第12回R-18文学賞 選評―辻村深月氏

 選考委員を務めて、二年目。私自身の緊張がほぐれてきたことに呼応してくれるかのような、読み応えのある作品が多かったです。
 受賞作となった『マンガ肉と僕』。マンガ肉を愛する者の一人として、まずタイトルで「あのマンガ肉を半端な扱いにしていたら許さないぞ!」という気持ちで読み進めたのですが、タイトルから感じたイメージを超えて、最後まで読者を引っ張っていってくれる文章とテンポの良さが鮮やかでした。
 五十枚程度の短編の中で、状況を動かし、過去から未来へ時間を飛ばす展開には「話を作ろう、動かそう」という著者の気概と力量、さらには今後の可能性を感じます。主人公のワタベくんに共感できない、という意見がありそうだなーと思う反面、こういう男は確実にいるよな、と感じさせてくれるリアリティーもあり、これはヒロイン・熊堀の彼に対する復讐の話でもあるのだと感じた瞬間、「女のための文学賞」の大賞はこれだ、と思いました。受賞、おめでとうございます。
 もう一作、迷ったのは『朝凪』です。主人公の鬱々と閉じた毎日が続く前半、日常に変化を求める彼女があまりに自意識過剰に映り、気持ちが今ひとつ乗りきれないでいたところに、ラスト、世界が変化を見せます。静かな決意が、自己を覆った殻を確実に破る瞬間が爽快で、幕切れも鮮やか。そう思って前半を読み返すと、すべてはこのラストのためにあったのか、と自らの不明を恥じる思いでした。グラスにたまった水がいよいよ溢れるというきっかけになるのが、魚の小骨だというところもいい。「あれ?」と言った夫が、さあ、何を言ってくれるのか、と主人公と一緒に息を呑んでしまったのは、気持ちが乗れないといいつつも、いつの間にか彼女に同調していた証拠なのでしょう。しかし、やはり前半の閉塞感を描くモノローグの文章がややわかりにくく、その辺りが整理されたなら、あるいは最初から気持ちが入り込めていたかもしれないと感じました。
『パーティ』も、愛おしい作品でした。お葬式や親族の集まりを経験したことがある人なら、誰でも一度は覚えのあるようなあの混沌、わずらわしさ、だけど振り払えない何か情のようなものがよく伝わり、共感する人も多いと思います。父親との思い出を回想する場面も、一気に過去に遡るのではなく、最近の場面から徐々に過去の確執へと迫る書き方は、計算してもなかなかできるものではなく、センスがよいと感じます。陣痛の際に、神社に参ってくると飛び出していくお父さんの背中が思い浮かび、けれど三年前はどうだったか、という語りはぐっときました。ただ、主人公自身にいるはずの子どもの存在感が薄かったり、夫への気持ちといったものが見えてこず、しがらみだらけのお葬式というテーマを選んだ以上、そこには筋を通してほしかったという気持ちが拭えませんでした。
『グレイン・オブ・ライス・イナ・サバービア』。十代の混乱がよく出た話だと思うので、現役の高校生が読んだ際にはあるいは共感を呼ぶかもしれません。しかし、逆にいえば、その混乱がまだ文章の中に整理されておらず、素のままに流れてしまっている印象でした。たとえば、自分の住む場所を「田舎」といいつつ、自分を「小都会の何処かに落ちている米つぶ」と表現するなど、「田舎」と「都会」の描写ひとつとってもブレが見られ、暴力が扱われても、現実と距離が遠い虚構を見ているようでした。ラスト、友達との会話はとても好き。素直な、本物の言葉として胸に響きました。
『絆創膏ワルツ』。鎖骨と胸の中間に二センチ弱の穴を持つ主人公。この穴を軸に、どんな話が展開してくれるのかと冒頭期待しましたが、物語が予想を裏切らない範囲内にとどまってしまったのが残念です。「穴を持つ」というただそれだけのことで彼女が特別視され、過去の恋人やその娘の気持ちをここまで惹きつけることに違和感があり、彼女自身の寂しさやままならなさ、倦怠感を表すのに、逆にあまりにわかりやすい「穴」などなくても、表現する方法があったのではないかと感じました。文章がわかりやすく、巧いので、次はもうひと味、何か味つけのある作品を期待します。