第12回R-18文学賞 読者賞
「朝凪」森 美樹

 
――このたびは受賞おめでとうございます。受賞の連絡はどこで受けましたか?
受賞の連絡は、医療関係の仕事が終了し、帰宅する電車の中でいただきました。満員電車でしたので着信に気づいても出ることができず、自宅最寄駅に着いてから、こちらから電話をかけなおしました。
でも人混みにまみれていたので、うまく聞き取ることができなかったのと、仕事疲れかぼんやりしていて、「読者賞」と聞いても俄かに信じられなかったです。一度電話を切ってから、深呼吸してまたこちらからかけなおし、「読者賞をいただいていいんですか?」と何度か聞いてしまいました。

――読者賞と聞いて、まずどう思われましたか?
たくさんの人が読んでくれたんだな、とまたぼんやりと思いました。どんな人が読んでくれたのか、どんな人が共感してくれたのか、とても気になりました。執筆していた時は読者などは意識せずに、ただ自分の知らない心の中の自分を掘り下げていく感じでしたから。もっとも、読者の目にふれる最終選考に残るとも思わなかったので。
今となっては、読んでくださった方ひとりひとりにお礼を言いたい気分です。

――森さんはもともと少女小説作家としてご活躍されていましたが、今回この賞に応募されたきっかけはなんだったのでしょう? 小説はずっと書いていらっしゃったんですか?
私が少女小説家としてデビューしたのは25歳の時です。20歳を過ぎてから小説を書き始め、まだまだこれから勉強をしなければ、と思っていた矢先にデビューが決まり、戸惑いつつも「ラッキーだ」と浮かれていたような気がします。試行錯誤しつつ、好きなものを数年間書かせていただきました。
その頃も、小説の他にいくつか仕事をしていました。執筆一本で生活する覚悟もできず、中途半端な時期を過ごしていたわけです。若かったからそれでも良かったのですが、だんだんと周囲の友人知人が結婚をし出産をし、きちんとした大人になっていくのを目の当たりにして不安になっていったんですね。
きちんとした大人、というのは、まっとうな生活をしている人、とでもいいましょうか。私の両親がとても真面目で固い人だったので、そういう刷り込みみたいなものがあるんだと思います。
そうこうするうちに私も縁あって結婚し、ますます、きちんとした大人にならなければいけないのではないか、という思いに捕らわれていったのです。それと同時に、小説に対して、自分の立ち位置というのがどこにあるのか、何を書いたらいいのか、わからなくなってしまいました。
少女小説を書くにももう無理があるし、かといって大人向けの小説はハードルが高過ぎる、いったい私はどうしたらいいのだろう? と思い悩み、だったらこのまま、きちんとした大人、になればいい、そう決意したんですね。
とはいえ、やっぱり書くことは好きなわけで、忘れられないわけです。そんなジレンマが5~6年間続きました。その間、小説はまったく書いていませんでした。書けなくなってしまった、といった方が正しいかもしれません。
今回この賞に応募したきっかけは、40歳を過ぎて体力も気力も衰えていく中、好きなことや、やりたいことを隠して悶々としたまま過ぎていく時間を見つめているのが嫌になったからでしょうか。折りしも友人知人から「あなたの小説を読み返している」とか「今はもう書いてないの?」とか、そういう声がいくつか聞こえてきたんです。
中でも、子宮筋腫で入院した友人が病室に私の著作を持ち込んでくれたのがうれしかったですね。数年前に、子宮筋腫を扱った文庫本を出したんです(講談社F文庫『あたたかな迷路』)。彼女は「自分が同じ病気になって、改めてまた読み返している。泣けた」と言ってくれました。この言葉は私にとっても勇気と宝物になりました。
そんな小さなエピソードが重なって、とにかく書かなきゃ、と思ったんです。ハードルが高くても、ぎこちなくても、とにかく今の自分ができる精一杯の気持ちで、書きました。

――今回の受賞作では、閉じられた日常の中から出て行こうと密かに企む主婦が主人公です。大人の、停滞した現実に住む女性のお話ですね。少女小説から一変、なぜこのような物語を書かれたのでしょうか?
賞に応募するにあたって、ざっと公募に目を通し、今の自分に一番ぴったりなのはこの賞だと思いました。ブランクがあったので、短編から再始動したかったのです。
まず、とにかく「大人向け」のものを書かねば! と自分に喝を入れました(笑)。小説を書かなくなってから、小説を読むことからも離れていたんです。5~6年間まともに書店にも行けませんでした。
結婚してからは図書館で本を借りるだけになって、しかも料理の本とかインテリアの本とか、健康とか医療とか、節約や貯蓄の本ばかり(笑)。
なので、小説というもの、しかも大人向け、そして「R-18」! どうやって書いたらいいんだろう、と軽くパニックを起こしました。特に「R-18」という単語にこだわりました。この賞は第11回からテーマが変わり、官能から女性の感性を生かした小説、となりましたが、とはいえ「R-18」ですよ。この枕詞は大きかったです。
実は今まで、誰かをモデルにしたり、実際にあったことを膨らませて小説を書いたというのは、ほとんどありませんでした。
創作というのは、何かのきっかけがあって心が動き、それに伴い筆が動くものだと思いますが、私の場合は空想の延長線上という感じでした。きっかけというものがとても曖昧だったんです。
それがなぜか今回は、身近な出来事を意識しました。どこかで自分の殻を割りたかったのかもしれません。手探りで書き出しましたが、環境も状況も以前の私とは違っていて、不安との戦いでもありました。
でも、その分、書き上がった時の達成感はすごかったです。これからも書いていきたい、と強く思いました。

――これからどんな作品を書いていきたいですか?
いろんな世代のいろんな恋愛も書きたいのですが。
憧れはミステリーとサスペンスなんです。緻密なプロットを立ててみたい、と思うのです。
でも私は怖がりなので、できれば殺人や派手な傷害が起こらない、ミステリーとサスペンスを書いてみたいです。