第10回R-18文学賞 読者賞
「偶然の息子」上月文青

 
――このたびは受賞おめでとうございます。第一報はどちらで聞かれましたか?
 平日の午後三時ぐらいで、ちょうど自宅のこたつで昼寝していたときにお電話をいただきました(笑)。その1ヶ月ほど前にR-18文学賞のホームページを見てくれていた友人から連絡があって、初めて最終選考に残ったことを知りました。実は選考委員の方に読んでいただくこと、そして選評をいただくことが目標だったので、それだけで十分だねと友人とは話していたんです。でもそれから受賞のお知らせを受けるまでは、頭の中でずっと緊張感のドラムロールが鳴っていました。

――小説はいつごろから書かれていましたか。
 20代のころからですから、苦節30年になります(笑)。北日本新聞が主催している北日本文学賞という賞にずっと応募していました。その頃は井上靖さんが選考委員をされていました。ご著書の「あすなろ物語」が好きで、やはり最終に残って選評をいただきたいと思ったのが最初です。30枚という短編の賞で、まるで年中行事のひとつのように毎年応募していました。一次選考や二次選考は通るようになっていましたが、なかなか最終まで残らなくて。

――それでR-18文学賞にトライされるようになった。
 応募は今回で4度目です。これまでは1次選考には2回通っただけでした。賞のコンセプトが自分に合っているようになんとなく思ったんです。自分がゆきつきたい場所はこのあたりなのかもしれない、と。とはいえ官能小説というものが自分の中でよくわからなくて、おそるおそる応募した面もあります。今回の「偶然の息子」も官能小説というより、書きたいものを書いたという感じです。

――読者賞という結果はどう思われましたか。
 読んでくださった方から評価を得たのが素直にうれしいです。いただいたコメントにも賛否両論あるとうかがいましたが、それもまたうれしかった。読んだ方がどこかにひっかかってくださったということですからね。みんなが「いい」という小説なんて、ちょっと怪しい気がします。

――この作品を書かれたきっかけを教えていただけますか。
 これまであんまり何も考えずにただ書いては応募していたのですが、それだと選考に残らないことがわかったので(笑)、今回はちょっと考えて書こうと思いました。で、まず女性性って何だろう、と考えたんです。そうするとやはり母性と、自分が恋愛をするときの性、つまり官能だろうと思いました。

――選考会では、あまりのリアルな描写、真に迫った文章に「これは著者の実体験ではないか」という意見も出ました。
 いえ、実体験ではありません。でも頭の中でモデルにした子は確かにいます。最近見なくなってしまったんですけれども、近所でよくすれ違う小学校6年生か中学生ぐらいの男の子がいたんです。青いジャージを着て白い運動靴を履いて、ひゃっほーと言いながら飛ぶように歩くんです。その子のうしろから母親があきらめたような顔をしてついて歩く。そういう日常に目にしている風景が頭に浮かんで、じゃあこのお母さんの母性と性をからめたらどういうふうになるのかしらと思って書き出したんです。

――書き上げるまでにどれくらいかかりましたか。
 2ヶ月ぐらいかかりました。実は主人公と先生の関係について書いているとき、筆が途中で止まったんです。二人はこのあとどうなるんだろうか、と。最初は抱擁とかキスをさせてみたのですが、なにかおかしい。教え子の母親なんだからそこまでのことはしないだろうと思うんです。結局言葉もなく、指をからめるだけということにして、ようやく腑に落ちました。先生にあまり物事を語らせたくなかったんです。

――話は変わりますが、これまでのお仕事について伺ってもよろしいでしょうか。
 高校を卒業して、地元のYBC山形放送に入りました。コマーシャルの録音素材を扱ったり、進行表を書いたり、アナウンサーにキューを出したりというような仕事です。退社してからもずっとラジオに関わる仕事をしていましたが、あるとき仕事上でお付き合いのあったコピーライターさんに「ライターの仕事をしたいのですが……」と相談。運良くその方に紹介されて、ライターの仕事をするようになりました。

――お仕事が作品に影響することなどありましたか。
 やはりいろんな方にお会いする仕事なので、会った方から影響を受けることはあります。この小説にとっては、養護学校の先生に取材したことも役に立っていると思います。あ、でもなにより、いろんな方の名刺をもらったときに「この名前、小説に使えるかも」とひらめくのがありがたいです(笑)。名前を考えるのって難しいんです。向田邦子さんは母親役に「さとこ」という名をつけると決めてらしたそうですが、その気持ちがよくわかります。

――これまでの読書傾向、愛読書について教えてください。
 そうですね、まず芥川賞を受賞した作品は必ず読みます。それから村上春樹さん、絲山秋子さんの新刊はどうしても買ってしまいます。愛読書はたくさんありますが、たとえば吉村昭「星への旅」。読んで、小説ってこういうものなのか! という驚きがありました。これぞ小説、と思います。あとは有島武郎「小さき者へ」、開高健「輝ける闇」。それから五木寛之さんも好きですし……なかなか選べませんね。新刊を喜んで買うというよりは、どちらかというと自分の本棚にある本を読み返すことが多いです。

――これからはどんな作品を書いていきたいですか。
 自分でも気づかないような事柄を小説で書いていきたいです。誰しもが頭のどこかでは認識していたけれど目を向けなかった世界、事実としてあるけれど光の当たっていないところに光を当てたい。読んだ人が少し立ち止まって「そうだ、こんなことってあった」と思えるようなことです。そのためにも、これからは毎日を注意深く暮らしていこうと思っています。