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家族の暮らしを一変させた、ある夏の事故。
愛情と祈りに満ちた感動の家族小説。

ファミリー・ライフ

アキール・シャルマ/著 、小野正嗣/訳

1,944円(税込)

本の仕様

発売日:2018/01/31

読み仮名 ファミリーライフ
シリーズ名 新潮クレスト・ブックス
装幀 Satsuki Ioku/イラストレーション、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 214ページ
ISBN 978-4-10-590143-1
C-CODE 0397
ジャンル 文学賞受賞作家
定価 1,944円
電子書籍 価格 1,944円
電子書籍 配信開始日 2018/02/09

インドからアメリカに渡り、ささやかな幸福を築いてきた移民一家の日常が、夏休みのプールの事故で暗転する。意識が戻らない兄、介護の毎日に疲弊する両親、そして悲しみの中で成長していく弟――。痛切な愛情と祈りにあふれる自伝的長篇を、繊細であたたかな小野正嗣訳で。フォリオ賞・国際IMPACダブリン文学賞受賞作。

著者プロフィール

アキール・シャルマ Sharma,Akhil

1971年、インド・デリー生まれ。8歳で家族とともにニューヨークに移住、ニュージャージーで育つ。プリンストン大学でトニ・モリスン、ポール・オース ター、ジョイス・キャロル・オーツらのもと創作を学ぶ。2000年発表のデビュー長編An Obedient FatherでPEN/へミングウェイ賞受賞後、ハーヴァード大学ロースクールで学び、投資銀行に数年間勤務。その後創作活動に専念し、第二長編である本作でフォリオ賞(2015)および国際IMPACダブリン文学賞(2016)を受賞。ニューヨーク在住、ラトガーズ大学で教鞭を取る。

小野正嗣 オノ・マサツグ

1970年、大分県生まれ。小説家、仏語文学研究者。「水に埋もれる墓」で朝日新人文学賞、『にぎやかな湾に背負われた船』で三島由紀夫賞、『九年前の祈り』で芥川龍之介賞受賞。訳書にV・S・ナイポール『ミゲル・ストリート』(小沢自然との共訳)、ポール・ニザン「アデン、アラビア」ほか。

書評

本当に祈るということ

小川洋子

 歩道にあるパーキングメーターのそばを通り過ぎるたび、コインを入れるための金属のポールに触れる少年がいる。さりげない一瞬の仕草に気を留める人は、たぶんいないだろう。ましてやそれが少年にとっての祈りであり、神との対話であるということになど、誰も気づいてはいない。
 少年は家族とともにインドのデリーからアメリカへ移住してきた。栓をひねればお湯が出る、ボタン一つでエレベーターが動く、郵便受けにカラーのチラシが入る等々、生活のあらゆる局面で出会う豊かさに圧倒され、テレビと図書館の偉大さに感動しつつ、徐々に新しい地に馴染みはじめた頃、事故が起こる。最難関の高校に合格したばかりの兄ビルジュが、プールの底で頭を打ち、寝たきりの状態に陥ったのだ。呼吸のできなかった3分間が、“人々の内にある真実を見通す”ほどに優れていた兄の脳を、取り返しがつかない状態にまで破壊してしまった。以降、両親と弟は、事故の意味を問い続ける人生を歩むことになる。
 突然に降りかかってきた現実と格闘する弟の“僕”は、さまざまな感情に翻弄される。事故の当日、母に冷淡な子だと誤解されないよう、「僕はもう泣いたからね」と言う。面倒を起こした兄に腹を立てる。間違った人生を与えられたような疎外感を覚える。友だちにより正しく現実を知ってもらうため、嘘をついて理想の兄をでっちあげる。激しく泣きじゃくってどうしようもできなくなった時は、自分自身から抜け出す。そして自分の不幸が、“僕”の中に戻れるよう、そばで待っているのを感じ取る。
 特に印象に残るのは、彼が自ら編み出した神様(のようなもの)と対話する場面だ。神様は形式にこだわらない、大らかで話しやすい雰囲気を持ち、容貌はクラーク・ケントに似ている。それは図らずも、両親にも友だちにも言えない心の内を、初めて言葉にする機会となる。そこで彼は、おそらく本人も意識しないままに、本質的な真理を口にする。
「ビルジュの事故が無駄になるのはいやなんです」
 するとこんな答えが返ってくる。
「あの子は忘れられはしない」
 信仰の枠を超え、兄を思い、苦悩することがそのまま、彼にとっては祈りになった。“命を得るためにコインが投じられるのを待って”いるパーキングメーターのポールに触れるのも、兄に命を授けてほしいと願う祈りだった。
 やがて中学生になり、ヘミングウェイの伝記を読んだ経験から、“僕”と言葉の関わりはより深い意味を持つようになる。作家になりたいと思うのは、兄たちから離れた遠い場所へ自らを運ぶようなもので、それは不誠実ではないかと感じながらも、書くことが自分を変え、守ってくれる事実は誤魔化しようがなかった。
 しかも彼が書こうとしたのは、漠然とした自らの内面ではなく、具体的な輪郭を持つ一場面であった。例えば、朝、兄を入浴させる父のパジャマが、ひどく濡れ、下着が見えるまで透明になってゆく様、といったような。
 作家になる前から彼は既に、言葉にできない本当に大事な心の内は、外側のささいな一瞬に現れ出るということを知っていたのだ。
 小説の後半、父のアルコール依存症がどんどん深刻化する。母の偏狭さも度を増し、両親はすさまじい夫婦喧嘩を繰り返す。しかしこの家族は、決定的にすべてを破壊してしまうところまでは落ちてゆかない。最後の最後で踏みとどまる。その究極の歯止めになっているのが、彼らが皆、ビルジュを愛している事実である。単純だけれども崇高で、最も難しい愛が、彼らを救っている。家族は各々、自分にしかできないやり方で、ビルジュのために祈り続ける。
 大学に進学するため“僕”は家を出る。ダイニングルームの介護ベッドに横たわっている兄と別れ、自分の人生を歩みはじめる。投資銀行に就職し、猛烈に働いて高給を稼ぎ、弁護士の女性とリゾート地でバカンスを過ごす。しかし世間的な幸福は彼に喜びをもたらさなかった。小説は、袋小路に迷い込んだかのような一行で終わる。しかしそこには微かな未来が予言されている。彼には書く道がある。文学の放つ光が、彼を照らしている。

(おがわ・ようこ 作家)
波 2018年2月号より
単行本刊行時掲載

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短評

▼Ogawa Yoko 小川洋子
兄はなぜ寝たきりになったのか。たった三分の空白が、なぜ自分たち家族からすべてを奪ってしまったのか。少年は自問し続ける。父は酒に溺れ、母は偏狭な怒りに取りつかれる。しかし家族は決して破滅へとは向かわない。苦悶することそのものを祈りとしたからだ。兄を、息子を愛する心だけは失わず、それを頼りに、家族はそれぞれが自分にしかできないやり方で祈り続けた。ラストの一行には、間違いなく未来からの光が射している。文学と出会い、言葉に救いを見出した少年が自らに向けて放った光だ。

▼The New York Times ニューヨーク・タイムズ紙
心が釘付けになる。シャルマは心優しく、しかし断固としている。

▼Kiran Desai キラン・デサイ
シャルマは、悲劇の登場人物たちの弱さと怠慢を、無慈悲と憤怒、揺れ動く感情、矛盾、気まぐれと強情を、類いまれな巧みさで列挙していく。それなのに、感傷的というには程遠いこの作家は、読む者の胸を揺さぶるのだ。決定的に、驚くほどに。

▼Edmund White エドマンド・ホワイト
アメリカ文化の中で、優れたアウトサイダーが大人になるということをめぐる、簡潔にして圧倒的な物語。ほぼ完璧な小説だ。

▼Salon サロン誌
時が経つのを忘れて読み耽った……そして驚くべきことに、私は読後、自分が更新されていることに気づいた。希望の感覚を吹き込まれたのだ。

アキール・シャルマさん✕小野正嗣さん 4年ぶりの再会トーク動画(ロングバージョン)

 2018年3月、『ファミリー・ライフ』の刊行を記念して、著者のアキール・シャルマさんが来日されました。この本を翻訳したのは作家の小野正嗣さん。そもそものきっかけは、2014年6月に、イギリス・ノリッチで開催された文芸シンポジウムに参加した小野さんが、参加者のひとりのアキールさんから、セッション後の休憩時間に「うしろから声をかけられた」ことに始まります。たじろぐ小野さんに「もしよかったら、一緒に散歩でもしながら話でもしないか」と言われて話し始めると、ふたりは驚くほど共通点が多いことがわかりました。年齢は一歳差、互いに文学には縁遠い家庭環境で育ち、アキールさんは事故で、小野さんは脳腫瘍で兄を喪いつつありました。

 この出会いをきっかけに、小野さんは当時刊行されたばかりの『Family Life』を読み、介護する家族の物語に深く感動し、日本語訳をすることを決意します。ただしアキールさんには内緒で。

 4年の時を経て、著者と翻訳者という立場となって再会したふたりは、この作品をどのように語るのでしょうか? そして最初の出会いの秘められた意外な真相とは? 文学作品で固く結ばれたふたりの、息の合ったトークをお楽しみ下さい!

アキール・シャルマさん✕小野正嗣さん 4年ぶりの再会トーク動画(ショートバージョン)

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