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葬儀社社員、納棺師、エンバーマー、火葬場職員……。「死」と向き合うプロたちの姿。

葬送の仕事師たち

井上理津子/著

594円(税込)

本の仕様

発売日:2018/02/01

読み仮名 ソウソウノシゴトシタチ
装幀 黒住周作/カバー写真、新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-126393-9
C-CODE 0195
整理番号 い-121-2
ジャンル ノンフィクション
定価 594円

誰にでも、いつかは必ずやってくる人生の終わり。旅立ちの手助けを生業とする人たちがいる。葬儀社社員、湯灌師、納棺師、復元師、エンバーマー、火葬場職員……。なぜこの職業を選んだのか。どんな思いを抱いて働いているのか。忘れられない経験とは。著者は、「死」と向き合うプロたちの言葉に耳を傾け、葬送の現場を見て歩く。光があたることのなかった仕事を描破した感動のルポルタージュ。

著者プロフィール

井上理津子 イノウエ・リツコ

1955(昭和30)年、奈良市生れ。フリーライター。京都女子大学短期大学部卒。タウン誌記者を経てフリーに。人物ルポや旅、酒場をテーマに執筆してきた。2010(平成22)年、長く暮らした大阪から、拠点を東京に移す。著書に『さいごの色街 飛田』『葬送の仕事師たち』『親を送る』『関西かくし味』『遊廓の産院から』『名物「本屋さん」をゆく』『旅情酒場をゆく』『はじまりは大阪にあり』『大阪下町酒場列伝』『すごい古書店 変な図書館』、『ポケット版 大阪名物』『関西名物』(共著)など。

書評

死の「裏方」を知る

佐々涼子

 母は10年かけて少しずつ死んでいった。体中の機能が失われていき、やがて口を動かす機能が失われた。口が動かなければ食べられない。ある日、母のからだに直接栄養剤を送り込むための胃瘻の手術をし、その帰りがけに、中華料理屋で母のいない食卓を囲んだ。母が二度と食べることのなかった、あの餃子の味を、私は忘れることができないだろう。
 あれは生きながら母を弔う通夜だった。母が少しずつ死に向かう間、私は突き動かされるようにして、濃厚に死の匂いのする現場に入り、『エンジェルフライト』で国際霊柩を、『紙つなげ!』で被災者の再生を描いた。死を間近に感じるのでなければ、弔いの現場など行こうとは思わぬものだ。
 では、ノンフィクション作家の井上理津子さんは、何を思い『葬送の仕事師たち』の取材に入ったのだろう。彼女は、葬儀の専門学校、遺体の防腐処理をするエンバーマー、納棺師、湯灌師、火葬場の職員に真正面から取材し、生と死について、深く考えさせられる言葉を聞き出している。時に泣き笑いの混ざるインタビューは、大阪人のキャラクターゆえか。カラッとしてはいるが、決して冷たくはない。太刀筋はまっすぐで、このテーマにあって爽快ですらある。
 冒頭、彼女は専門学校の授業を見学している。「腐敗の進行について」教える授業は「穏やかで、軽快な語り口」なのだという。語られることと口調とのギャップに、読者も驚くに違いない。何しろ授業内容は、「時間の経過によって筋肉が弛緩していくと、口がガバーと開き、ガスが出始めると目玉も出てきてしまいます」といったことなのだから。しかし、それでも厳しい現場を志す若者たちがいる。
 生易しい仕事ではない。遺体は時間とともに腐敗する。事故や事件に巻き込まれた遺体の中には、損傷の激しいものもある。解剖直後の遺体に、蛆の湧いた遺体、風呂釜の中で茹でられてしまった遺体もある。子どもの遺体を抱いたまま離さない親もいれば、従来の葬儀の枠にとらわれない別れを望む遺族もいる。さまざまな状態の遺体、さまざまな立場の遺族に遭遇するが、「仕事師」たちは、持っている技と誠実さで、一生に一度の別れを演出しようと奮闘する。
 彼らの壮絶な仕事ぶりと高い職業意識を知るにつれ、根強かった差別感情は薄れ、親族が担っていた葬儀を代わって行う、感謝される仕事に変化しつつあることに気づくことだろう。そしてまた、遺体の防腐処理技術の進歩により、椅子に座った故人とお別れするといった、新しい葬儀が出現するかもしれないことに驚かされる。この点、本作は時代の移り変わりを映す風俗史ともなっている。
 しかし、どれほど大変な仕事でも、彼らはあくまで黒子の存在だ。3歳児を亡くした家族の立ち直りを目にしたある葬儀社社員のこんな言葉が心にしみる。
「僕ら葬儀屋は『傘』やなと思うんです。亡くなった人のご家族の傘。深い悲しみに陥った家族がやがて一区切りついて日常に戻ると、傘なんか要らなくなる。電車の中に置き忘れられるくらいがちょうどいいんです」
 火葬場の章は圧巻だ。私はてっきり、全自動オーブンのようにタイマーをかけておけば、誰でも簡単に骨になると思いこんでいた。だが、違うのだ。遺体を燃え盛る炎で焼き、骨にしていく職人技の描写に、最初は驚愕するが、やがて心の奥底から、「人の肉体は最後にはこうなるのだ」という乾いた諦めと、職員に対する静かな感謝の念が湧き上がってくる。
 数か月前に母を焼いた。炉から出てきた遺骨の中に、真っ白くて小さな骨が4つ並んでいた。「これは歯ですね。このお年の方でここまできれいに残るのは珍しいんですよ」と、職員が説明してくれた。長い年月、食いしばったままの母の口を苦労してこじ開け、何十分もかけて磨き、父が執念で守った歯だった。あの遺骨は奇跡のように焼け残ったのではなかった。火葬場の職員の技でもあったのか。
 自らの仕事について、決して語らなかった彼らの姿に改めて頭が下がる。きっと、仕事師たちは今日も炉の前で誰かの体が燃えていくのを見守っていることだろう。
 第三者取材でここまで死の周辺を網羅している作品を私は知らない。取材の難しい現場にあって大変な労作である。

(ささ・りょうこ ノンフィクション作家)
波 2015年5月号より
単行本刊行時掲載

目次

第一章 「葬儀のプロ」を志す若者たち
「あの人のような仕事をしたい」/葬祭ディレクター技能審査/あの空襲の日に/座ってお別れ/かすかな微笑み
第二章 それぞれの「葬儀屋稼業」
きれいな「ご遺体」ばかりではない/「イベント業の感覚で」/とっさに浮かんだ詩/給料袋が立つ
第三章 湯灌・納棺・復元の現場
葬儀業界の裏側を知りたい/モノトーンの「劇場」で/「神業だ」/この仕事を続ける覚悟
第四章 エンバーマーたち
血液を薬液に交換する/死をひきずらないために/ベースは黄金率/別れの時間をコントロール
第五章 火葬場で働く人々
急がれた火葬場の建設/点火の後の一時間/「きれいに焼く」/最新の火葬炉であっても
第六章 「超多死社会」に向けて
「尊厳あるシンプルなお葬式を」/立体駐車場方式/「思い」を汲み取る/究極の小さな葬儀とは
あとがき
文庫版あとがき
主要参考文献
死の「裏方」を知る 佐々涼子

判型違い(書籍)

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