第14回R-18文学賞 選評―辻村深月氏

 最終候補作は、どれもそれぞれに著者の思惑や書きたい熱が伝わってくるものでしたが、いざ大賞を、ということになると決め手を迷う選考でした。
 大賞を受賞した『ルーさん』は、言葉選びのセンスが抜群で、訳ありの女性たちが暮らす街中のシェルターのような富士子さんの家の魅力が際立っていました。暴力というものに接しながらも、静かに歯を食いしばるような強さで生きてきた主人公が、なけなしのお金で猫を助けるところから始まり、その彼女の行動が富士子さんの家に招かれるきっかけになるという流れもとてもいいです。ここまで読んで私の頭の中にあった疑問は、どうしてタイトルが「ルーさん」でなければならないのか、ということでした。主人公にとって、恩人であるべき富士子さんを差し置いてまで特別な存在になる、という予感がほとんど描かれていないにもかかわらず、後半、いきなりルーさんがさらされた暴力と、それゆえの変装、主人公のルーさんに対する慈しみといったものが急に現れる展開はあまりにも唐突で、主人公がルーさんを(タイトルに位置付けるほどに)魅力的に感じる部分は、では、彼女が暴力に傷つけられた人である、というただ一点に尽きるのか、というところに乱暴さを感じました。前半に惹きつけられただけに、それを台無しにしかねない展開であると感じ、非常に惜しいという気持ちです。光るセンスがあちこちに見られる著者なので、今後、ご活躍を期待しております。
『くたばれ地下アイドル』は、男性の地下アイドル、という設定にまず興味をそそられ、主人公が地の文で心情を語らないままに彼に惹かれ、近づき、という青春時代の不器用さが、読んでいて悶絶しそうなほど愛おしかったです。しかし、そんな主人公が、前半では自分の思いをだらだらと話してしまうのが、かっこつけにしても重たく感じます。地下アイドルという魅力的な素材を描いているのに、そこに辿りつくまでがあまりに長く冗長だという印象があり、最初から何かつかみになるようなものがあれば、と残念です。着眼点もストーリーも素晴らしいので、次はそれを小説としてどう見せるのか、ということに挑んでほしいです。
 私が今回、一番に推したのは『不祥事』でした。著者は三年連続で最終選考の候補になっています。登場人物の設定や関係性を短い枚数の中でぐっと焦点を絞って描こうとする姿勢にまずは好感を持ち、主人公の身勝手な性格にも著者の思い切りのよさを感じました。大賞に推し切ることができなかったのは、この話のテーマそれ自体が果たして読者に求められているのだろうか、という点でした。その意味で、今回のテーマがやや背伸びをしてしまった感じが否めず、私が魅力に感じた思い切りの良さもかえって裏目に出てしまっているような気がしました。自分が本当に書きたいこと、どんな人たちのどんな声を届けたいのか、というテーマを一度自分の心に問いかけて、また新たなものに挑戦していただきたいと感じます。
『コーラスノート』。主人公が、不倫相手の息子に何も言わずにそっと“二十四の自分であったら慌てただろう”と入るささやかな吐露が好きです。不倫相手の息子とその彼女との三人で作る場の雰囲気もいいのですが、短い枚数の中では、作内で時間に沿って三人の関係を作っていくよりも、冒頭ですでに関係ができあがっていてもよいのではないかと思いました。主人公自身に成長も前進もない状態で、ラスト、「真っ白い厚紙が、新しい模様を待ってそこにいた」と結ぶ流れにもミスマッチなものを感じ、あと一歩、作品に乗ることができなかったという印象です。
『プルースト効果の実験と結果』。冒頭から読者を引きつけるような一文を用意して、読ませよう、という著者の意欲と企みを強く感じました。繊細な恋の思い出と失恋、そこから折り合いをつけていくということについてとても丁寧に描いているのですが、同じような経験をした読者にはきっと響くと感じられる作品である一方、そうでない読者には新鮮さや驚きに欠けると感じました。
『笑って欲しくて』。女だから、女だって……。そうした女性のしがらみのようなものがあらゆる角度から描かれ、女性の生きにくさと正面から対峙しようとした小説だと思います。しかし、ひとつひとつの問題の扱いがとても薄く、箇条書きにしたものを読まされているような浅い印象でした。女芸人を目指す、という彼女の望みが、そのまま彼女が直面する状況を打開する鍵になるとも思えず、魅力を感じることができませんでした。