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言葉が通じないほうが、わかる――初めて会う、懐かしいひと、懐かしい味。

ウズベキスタン日記―空想料理の故郷へ―

高山なおみ/著

1,512円(税込)

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発売日:2016/07/29

読み仮名 ウズベキスタンニッキクウソウリョウリノフルサトヘ
雑誌から生まれた本 考える人から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 174ページ
ISBN 978-4-10-333134-6
C-CODE 0095
ジャンル 海外旅行
定価 1,512円
電子書籍 価格 1,210円
電子書籍 配信開始日 2017/01/06

『犬が星見た』をめぐる旅は続く。東西文化の刻みこまれた古都を訪れ、バザールで杏や風通しのいい衣服を買う。記憶も飛ぶほど暑い砂漠で眠り、ひなびた村で伝統料理を教わる。「この切なさは恋心とちっとも変わりない。私が少女だったら、せいせいと、まっすぐに、恋をしただろう」――出会いに満ちた極上の旅の記録。

著者プロフィール

高山なおみ タカヤマ・ナオミ

1958年静岡県生まれ。レストランのシェフを経て料理家に。文筆家としても活躍。著書に、『帰ってから、お腹がすいてもいいようにと思ったのだ。』、『日々ごはん』、『フランス日記』、『高山ふとんシネマ』、『押し入れの虫干し』、『明日もいち日、ぶじ日記』、『気ぬけごはん』、『高山なおみのはなべろ読書記』、『きえもの日記』など。近刊に『帰ってきた日々ごはん(2)』、『ロシア日記―シベリア鉄道に乗って―』と同時発売の『ウズベキスタン日記―空想料理の故郷へ―』がある。『野菜だより』、『料理=高山なおみ』、『実用の料理ごはん』ほか料理本も多数。絵本にも取り組んでおり、『どもるどだっく』、近刊『たべたあい』(いずれも絵・中野真典)を準備中。夫・スイセイ(発明家・工作家)との初めての共著『ココアどこ わたしはゴマだれ』が2016年秋に刊行予定。

ふくう食堂 (外部リンク)

目次

1 タシケントへ
2 ヒヴァ
3 ブハラ
4 砂漠へ
5 サマルカンドへ
6 ダルバン村へ
7 サマルカンド、タシケントへ
あとがき

インタビュー/対談/エッセイ

[高山なおみ『ロシア日記―シベリア鉄道に乗って―』『ウズベキスタン日記―空想料理の故郷へ―』刊行記念対談]
「犬の目線」で旅をする
高山なおみ(料理家・文筆家)×堀部篤史(誠光社店主)

高山なおみ堀部篤史

高山 初めまして。高山です。
堀部 堀部です。初めましてですが、高山さんはいい本をつくっていらっしゃるので、たくさん売らせていただいてます。それにうちの奥さんは『野菜だより』『おかずとご飯の本』『今日のおかず』と揃えてますので、高山さんのレシピを毎日のように食べているはずです、私は。
高山 うれしいです。そのアノニマ・スタジオの編集の方から、京都に高山さんの本を揃えてくれてる素敵な本屋さんがあるよ、ともう十五年以上前に聞きました。その時から、ずっと気になっていて。恵文社一乗寺店から独立し誠光社を開店されてどのくらいですか。
堀部 昨年十一月なので、八か月足らずです。『ロシア日記』『ウズベキスタン日記』の刊行記念対談にお声掛けいただいたのは光栄ですけど、意外でした。
高山 出版社からはロシア文学の方とか薦められたんですが、この機会に本の好きな本屋さんとお話ししたいと思って。武田百合子さんお好きでしょう?
堀部 はい。どちらかというと日本文学よりは、アメリカ文学やサブカルチャーの分野を好んで読むんですが。『富士日記』は昔読んで面白かった。当時は即物的な固有名詞に引っかかってました。
高山 ああ、そうなんですね。
堀部 でも今、読み返すと武田百合子さんらしさが気になる。たとえば「文化映画だからタメになる映画」みたいな言い方をされていて、ああこの人は「タメになる」ことが好きじゃないな、とか。『犬が星見た』のタイトルにしても、ふつう星を見たら「美しい」とか口にしないといけない気がするけど、ただポカンと見ている。そういう意味付けをしないところに、高山さんは惹かれてるんじゃないかなと。
高山 まさにそう。見たまんまでね。団体旅行だから観光地に連れて行かれるんですけど、名所なんかじゃない、別な所を百合子さんは見ている。まっさらなちゃんとした目で見てるんですね。そんなところに共感を覚えましたね。
堀部 高山さんの今度の本の文章を読ませていただいて、面白かったのは、百合子さんの目線でものを見ることをされているんですよね。
高山 そうなんでしょうね。あまりに好きすぎて。
堀部 自分を薄めて、どんどん百合子さんに近づいていく。いわば写経のように。
高山 「写経」ってどういう意味があるのか分からないけれど、たぶん憑依してるんだと思うんです。百合子さんの目を借りてものを見ていた。『犬が星見た』も『富士日記』も、何度も何度も読み返して、好きなフレーズなんて、まるごと暗記するくらい。本を読みながら、その風景を見ているんです。旅に出たときも、「これ」を実際に見たい、聞いて、匂いを嗅いで、味わいたい(とノートを見せる)。ただそれだけ。

堀部 『犬が星見た』の文章をコピーにとって貼って、持っていかれたんですか。
高山 ええ。百合子さんに重なりたい、みたいな感じなんですよ。実際は、生身の私なので、会う人会う人に反応していくわけですけどね。それでも自分らしいところと、百合子さんの好きなところは、似てる気がしたんです。そう思えるのは、作家とかそういうことでなく、人全般の中で、百合子さんくらいしかいないって――知らないだけかもしれないけど。
堀部 好きな人、尊敬してやまない人の目線でものを見る、ということで思い出したのは、森田真生さんと岡潔との関係です。岡潔という人は孤高の数学者で、しかも「数学は情緒である」という独特の思想があった。森田さんは岡潔に出会って、自身も独立研究者となります。岡潔の文章を読み込んで血肉化し、重ねあわせたあとで、はじめて自分の目線や感じ方といったものも出てくるんでしょう。高山さんが旅をして感じたように。
高山 ええ、そうかもしれない。
堀部 そういう理解の仕方はとてもいいなと私は思うんですが。でも今はまだるっこしいと敬遠されるんです。自意識がすごく強いし、ものを調べるときに、検索して自分が知りたいものしか見なくて済むわけだから。世の中ますますそうなりますよね。
高山 わあ、すごいお話になってきた(笑)。たぶんね、透明になりたいんだと思うんですよ。好きすぎて。自分をなくして、出来事や人のなかに入り込んで、見えたまま感じたままをただ写し取っていった本かもしれないです。この二冊は。
堀部 とはいえ、坦々と記録するだけではない。
高山 心は動くしドキドキするし、泣くわけじゃないですか。ブハラのリヤビ・ハウズという青みどろの池の縁の柳の葉ごしの夕陽を、百合子さんもこれを見たんじゃないかと思いながらじーんとして見ていました。どう説明もできないんだけど。
堀部 『犬が星見た』がそうで、意味付けや記号をまとうような旅とは正反対の旅の仕方でしょう。生理現象とか便所のこととか、詳しく書くじゃないですか。彼女は写真もそんなに撮らないし。
高山 目の奥でシャッターを切る、みたいな表現がありますよね。
堀部 フレームに切り取るとどうしても情報が絞られて、意味付けされてしまうから。高山さんも意識されてか無意識にか、ロシア旅行を決めたときも、同行された川原真由美さんはイラストレーターで写真家じゃなかったんですよね。
高山 川原さんは一番仲のいい友人なので一緒に行こうと思って。写真家……ぜんぜん思いつかなかった。資料用に少しは撮りましたけど、私の写真はめちゃくちゃなんです。見たいものに近寄りすぎたり撮るのを忘れたり。旅ってそういうものだから。川原さんの絵も、その場で空気まで描きこんだスケッチと、帰ってから写真を見て描いたイラストではぜんぜん違いました。
堀部 だからこの本に入っているのは、スケッチだけなんですね。
高山 はい。文章もそう。ウズベキスタンの旅のノートを久しぶりに読みましたが、旅していたこのときにメモしていたものが、すでにフレーズとなって出てきてるからびっくりしたんです。
堀部 お戻りになってから、原稿は書かれたわけですよね。
高山 「考える人」が季刊誌なので、三か月に一回のゆっくりしたペースで連載していました。もちろんノートのメモを見ながら書くんですけど。結局、最初にそこへ書いたフレーズが、みずみずしくて勢いがあって、文法的な約束事からも自由で、こっちが本当じゃないかって。雑誌のときにはできなかったけど、本にまとめるとき、大事なシーンはそのノートのままをいかしました。
堀部 スケッチだから、断片でいいんですよ。誰かが言った言葉、見たこと、急に尿意をもよおしたり。でも生活ってそういうことですもんね。紋切り型の表現やものの見方から自由であること、だから百合子さんの本は名随筆たりえているし、特異な文章家として誰にも書けない作品を残せたんじゃないでしょうか。
高山 あー、すごい読み方されますね。やっぱり。
堀部 高山さんはそこに惹かれるというか、共鳴することを体験しに行ったわけですね。貴重な旅の仕方だと思います。
 たとえば今だと、高山さんのお仕事にされてる料理ですら、意味付けってありますよね。
高山 ありますね。
堀部 ものを食べることすら、記号化できる。かわいい花柄の布の上に載せて撮影して、ブログに載せて人に見てもらうことによって、自分がどういう属性なのかタグ付け、意味付けできる。
高山 タグ付けかあ。なるほど。どうしてそうなるんでしょう。安心できるのかな。
堀部 根っこがないから、消費することで承認を得たいんじゃないかな。かつては、あそこの息子で、あの家はこんな商売をして、というつながりが厳然としてあって、アイデンティティは揺らがなかった。いまは根は失われて、性急に自己を主張しようと何かを選ぶ。タグ付けするだけで楽にそうできてしまう。
高山 ラクに。でも、つらいでしょうね、きっと。孤独でしょうね。
堀部 だから、高山さんの書かれたような犬の目線って、
高山 いいですね、犬の目線(笑)。
堀部 (笑)読む人を自分も気づかなかった孤独から解放するんだと思います。京都にはそういう世の中に属さないで外から見る目線、虫の目、鳥の目みたいな目線が昔から存在してるんです。『徒然草』もそうですし。だから、高山さんのこの旅日記は、とても深い理解で読まれるんじゃないかと思います。
高山 うれしい。
堀部 私が前にいた店でも、この誠光社もそうですが、いわゆる「実用書」は扱わないようにしたいと思っています。かつて料理本は実用書しかなかった。そこに、高山さんの『日々ごはん』のシリーズにしても料理本にしても、実利的ではなく生活の豊かさを言葉や写真や造本で伝えようとする本が現れて、読者を惹きつけました。同じころに「クウネル」などのお洒落でシックな生活雑誌が出て、刺戟的だったけれど、それもあっという間に記号化されていきましたね。
高山 そっか。そういうことなんだ。
堀部 高山さんは、最初はそこにしっくりしておられたように見えた。
高山 「クウネル」に声をかけていただいたことで、広まっていくことができました。でもきっと、私は「日常」や「暮らし」というものから根本的にはみ出しているんです。
堀部 そう。料理本、生活エッセイの範疇に収まらず、武田百合子さんの目線に共鳴されて、旅をされたんだと思います。百合子さんの特徴は、感情の動きも紋切り型ではないところ。夫の武田泰淳に「百合子。面白いか? 嬉しいか?」と聞かれて「面白くも嬉しくもまだない」と答えたり。高山さんも、『ロシア日記』のなかで、突然、わけわからないのに泣いたりしてますね。
高山 いまでも自分のゲラ読みながら、泣いたりするんですよ(笑)。それってどうなんでしょう。もういちど読みながら、旅の現場に立っているんです。
堀部 高山さんの旅日記が『犬が星見た』よりすごいところを一つ。料理のことを書いた文章が、最高においしそうで、読んでいてとてもお腹が空きました。
高山 それもうれしいな。
(京都俵屋町「アイタルガボン」にて)


(たかやま・なおみ 料理家・文筆家)
(ほりべ・あつし 誠光社店主)
波 2016年8月号より

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