第11回受賞作品
受賞の言葉
大賞受賞

受賞の言葉
小説を書き始めて、丸4年が過ぎ、5年目になりました。最初は自分だけの為に書いていました。辛いことがあって自分が保てなくなったとき、気づいたら物語を作っていたのです。3ヶ月で600枚近くを一気に書きました。そして、了の文字を打つ頃には、息苦しかった呼吸が楽になり、酸素がいっぱい吸えるようになった気がしました。生きていくのが楽になったと言えるぐらい。
そんな独りよがりな「自分癒やし」のための小説でも、面白いと言ってくれた友人がいました。読んでくれた人が何かを感じてくれる。それはとても幸せなことに思えました。そうしたら、今度は読者を意識した「ちゃんとしたもの」を書きたくなりました。それからは偏りなく多くの本を読むなど、自分なりの方法で書くための学びに努めて参りました。
この度、大賞という身に余る評価をいただけたこと、本当に嬉しく思います。なにより、選んでくださった選考委員の先生方、最終選考に残してくださった編集の方々に深く感謝いたします。たくさんの方に読んでいただける機会を得ることで、私の作った物語の中の人物たちに、初めて血が通うのではないかと思います。彼らに息吹を与えてくださって、ありがとうございます!
「金江のおばさん」を書くにあたり、在日という設定をするのに、どういう姿勢で作品と向き合うかをずいぶん悩みました。そのとき、新潮文庫の鷺沢萌さんの遺作「ビューティフル・ネーム」を何度も読み返しました。そして背中を押してもらうことができました。この本は私にとって、かけがえのない一冊です。
書きたいことは山のようにありますが、ひとつひとつを丁寧に形にできればと思います。そして、何かを感じてもらえるような作品が書けるように、精進していきたいです。今後ともどうぞよろしくお願い致します。