女による女のためのR-18文学賞

新潮社

選評

第20回R-18文学賞 
選評―友近氏

キャラクターの魅力

友近

「アイスと白蛇」。娘が母に頼まれて、父の浮気相手の家に様子を探りに行くも、ひょんなことから不思議な交流が生まれていくところまでは、とても引き込まれて読みました。浮気相手の瞳さんは色素が薄い、外国人に間違われるような人とあって、五社英雄監督の映画に出てきた真行寺君枝のような感じかな、など、映像を思い浮かべたりしながら。
 ただ、途中から彼女が定型的な「悪い女」としてのみ描かれているように感じ、それが残念でした。「不倫する女を悪い女として描く」こと自体はありだと思いますが、その前のやりとりを踏まえると、何か「私」に対する情や優しさのようなものも描かれてもよかったのではないかと感じました。
 それにしても、娘である「私」の気持ちを考えると複雑ですよね。文中にも「まともなお願いじゃな」いとありましたが、中二の多感な時期におかんにこんなことを頼まれて、行ってみたら浮気相手に優しくされて……そうしたことで揺れ動く彼女の気持ちはよく伝わってきました。
「スターチス」の世界観も興味深かったです。作中で描かれる「大人旅行」が、私が知らないだけで今はもしかして本当にあるのではないかと思ってしまうほど、リアルな手触りがありました。
「ありがとう西武大津店」。今回は迷うことなくこの作品を友近賞に推しました。地元のデパートがもうすぐ閉店する、という身近な話を切り取って、こんなにしっかり最後まで楽しめる小説になるんだ、と感動しましたし、短編としても読みやすく、非常によく整理された印象を受けました。
「いつだって」「変」な成瀬が、8月1日から一か月間、閉店する日まで西武に毎日通うと宣言し、友達である「わたし」に、ローカル局の中継に毎日映るから、できる時はチェックしてほしい、と頼んでくる。キャラクターが立っていて、ブレがなく魅力的です。読みながら、この二人にインタビューしないテレビ局のクルーにだんだん腹が立ってきたほど(笑)。毎日いるのに最後までインタビューしないって、製作側もたぶん意地になってるんでしょうね。成瀬はこんなに面白いのに、業界人って結局見る目ないんやな! とか、そんなことまで思わず考えるほど、感情移入してしまいました。ライオンズのタオルをあげようとする女性の気持ち、すごくわかります。
 成瀬の発想は変わっているようでいて、でも考えてみれば、10代のひと夏で何かを達成することって、大きいですよね。ラジオ体操でもなんでも、「毎日これだけは続けられた」ということは、成し遂げた経験としてずっと残るんじゃないかと思います。
 はからずも、以前に友近賞に選んだ「県民には買うものがある」と同じく、こちらも滋賀のお話。滋賀にはそういう土壌があるのでしょうか。滋賀の才能あるお二人のご活躍を、今後とも楽しみにしています。(談)