新潮社

村上龍『MISSING 失われているもの』

{ 著者からのメッセージ }

短い「あとがき」ただし、連載

更新:2020年3月6日

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 この小説は、わたしが主宰するメールマガジンである「JMM」に連載しました。昔、「電子メール」をはじめたとき、いつの日かこういった形で小説を読者に届けたいと思ったものです。「CC」か「BCC」すれば、あっと言う間にに多くの人に送信できます。

 レイモンド・アレナスという素晴らしいキューバ人作家がいますが、ホモセクシュアルだったために、カストロ革命政府から疎まれ、逃げ回り、出版社の住所を記した原稿の束を砂糖用の麻袋に詰め、フランス行きの貨物船に放り込み、彼の地で出版されたというエピソードがあります。そのあとアレナスは投獄され、後に亡命し、エイズで亡くなりますが、砂糖の袋に原稿を詰めたくなかっただろう、当時メールがあれば利用しただろう、そう思いました。
 なのでメールマガジンで小説を書き、ダイレクトに読者に届けるのは興奮しました。印刷所はもちろん、出版社も書店も必要ないと思ったのです。

 ただし、書きはじめた当初はBVLGARIがスポンサードしてくれていたのですが、あとは無料で、つまりボランティアで書き続けました。ノーギャラで連載小説を書くのもはじめての経験でした。でも、意外だったのは、無料で連載小説を書くと、あまり読まれないということでした。対価が発生しない行為には興味を持ちづらいということを学んだ気がします。

村上龍

(不定期更新)

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