女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第14回受賞作品
受賞の言葉

王冠ロゴ 大賞・友近賞受賞

秋吉敦貴

「明け方の家」

秋吉敦貴(あきよし・あつき)

1979年茨城県生まれ。職を転々。老いた愛猫を長生きさせることに心血を注ぐ。

受賞の言葉

 受賞の知らせをいただき、まさかと驚愕し、感情の昂りと喜びとがやってきて、やがて時間とともにその手放しの興奮が去ったのち。体の中、お腹の真ん中辺りにじっくりと腰を据えたのは、怖さ、にとてもよく似た手触りの硬く重いものでした。投稿の経験もほとんどなく、それどころか細々書き続けていたものも誰にも読ませず、自分がその日一日呼吸を維持するために、ほんとうに自分の慰安のためにだけ書く日々を送ってきていました。
 暗く長い話を延々パソコンに打ち込んでいるのに倦んだ昨秋、大好きな三浦先生と辻村先生が審査委員をされているこちらの賞に向けて書いてみよう、それでだめならもう小説を書くことなどすっぱりやめて全く別のことをしよう、そう決めて、それまで書いていたものを捨て、今回のものを慌ててどうにか書きあげ、締め切りの日にぎりぎり投稿したのでした。
 最終候補に残してくださった新潮社の皆様、二つもの賞に選んでくださった審査委員の先生方には、どれほど感謝してもし足りません。書いたものを、読んでいただく。望外のことに、お褒めにあずかる。ありがたいことに、ご指摘も受ける。全く知らない世界がそこにありました。
 実は、きっと受賞はしなくとも、小説を書くことはやめられそうにないな、と感じているところでした。
 誰かに読んでもらうという、未知の繋がり方の、スタートラインに立たせていただいたことに、心から感謝申し上げます。
 この丸々とした腹に巣食った怖さと対峙しながら、懸命に、少しでもよいものを書き、あのとき選んでよかったとのちのち思っていただけるよう、努力を続けて参ります。
 インターネット上で読んでくださった皆様にも、感謝いたします。物語は、読もうと思わなければ、そこにないのと同じことです。拙い文に、時間を割いて付き合っていただけたのなら、その細いけれどはっきりとした縁にこそ、希望を見ます。ほんとうにありがとうございました。