女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第17回 受賞作品

王冠ロゴ 大賞受賞

清水裕貴

「手さぐりの呼吸」

清水裕貴

――受賞第一報は、どちらでお聞きになったのでしょうか。

 仕事から帰る途中に電話で聞きました。「受賞できたらラッキー」くらいにしか考えていなくて、賞にはあまりこだわっていなかったのですが、やはり素直に嬉しかったです。

――文学賞に応募されたのは、今回が初めてですか。

 武蔵野美術大学の学生だった頃、純文学系の賞に挑戦したことはありますが、ちゃんと書き上げられませんでした。それからしばらくは美術に専念していたので、今回、久しぶりに小説を書きました。

――なぜ、久しぶりに小説を書こうと思われたのですか。

 今、33歳なのですが、厄年の時にひどい目にあって、人間不信になりかけました。富岡八幡宮に厄払いに行ったのですが、ご利益がなかったみたいで……。厄払いの後も、立て続けに、大学の時の恩師、祖母、犬や猫も亡くなってしまったんです。
 それまで私は、土地の歴史や民俗学的なことなど、個人の感情をあまり入れないような創作をしてきたのですが、悲しい出来事が続いたときに、もっと人との親密さを感じられるような創作をしてみようと思ったんです。もともと小説、漫画や映画、そして物語を妄想することも好きだったので、これまでの人生で私がおろそかにしてきた「日常の中の人間関係」を小説で書いてみることにしました。「R-18文学賞」に応募したのは、出身の作家の皆さんがわりと恋愛や家族をテーマにしていらっしゃったからです。

――受賞作は主要な登場人物が3人ですが、その設定やテーマはどのように決められたのですか。

 登場人物の設定よりも、舞台となる土地がまず最初に浮かびました。大学の時に住んでいた場所をイメージしています。

――幽霊も登場しますが、清水さんは、幽霊は見えるんですか?

 見えないんですけれども、武蔵野美術大学には幽霊が好きな子が多くて、七不思議もあるほどなのです。なので、私にとって幽霊は、親しみを感じる存在です。たとえばですが、写真の授業で暗室に入ると、一度は幻覚を見る生徒が多いんですよ。自分以外に誰も暗室に入っていないはずなのに、誰かが横を通ってその誰かと、「ごめん」という会話をして、暗室から出て、「あれ、今誰か、暗室にいなかった?」って外にいる人に聞くと、誰も入っていないよと言われるとか……。

――こ、怖いですね。受賞の言葉に、「日々の幻を表現しようと思った」とありましたね。

 目の前にある風景がどんな風景でも、今ある時間だけではなく、色々な時間の層が重なっているように見える時があります。そういうことを書きたいなと考えています。

――今後、書きたい小説のイメージはありますか。

 親密な関係の人たちの出来事など、書きたい話がいくつもあります。日々、色々な話を妄想するのですが、それを書いてみたいですね。突然、友だちに私の妄想を話しても、みんな、困ってしまうでしょうが、小説にすると、読んでもらえるので。多くの人と楽しめるような作品を書いていきたいです。