女による女のためのR-18文学賞

新潮社

選評

第23回R-18文学賞 
選評―友近氏

予想外に感情を揺さぶられた作品

友近

 今回の候補6作はどれもそれぞれに個性的で異なる魅力があり、迷いました。
「西瓜婆」。不思議な作品でしたね。昔、テリー伊藤さんが総合演出をやっていた「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」という番組がありましたが、あそこに出てきた半魚人みたいな、フェイクをドキュメントにしている感じが、とても面白かったです。
「これをもって、私の初恋とします」。時間の経過がややわかりにくく感じましたが、主人公が大人になってからの、ドラマのような、恋愛ごっこのシーンが特に良かったです。私が普段コントでやっているような、夫婦役や恋人役のセリフの応酬を、たとえば横でたまたま聞いている人がいたらどう思うやろな、と考えることがあるのですが、まさにそういうシチュエーションですよね。面白く読みました。
「褪せる」。当初は、この作品を一番に推そうかと思いました。ヘルスで働く主人公を取り巻く、気持ちが沈んじゃうような世界。でもそこで生きている、抜け出せない人たちの話が、リアリティを持って迫ってきました。よっちゃんの外見の描写もよく、顔がありありと想像できました。
「息子の自立」。これも凄みのある作品でした。障碍者の息子に障碍者専用風俗嬢を頼むところから始まる話ですが、ここで描かれる関係性や行為は、一言では言えない複雑さがあり、だけどこういうことが実際あるんやなあ、と考えさせられました。文章から、すごく画が立ち上がってくる作品でもありました。ぜひ映像化されてほしいし、それやったら、私は息子のお母さん役か、風俗嬢のほうのお母さん役か、どちらか挑戦させてほしいな、などと思いながら読みました。この作品が大賞に決まったと聞き、納得です。素晴らしい作品でした。
「姉妹じまい」。姉妹や兄弟であっても、こんなふうに相手のことを知らない、パーソナルなことは意外と見えていないことって実は多いのかもな、と思わされた作品でした。
「君の無様はとるにたらない」。最初は正直、よくある感じのお話かな、と思いながら読み始めました。高校生の多感な時期の、やや潔癖な女の子の話。ストーリーとしては、特別にドラマチックなことが起こるわけではないし、こういう環境の子、いるよなあ、寂しい者同士で一緒にいるとかも、あるよなあ……としみじみ思いながら読んでいたのですが、後半で急に、うわーっと感情が昂って、涙が出てしまいました。それで、この作品にしようと決めました。
 不倫した末に離婚したパパから、主人公が毎月渡される5万円。パパにとっては、申し訳ないとか、自分のやったことの代償、みたいな気持ちが含まれたお金なのでしょうが、主人公にとってはそうじゃないんですよね。もらった子供の気持ちって、今まであんまり考えたことがなかったなあ、お金の持つ意味合いというか、慰謝料や養育費って一体なんなんやろ、ということを考えたりもしました。大人同士、夫婦の当人同士なら、その関係を壊された側がもらって当たり前なのでしょうが、子供となると、またちょっと捉え方が違う。たしかに、パパはそれでスッキリするかもしれないけど、もらった主人公の方は、毎回その5万円について考えさせられるし、見るたびになんか嫌な気持ちになる、ぐっと締め付けられる、そういう積み重ねを、ずっとやってきたんだろうなと。毎度のこのこともらってしまう自分のことも嫌、という感じなんでしょうね。
 そういう、ずっと言えなかった彼女の想いが流れ込んでくるような、最後の長いセリフを読んでいるとき、自分でも予想外に、読み進める手が止まり、突然涙が溢れました。私の中でも急展開で、他の作品のインパクトを超えて、感情を揺さぶられた作品です。(談)