選評 第16回R-18文学賞 選評―友近氏

映像がひろがる作品

 文字を追いながら、映像がふっと思い浮かんでしまうような作品が好きです。今回、もっとも情景が鮮やかに頭の中に入ってきたのは、伊藤万記さんの「月と林檎」でした。投げた林檎を取り損ねるシーン、グラウンドを見つめる先生の表情、殺風景な美術準備室の様子……文章を読むだけで、わっと目の前に映像がひろがり、著者の筆力を感じました。
 そうした描写力に加えて、たとえば知らない間に自分の絵を描かれている場面など、読みながらゾクッ、ドキッ、とする感情が何度か訪れるのもよかったです。絵を描かれているときの、見る/見られるという関係性には、緊張感と、少しのエロティックさがありますよね。だからこそ、二人の間にそれ以上の何かが起こらない、というのがとてもよかったです。何もなかったのに、先生の部屋に行ったことを、彼女はきっと誰にも言っていない。その、「秘め事」感もすばらしかったです。だからこそ、先生が本当は彼女のことをどう思って見ているのか、とても想像力を掻き立てられました。
「ストーム」も、すごく想像しやすい作品でした。幼馴染の女性と会っていても、うちの嫁は理解があるから、みたいなスタンスでいる男性の行動、膝を打ちたくなるほどよくわかります。大賞に選ばれた「アクロス・ザ・ユニバース」も、面白かったです。主人公の両親の描写がこれまた真に迫っていて、「この家では育てられたくない、絶対嫌やなー」と思うほどでした。
「月と林檎」は、視線とか「見る」という行為を、とても意識して、冷静に書かれている作品でした。これから書かれる小説も、楽しみにしています。


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