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新潮新書
日本辺境論
内田樹
日本人とは辺境人である――「日本人とは何ものか」という大きな問いに、著者は正面から答える。常にどこかに「世界の中心」を必要とする辺境の民、それが日本人なのだ、と。日露戦争から太平洋戦争までは、辺境人が自らの特性を忘れた特異な時期だった。丸山眞男、澤庵、武士道から水戸黄門、養老孟司、マンガまで、多様なテーマを自在に扱いつつ日本を論じる。読み出したら止らない、日本論の金字塔、ここに誕生。
ISBN:
978-4-10-610336-0
発売日:
2009/11/14
777
円(定価)
波 2009年12月号より
【インタビュー】手作りの家のような思考
養老孟司
――「日本人とは何ものか」という大きなテーマに取り組んだ『日本辺境論』の感想をお聞きしたいのですが……。
「いやあ面白かった。以上終わり」
――それだけじゃ困るから、もう少し説明してください。
「この本の中には特別なアイディアがあるわけではありません。日本論や日本人論は過去にいくらでもあるわけですし、内田さんご自身が、『本書のコンテンツにはあまり(というかほとんど)新味がありません』と書かれている通りです」
――新味がないって、つまらないのでは?
「それがこういう形でまとめられると、びっくりするくらい面白い。この本にあるように、多くの日本人にとって“良い思想”“立派な考え”は常に、外から来るものです。しかし内田さんは自分で考えている。だから面白いんです」
――自分で考えるというのは当たり前じゃないですか。
「自分で骨組みまで考える人は非常に少ないのです。骨組みはどこか他所にお願いして、その内側で細かいことをやる人がほとんどです。これは文系も理系も同じ。むしろ理系のほうが文系より酷いかもしれません。科学という枠組みががっちりと出来上がってしまっていて、宗教のようになっている。
このことについて、私はよく意識を例に挙げます。“意識”というものは実は科学では定義されていません。しかし私たちは意識でものを考えている。科学では定義されていないものが自然科学をやっているというのはどういうことか。
医師の九割は自分のことを自然科学者だと思っています。ところが、外科手術で使う麻酔が効いて意識を失わせることができるのはなぜか、それには誰も科学的に答えられない。経験則で効くことがわかっているだけです。
じゃあ意識って何だという大きなことを考えてもいいはずなのに、そういう大きな枠組みを考える人が少ない。
内田さんは日本、日本人について大きな枠組みを作って考えている。しかもこんなに真面目なテーマを扱いながら笑えるところがあるのは珍しいでしょう。水戸黄門がなぜ国民的な番組なのか、なぜ誰もがあの印籠を偽物だと疑わないのか、そのあたりの考察なんぞは実に笑えます。
大きな枠組みを提示されると、そこからまた刺激を受けて読者も自分で考えることができる。そういう仕事を生産的というのです」
――特に刺激的だった箇所はどこでしょうか。
「『天下無敵』という言葉を普通は、どんな敵にも勝つ、という意味に受け止めてしまうけれども、内田さんは、敵を作らないという状態こそが天下無敵なのだ、という。無敵皇軍という言葉を叩きこまれた世代にとっては、本当に新鮮な指摘でしたね。
内田さんには明らかに自分自身の『考える方法』がある。そんなの誰でも持っているじゃないか、と思うかもしれないけれども、そんなことはないんです。しつこく考える癖を持っていないと、方法は身に付かない。
『日本は辺境である』と聞けば、そんなのわかっているよ、という人もいるでしょうけど、そういう人は一段階でしか考えていない。秋葉原で通り魔事件が起きたらナイフを規制しよう、というのと同じレベルです。これでは事件再発を防ぐために秋葉原を立ち入り禁止にせよ、というのと大差ない。
内田さんは『日本は辺境である』という仮説を基点に、漫画も丸山眞男も水戸黄門もオバマも何でも扱っている。それは自分の頭で考える方法を持っているからです。自分の頭で考えるというのは、いわば手作りの家を建てているようなものです。ところが今は手作りじゃなくてプレハブみたいな論文が多すぎる。だから貴重なのです。
とにかくこの本についていえば、みんな何でもいいから読め。うるせえ、読め。これが結論です」
(ようろう・たけし 解剖学者)
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