女による女のためのR-18文学賞

新潮社

選評

第25回R-18文学賞 
選評―東村アキコ氏

今年の選考も白熱しました

東村アキコ

 四年前からこのR-18文学賞の選考委員をやらせていただいて、今回で五回目ですが、小説の選考というのは、いくつもの“上手い作品”の中からまだ名前のついていない価値を嗅ぎ分ける、こちらのセンスが問われるお役目だと思うようになりました。
 完成度だけを基準にしないように、しかし新しさだけを追わないように。そのあいだで揺れつつ、「いま、この作品を選ぶ意味があるか」を問われ続けながらの選考委員は責任重大です。私にとっての選考とは、技術の評価であると同時に、時代への応答でもあります。

 そういった意味で大賞の「水を得にゆく魚」は、ちょうどいいバランスの作品でした。感情に訴えすぎず、しかし確実に心を揺さぶる、誠実な力を持ったいい作品でした。
 地味な話かと思いきやリカさんの空港でのラストシーンにやられましたし、私としてはけっこうなドンデン返しをくらったなと。エンタメ的にもサービス精神のある作者さんだなぁと感心しました。他の作品も全て面白かったのですが、完成度と新しさのバランスにおいて、まさに今、選ぶべき作品だろうと思い、この作品に決めさせていただきました。

「タコのハナシ」も非常に面白く読みました。田辺聖子さんの小説が大好きなので、新しい世代の書き手が紡いだ軽やかでユーモラスな文体の作品が読めてワクワクしました。大賞候補となり最後まで迷ったのですが、申し訳ありません。またぜひ、なにか、この方にしか書けない「現代感覚」のようなものを、少しだけプラスしてもらって、もう一度この賞にチャレンジしていただきたいなと思います。

「取り憑かれトリッパー」、わたしこの作品すごく好きで、なんか、めちゃくちゃ惹かれました。よくある話ではあるのですが、今の読者さんはこういう作品を求めているのではないかという、つまり、売れる匂いがプンプンしました(笑)。
 私はこういう分かりやすいスタイルの小説がすごく好きです。ただ、やはり設定的なものを少し詰めきれてない部分を感じたので今回は賞を出せませんでした。しかし、またぜひ次回作が読みたいです。

「曇る母へ」は、優しそうなお母さんと娘の他愛もないやり取りを通して、読者はその中に貧しさや、幸せな人生への祈りみたいなものを感じます。しかしそれがなんかめっちゃうとましいという酷い感覚も呼び覚まさせられる。そこに作者の筆力を感じました。友近賞にふさわしい完成度で、心をぐりぐりされる作品でした。

「夜明けとマヨネーズ」は、選考会でも話題になったのですが、登場人物の男性──久世の描写が、絶妙に軽くて意地悪で。
 単なる無神経な男ではなく、「わざと踏み込んでくるタイプの失礼さ」を持っている男を書けるというのは本当にセンスがいいんだなと思いました。キャラクターを書くのがうまい方なので、どんなジャンルでも世界観でも、可能性は無限だと思います。

 本年の応募作は、いずれもテーマも手触りも大きく異なり、互いに比較すること自体が難しい、きわめて個性豊かな五作品が最終選考に残りました。それぞれが異なる角度から現代を切り取り、異なる言葉で世界を描こうとする意志に満ちており、選考は最後まで拮抗したものとなりました。応募してくださった皆様、来年もぜひお待ちしております。どうか書き続けてください。本当にありがとうございました。