第13回R-18文学賞 選評―辻村深月氏

 今回の最終候補作どれもに共通していたのが、「偽悪的」であるということです。
 どの主人公も、世の中をどこか斜めに見て、達観したように構え、本音をなかなか語らない、という印象がありました。それが作中で効果的に作用している場合もあれば、あまりに偽悪的過ぎて、主人公を最後まで自分の殻を破れないところに追い込んでしまっている、と感じられる作品もあり、私自身、いろいろ考えさせられました。
 そんな中で、私が最も魅力的に感じたのは、『ただしくないひと、桜井さん』です。タイトルから「ただしくない」と、かわいげのないことを言ってのけてしまう彼は、一体どんな個性の、どんな人なのか。追いかけるうち、子供に接する立場にありながら、彼らの前であたりさわりのない言葉を並べる自分自身を、主人公が持て余す様子がよく伝わってきました。事件もあり、周囲の子供たちも存在感に満ちていて、最後まで、どうなるんだろう、と気持ちを引っ張ってもらいました。ラストの展開にもぐっときます。似た境遇にいる者同士が束の間結ばれるこのラストには評価が分かれるかとも思いますが、同じ痛みがなければ開かれない本音というものも世の中にはきっと確実にあって、主人公にふっとそのスイッチが入る瞬間を見せてもらえたことが、私はとてもよかったです。読者賞、受賞おめでとうございます。
 大賞を受賞した『とべない蝶々』も好きな作品です。強がりと、自分の内なる気持ちへの戸惑いによって冒頭固かった語り口が、花の蕾がほころぶように徐々に開いていく流れが強く、鮮やかでした。教室内の空気も非常によくわかるもので、ラストもおざなりな結論に寄りかからず、繊細に、どこにも行けないこの感じを描いてくれたところに著者の誠実さを感じました。文章もうまく、主人公たちが歩く情景がきれいに頭に浮かびました。大賞受賞、おめでとうございます。
 もう一作、迷ったのは『ゾウリムシの部屋、セックスの部屋』です。展開がテンポよく、余韻の残るラストも絶妙なのですが、前半、一人称の語り口がやや構えすぎで、不倫相手の子供を「娘ちゃん」と呼ぶなど、主人公の強がりにしても違和感を拭えませんでした。書きたいものが明確にあり、実力のある著者だと思うので、あと一押し、味付けのある作品をまたお待ちしたいです。
『ぽんぽん』。母と娘の関係性を描いた作品であるにもかかわらず、もう一つ問題の切実さ、主人公が母に持つ複雑な感情の向こうにあるものというのが伝わってこなかった、という印象です。ヤスオが一緒に病院に行ってくれるところはとても好き。
『彼氏が欲しい処女を捨てたい結婚したい子供を産みたい』。タイトルから度肝を抜かれるのですが、逆に言えば、これだけの作品タイトルを掲げたのだから、タイトル以上のものを見せて欲しかった、というのが正直なところです。子宮が話す、というアイデア自体も新しさはそうなく、そのことで物事が大きく動くわけでなかったことも残念でした。
『猫のたまご』。散漫な語り口、という印象が強く、この話、どうなるんだろう? と思って読み進めてはいても、先の展開を全く期待していない自分に気づく、という読書体験でした。主人公を形成する上で重要な過去についても、必要がないと思ってしまうほど扱い方が浅く、読んでいてどうしても作品に乗ることができませんでした。
 選考の最中に、三浦さんからの指摘で、今回の最終選考作がすべて一人称による作品だったことに遅ればせながら気づきました。なるほどなぁ、と、私が感じた「偽悪的」という印象の謎が解けたようにも思います。
 一人称は、主人公の主観で語る世界であるからこそ、それを生かすも殺すも著者の力量にかかってきます。本音を見せないなら見せないで、信頼できない語り手の妙をうまく生かすことを意識してほしいと思いました。強がりの姿勢が破れて、ふっと垣間見える本音のかわいさやいじましさみたいなものが受賞作にはあり、それ以外のものは、そこが読み取れなかった、という感覚です。
 本音を語れない主人公が揃う、というところには、あるいは今の世の中の雰囲気みたいなものが溶け込んでいるのかも。改めて、とても興味深い選考でした。