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受賞作品
「蝶番」 中島桃果子


受賞のことば

わたしのマトリョーシカ 麻布三ノ橋、劇場から引き上げた搬出物のダンボールやら何やらに囲まれて、今受賞の言葉を書いている。正直何を書いていいのやらわからない。ただ、わたしと神様のびっくり合戦は、常に神様が一枚上手で、わたしはいつも驚かされてばかりだということだけは言える。
わたしにとって演劇が、どこか少し、いつだってわたしを置いていったり、たまに残酷な仕打ちをして泣かせてみては、きまぐれに愛想を振りまく、身勝手な恋人であったとするなら、わたしにとって小説、つまり書くことは、空気のようにそこに居て、ゆえにその存在に気が付かず、気ままにそれをもてあそび、向き合うことを望まず、それなのに、ずっとわたしを支えてくれた、そんな男だ。そしてそこに心から向き合ったとき、わたしの新しい人生がこうやって幕を開ける。
「蝶番」の最後30ページくらいは泣きながら書いた。正直何に対しての涙かはわからなかった。ただ泣きながら書いた。妹が仕事に行ったあとの、がらんとした2DKのDの部分で、昨日店で飲んだシャンパンで鈍く痛む頭をコーヒーでなぐさめ、泣きながら書いた。なんだかとても独りぼっちだった。けれど、その独りぼっちの中で、小説というものがわたしの傍にいた。幼稚園から帰ってきて、かばんも置かず、チョコレート一枚片手に持って「ぼくは王さま」「ちいさいモモちゃん」の世界に潜っていた、あの頃と同じ。これという用事もなく図書室へ行っては古い本の匂いに安心して昼寝したあの頃と同じ。



選評

江國香織

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