女による女のためのR-18文学賞

新潮社

選評

第18回R-18文学賞 
選評―友近氏

「あるなあ」と思えた作品

友近

「どうしようもなくさみしい夜に」が、読んでいて一番ドキッとしました。
 高校入学を間近に控えた男の子・夏希と、彼を一人で育ててきたシングルマザーの母は、お互いを思い合っています。主人公である息子は、母のことを愛している。とてもかけがえなく思っている。でも彼は、母の風俗嬢という職業を、人に知られたくないとも思っている。それは仕方のないことでしょう。私も自分がその立場ならきっと、そう思ってしまうと思います。夏希は、セックスワークが憎いと思いながら、その収入によって育てられた自分がいて、さらにそこに興味を持ってしまう自分もいて、そういう複雑な感情の中で、歪んでしまってもいる。そして、元中学教師で、その前は風俗嬢をやっていた、今は駄菓子屋の店番をしている先生に、縋ってしまう。そういうことってあるなあと思うんです。
 私の地元である愛媛県には、日本でもう三軒しか残っていないという温泉地のストリップ劇場があります。地元に帰るたびに、とまではいきませんが、一年に一度は行くことにしています。何度か通ううちに顔見知りのストリッパーさんもできたのですが、そのうちの一人に、40代の、明るくかわいらしいストリッパーさんがいます。彼女には一人息子がいて、終演後に話していたりすると、その息子さんとすごく仲がいいのが伝わってくる。でも、そこに至るまでの道は、もちろん平坦ではなかったはずです。小屋では、そんなことは一切聞かないし、彼女も話さないけれど。一度ストリッパーをやめ、また復帰した彼女のことを、このお話を読みながら、思い出していました。
 そんな、「こういう生き方、あるなあ」と一番胸に迫ってきたこの作品を、友近賞に推しました。他には、「赤い星々は沈まない」も、ドキッとする場面がたくさんあり、気になった作品でした。大賞を受賞されたと聞き、嬉しく思っています。(談)