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再会
重松清

子供の頃、勇気はみんなから称えられ、努力は必ず報われた。だけど、大人になった今は? 初恋の少女、好きだったマンガの登場人物、いつも笑わせてくれた酔っ払いのおじさん……なつかしい人との再会は、あの頃の自分と出会うこと。こんなはずじゃなかった日々を必死で生きる人たちだけが手にする、ささやかな希望を描く感動作。

ISBN:978-4-10-407510-2 発売日:2009/10/22

立ち読み 書評 雑誌から生まれた本

1,620円(定価) 購入

波 2009年11月号より

【グラビアアイドルのヨムヨム生活・特別篇】
きっと再会できるさ、と重松さんはささやく

佐藤寛子


 文芸誌「yom yom」が出るたびに毎号愉しみに読んできた重松さんの短篇が、「再会」というタイトルで一冊になった。六つの短篇が収められているけれど、「再会」って題の短篇はないのだから、〈再会〉という言葉に重松さんの思いがある。
 読み返してみると、雑誌に載ったものにずいぶん手が入れられていることに気づいた。だから初めて読む読者と同じで、サスペンス小説でもないのに登場人物の行く末にハラハラしたり(この感情移入のさせ方がいつも凄い!)、見事なラストに涙したりしながら(読者の期待通りに終わるのだけれど決してご都合主義に見えないのは、人物のキャラクターがぶ厚くてリアルだから)、最後のページまで一気に読んでいく。本に込められた思いが静かに、低く、重く、胸に染みこんでくる。
 たとえば、〈好き〉とはいったい、何なのだろう?
 たとえば、今に始まったことではなくて、昔からずっと社会にある、そして子どもの世界にだってある、あの〈格差〉という厄介なものと、どう付き合っていけばいいのだろう?
 この六つの短篇小説では、子どもたちがそんな問題とぶつかって、心と頭と体をぐるぐるさせながら、引っ越したり進学したり、曖昧に時が流れたりして、結論は出ないままに抜け出す。そして三十代、四十代の大人になってから、当時の自分たちと〈再会〉するのだ。懐かしい友だち(とも呼べない微妙な人たち)と再会し、懐かしい自分と再会し、新しい自分と出会う。
 ほんとうは、子ども時代の話だけで小説になるはずだ、とおもう。いじめにあった少年にひどい味のカツカレーをご馳走する酔っ払いのダメな叔父さん(「ホラ吹きおじさん」)や、養護学級の六年生が「前の家まで帰りたい」という転校生を駅まで連れて行く小さな冒険(「永遠」)や、豊かだった家が零落することで女王様の座を追われる少女(「いいものあげる」)や、学年のオールスターが集まったクラスで自分の凡庸さに気づかされる男子(「チャーリー」)や、勉強もスポーツもできず手先も不器用で可愛くもない上にきわめて運の悪い女の子(「人生はブラの上で」)といった題材だけでも、重松さんなら、彼らのささやかな喜びや悲しみや勇気を掬いあげて、感動的な短篇が書けるはずだ。けれど「再会」は、そこではとどまらない。手を替え品を替え、あらゆる手練手管を使い、作家的秘術を尽くして、〈歳月〉という人生で最も避けがたい難物を捕らえている。そしてその歳月が登場人物を一歩、歩幅はそれぞれだけれども、少なくとも前へと押し出してくれる。
 巻頭の「いいものあげる」だけは、子ども時代の話でひとまず終わり、ラストに置かれた「ロング・ロング・アゴー」で二十年後が描かれる。少年時代はサッカーの日本代表チームの中心にいることが夢だった三十二歳の男は、就職氷河期に大学を卒業し、職を転々とした挙句に地元へ戻り、両親や親戚のコネで工務店に何とか拾ってもらう。「なんだかなあ、と苦笑交じりのため息をつくしかない人生になってしまった」「なにもいいことないじゃないか(略)。笑うしかなかった。それが嫌なら、泣くか、怒るか。どっちもちょっとなあ、と結局また笑」う。
 そんな彼に工事現場の班長がふと洩らす。
「やり甲斐とか生き甲斐なんて、あとになってから初めてわかるっていうか、あとにならなきゃわからないんだよな」「最初からやり甲斐なんてわかるわけないし、仕事をやってるときには理屈もへったくれもなくて、やらなきゃいけないことは、キツくてもとにかくやるしかないわけだし」
 班長は「僕のまなざし」に照れ笑いを浮かべる。そして私はこれまで読んできた五篇の子どもたちを思い出す。彼らも、何のために今生きているかなんて考えもせず、出会うべき人と出会い、キツくてもやらなきゃいけないことをやっていただけだろう。私もそうだった、とおもう。悲しいかな(いや、悲しくもないのかな)、その価値や意味は渦中にいる間はわからない。けれど歳月が過ぎて、〈再会〉した時に初めて、人生の宝石のように、彼らの、私たちの、掌にしっかり握られるのだ。

(さとう・ひろこ 女優)

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