第15回R−18文学賞 受賞作品

読者賞受賞
「西国(にしこく)疾走少女」一木けい

 

一木けい(いちき・けい)
1979年福岡県生まれ。東京都立大学卒。好物はチムチュムと本と芍薬。バンコク在住。
受賞者インタビュー

受賞の言葉
 修学旅行の女子風呂で、のんびり身体を洗っていたときのこと。突然、すさまじい悲鳴が響き渡った。「お、どうした」と振り返ったら、泣きながら脱衣所に駆けていく子や、前を隠して顔面蒼白になる子で、大浴場が騒然となっていた。よく見ると、天井に近いすきまに、無数のぎらぎらした目があった。壁の向こう側にある男子風呂から、大勢の生徒が覗いていたのだ。となりに座っていた美女A子と「あほだね」「恥ずかしくないのかね」などと言い合っているあいだに速攻で先生がやってきたようで、怒鳴り声とともに目はひとつ残らず消え去った。
 浴室を出て行くと、覗いた男たちが廊下にずらりと正座させられていた。わたしたちは彼らの前を、あきれ果てながら通り過ぎた。あの中に彼氏がいるといって涙を流している女子がいて「お察しします」と心底思った。
 そんなことがふいによみがえって先日、十代のころの手紙や日記を詰め込んだ鞄をあけてみた。長いあいだ封印してきたそこから出てきたのは、恥と恥と恥と恥と恥。恥しかなかった。嘘と自意識過剰、自分勝手。わたしもじゅうぶんあほだった。今書いているこの文章も、わたしの手を離れた瞬間、恥になるのだろう。
 覗き事件と同じように、今回受賞の報せをいただいたときも驚愕や動揺はなかった(たぶんまた落ちていたとしてもなかった)。わたしは「最終候補に残る」その先の感情を知らなかったので、そのときが来たら自分がどんな思いを抱くのか、ずっと興味があった。編集部の方はほっとした声で「今回このようなご連絡ができてうれしく思います」とおっしゃった。確かに、四度連続落選なんて告げる方もいやだと思う。
 湧いてきたのは、覚悟だった。この数年で徐々にかたまってきた決意が、より一層強いものになった。恥を怖れず書いていこうと思う。