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チャイナ・メン

マキシーン・ホン・キングストン/著 、藤本和子/訳

924円(税込)

発売日:2016/06/28

  • 文庫

アメリカへと渡った中国人の苦難を、イマジナティヴに描き尽した全米図書賞受賞作品。

かつてアメリカを目指して海を渡った中国人たちがいた。鉄道建設や鉱山労働に従事し、アメリカの繁栄の礎を築いた が、深い沈黙の向こう側へと泡のように消えていった――。その末裔として生まれた女性作家が、声なき声に顔と名前を与え、神話的に紡いだ一族の物語。伝説 の翻訳家の訳も冴えわたる全米図書賞受賞作品。『アメリカの中国人』復刊・改題。《村上柴田翻訳堂》シリーズ。

目次
発見について
父たちについて
中国からやってきた父のこと
死霊の愛
檀香山の曾祖父
死について
ふたたび死について
シエラネヴァダ山脈の祖父
関係法
アラスカ・チャイナ・メン
アメリカ人がふえてゆく
グリーン・スワンプの沼男
羅賓遜(ローブンソン)の冒険
アメリカの父
離騒――悲歌
ヴェトナムの弟
百歳の男
聴く
沈黙に声をひろう――訳者あとがき
解説セッション 村上春樹×柴田元幸

書誌情報

読み仮名 チャイナメン
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
頁数 560ページ
ISBN 978-4-10-220056-8
C-CODE C0197
整理番号 む-6-6
ジャンル ノンフィクション
定価 924円

書評

チャイナ・メン史ひとこま

津野海太郎

 柴田元幸氏を先頭に、この国に新しい翻訳の時代をもたらした方々がこぞって、その第一走者として藤本和子の名をあげている。彼女の最初の編集者だった人間としては、うれしいのだけれども、いささか情けない気がしないでもない。
「最初の」というのは、一九七五年に晶文社からでたリチャード・ブローティガンアメリカの鱒釣り』の、という意味だが、その後、何冊かの訳書をへて、一九八三年に、やはり晶文社からこの作品を『アメリカの中国人』というタイトルでだしたころも、そこまでのことは考えていなかった。
 いや、いまはちがうのですよ。三十数年ぶりに藤本訳の『チャイナ・メン』を読み、うへえ、こんなに途方もなくすばらしい作品だったのか、とあっけにとられた。情けない。なぜ、もっと早く気づいて、『アメリカの鱒釣り』並みに、ばんばん売る努力をしなかったのだろう。
 下層労働者層の中国人移民(チャイナ・メン)たちやその幽霊たちの、おびただしい語り。それが織りなす爆発的な家族史・集団史――。
 その混沌たる中国人の時空を作者が英語で苦心して書きあげた大作を質の高い日本語に移してゆく。作者とその両親をもまきこんだ集中的な作業のさまがあとがきにしるされている。大げさにいえば、作中で語られる北米大陸横断鉄道の建設に動員されたチャイナ・メンさながらの過酷な労働の日々。いかに若かったとはいえ、和子さん、こんな厄介なしごとをよくやりとおしたものだね。
 若いといえば、もともと藤本和子は私の大学時代の劇団仲間だった。卒業後、渡米した彼女はエール大学の演劇大学院でまなび、同校で知り合ったデイヴィッド・グッドマン(のちイリノイ大学教授)と結婚。来日して、ふたりで創刊した英文演劇誌『コンサーンド・シアター・ジャパン』の編集にたずさわる。
 そのグッドマン氏に「いまアメリカの若い連中はどんな本を読んでるの?」ときいてみたことがある。そのときかれがあげたのが、カート・ヴォネガットの『スローターハウス5』、イヴァン・イリッチの『脱学校の社会』、そして『アメリカの鱒釣り』の三冊だったのだ。
 たしか一九七三年だったと思うが、ヴォネガットとイリッチの本はすでに他社が翻訳権をとり、さいわい一点だけ残っていたブローティガンを晶文社でだすことになった。そのとき和子さんは翻訳者として小笠原豊樹氏の名をあげ、「新しい人のほうがいい、きみやれよ」と私がいいはって、けっきょく、そういうことになった。
 かくして私は「彼女の最初の編集者」になったのだが、いまやその和子さんが「新しい翻訳の時代の第一走者」とみなされている。その間にブローティガンもヴォネガットもイリッチも世を去り、私よりずっと若いグッドマンまでがいなくなった。チャイナ・メン史のひとこまのごとし。


(つの・かいたろう 編集者、作家)
波 2016年9月号より

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著者プロフィール

(1940-)アメリカ・カリフォルニア州生れ。中国系移民の家庭に生まれる。1962年にカリフォルニア大学バークレー校を卒業後、ヴェトナム戦争を忌避してハワイに移り住む。日本で翻訳された作品に『チャイナタウンの女武者』『チャイナ・メン』(全米図書賞受賞)がある。2016年6月現在は母校で教鞭を執る。

藤本和子

フジモト・カズコ

1939年東京生まれ。翻訳家・作家。1975年、初めての訳書、ブローティガン『アメリカの鱒釣り』を刊行。作品の魅力をまっすぐに伝えるその斬新な訳文は、のちの翻訳にも大きな影響を与える。訳書に、ブローティガン『芝生の復讐』『西瓜糖の日々』『ビッグ・サーの南軍将軍』『ホークライン家の怪物』『東京モンタナ急行』ほか、トニ・モリスン『タール・ベイビー』、レイチェル・ナオミ・リーメン『失われた物語を求めて』など多数。著書に『リチャード・ブローティガン』『ブルースだってただの唄』『イリノイ遠景近景』ほか。編訳書に、シドニー・W・ミンツ『〔聞書〕アフリカン・アメリカン文化の誕生』がある。イリノイ州在住。

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