない/本当のエンディング/ビデオドロームは現実だ
第2章 ジョー・ダンテ『グレムリン』
 テレビの国から来たアナーキスト
『ルーニー・テューンズ』の息子
ムービー・オージー/コーマン道場の優等生
魔“怪”マグワイ転生
素晴らしき哉、人生?/バッグス・バニー対グレムリン/PG13の誕生/サンタの正体はパパ/グレムリンは日本人?
映画史上最もムチャクチャな続編
グレムリン・ゴーホーム!/リンカーンなんか大嫌い!/That's All Folks!/ダンテ、バック・イン・アクション?
第3章 ジェームズ・キャメロン『ターミネーター』
 猛き聖母に捧ぐ
ナイアガラから来た少年
同棲時代/映画学校はいらない/ミミズからトビウオへ/未来からの刺客/一ドルの権利、千二百ドルの慰謝料/I'll be back!/おしゃべりなターミネーター/ガレージ宅録のテーマ曲/カマキリからフランケンシュタインへ/二一世紀から来た兵士/貧乏ウェイトレス/戦争機械/悪のヒーロー/受胎告知/嵐が来る/アイアン・ジム/盗作!と叫んだ者
タイタニックに向かって
リメイクだった『T2』/キング・オブ・ザ・ワールド
第4章 テリー・ギリアム『未来世紀ブラジル』
 1984年のドン・キホーテ
「お上に間違いはない」/突撃/虹を掴む男/ダクトとタトル/8 1/2/1984年/キャプラとカフカ/魔女狩り/拷問省/最初で最後の反逆/ふくろうの河/バトル・オブ・ブラジル/ほら男爵とドン・キホーテ
第5章 オリヴァー・ストーン『プラトーン』
 Lovely Fuckin' War!
さまよえる帰還兵
イノセンスの終わり/自殺志願/道理が通らぬ場所/兵士の故郷/タクシードライバー/アメリカが作りたがらなかった映画
フレッシュ・ミート
ブート・キャンプ/初めての戦闘/貧乏人の戦場/アパッチ戦士エリアス/死神バーンズ
地獄の神話
ソンミ/フラギング/俺の頭に爆撃しろ!/アキレウスとヘクトール
第6章 デヴィッド・リンチ『ブルーベルベット』
 スモール・タウンの乱歩
胎児の悪夢『イレイザーへッド』
地獄風景/大暗室/芋虫/闇に蠢く/反撥/畸形の天女/パノラマ島綺譚
美しさ歯の根も合わぬ『ブルーベルベット』
白昼夢/蟲/少年探偵団/屋根裏の散歩者/赤い部屋/人でなしの恋/陰獣/地獄の道化師/猟奇の果て/偉大なる夢/幻影の城主
第7章 ポール・ヴァーホーヴェン『ロボコップ』
 パッション・オブ・アンチ・クライスト
「俺は神様よりファックがうまいぜ!」/善悪の彼岸とクソ/失楽園/ボールを投げ捨てる子ども/スピルバーグからの手紙/肉と血/痴愚神札賛
鋼鉄のキリスト
レーガン時代の悪夢/オムニ社というハリウッド/ボッティン対ヴァーホーヴェン/大学教授がつけたロボコップ動き/三秒では長すぎる!/成人指定レベルの残虐描写/ロボコップの受難/君の名は
第8章 リドリー・スコット『ブレードランナー』
 ポストモダンの荒野の決闘者
『電気羊』から『ブレードランナー』へ
未来のフィリップ・マーロウ/リドリー・スコット/デュエリスト/決闘者/ロング・トゥモロー/フィルム・ノワール/アンドロイドからレプリカントへ/いくつもの『ブレードランナー』/虚空の眼/レトロフィット
無秩序都市
人類の進歩と調和/ラスヴェガスに学ベ/行き止まりの未来/CM天国/寿司/チャイナタウンに呑み込まれた都市/シティ・スピーク
レプリカント狩り
レイチェル/シミュラクラとハイバーリアル/家族の肖像/叫び/どんな気分だ?/アルファヴィル/デッカード/ハリソン・フォード/二一世紀の統合失調症/物語と主体の喪失
失楽園
セバスチャン/フランケンシュタインとミルトン/希望よ、さらば/ブラッドベリー・ビル/闘技場/ガントレット/蘇る痛み/最も危険な遊戯/雨の中の涙/数々のエンディング/ユニコーンの夢/デッカードはレプリカントか?/新しき夢を
おわりに
参考文献・資料一覧
解説 吉田伊知郎(モルモット吉田)

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